転移者
「お前…今ゲームって…」
人狼から出た単語を聞き、零断は初めて隙らしい隙を見せる。しかし、人狼もそこに攻めてこない。久しぶりの強敵とはしっかりと戦いたいのかもしれない。
「ああ!ゲームだ!この世界にはない最高のものだっ!人はいくらでも殺せるし、殺したぶんだけ強くなれるっ!ほんっと最高だったよ!」
この言葉を聞いた時。零断は正直に思った。
【こいつは…狂っている。それが地球にいた頃からなのか、リスパルタに来てからなのかはわからないけど、こいつは確実に狂っている。】
人狼は話を続ける。
「けどよ!新しいゲームをしようとしたらいきなり嵐の中よ!偶然雨宿りできる場所があったから生き延びれたが、普通は死んでるだろうなぁ〜〜。さらに、俺は飯も食わなくていい!だって俺は魔物に生まれかわったみてぇだからな。」
この人狼は零断と同じく新ゲームにログインしようとしたら転移したらしい。多分GSOだろう。
「なんなんだ…お前は…」
無意識にそう言葉が出てしまう。すごく小さな声だったはずなのにそれを聞き取り、人狼は答える。
「あ?俺が何かって?今のおりゃ人狼なのかもなぁ。人狼討伐って来る奴らが多いしよ。」
【こいつは…自分が討伐対象だとわかっている。自分を討伐に来た人たちを全て返り討ちにしたのか?まさかっ!】
零断は同じ同郷の人がやるとは思えないことが頭によぎる。
「まさか…人を…」
やはり呟いてしまう。
「ああ。殺したさ!初めて殺した時の快感は忘れられねぇよ!これが人が死ぬ時の表情だってな!クックック…テメェはどんな声を上げるのか楽しみだぜ。」
そう言って人狼は舌舐りする。もう戦闘モードに入ろうとしている。
零断的にはもう少し情報が欲しい。狂っていたとしても同郷の人間と初めてあったのだ。
人を殺したことは許せることではないが、情報だけでももらいたい。
零断は人狼を殺そうと思っている。この人狼は人にとって害悪でしかない。そして、今はもう人ですらない。ただの魔物だ。
そう思い、情報を聞き出そうとする。
「元は人間だったのか…なら名前とかもあるのか?」
少し違和感があるかもしれないと感じ、いつ戦闘になっても対応できるように身構えるが、そんなことはなかった。
「ん?名前か。キャラネームだろうな。おれの名前はマグネス。『血に飢えた殺人魔』(ブラッディデモン)だ。ま、覚えても死ぬだけだからあんま関係ないかもな。おれに名前を聞いたならお前も答えろよ?」
零断はこの名前を知っている。いや、この名前を知らないものは少ないだろう。
マグネスはPK。いわゆるプレイヤーキラーだ。プレイヤーを殺し、その経験値やドロップ品を奪う者といったところだろう。
しかし、基本PKは中レベルのプレイヤーを狙う。
まずまず、GFOは簡単に4段階の強さに分けられている。といって、自称や、周りからの判断なので確かではない。
まず、零断や涼音などがいた『最前線』。
アップデートされた直後からサイトがその情報を出す前にそのダンジョンやクエストをクリアする者達だ。
その殆どの者はユニークスキルを持っている。
また、ユニークスキルを持っている者を最前線と呼ぶこともある。
500〜600レベルが多い。
ちなみに零断は700レベと、ほぼトップレベルである。最前線にいたとしてもピンキリあるということだ。
次に『高レベルプレイヤー』。
これは基本ユニークスキルを持たないの者達だ。
基本200〜300レベルである。
なぜ400レベルがいないかというと、殆どの者が300レベルを超え、少しするとユニークスキルを受け取るからだ。
ユニークスキルを受け取ると、その力で400レベルをすぐに超える。
よって、400レベル層が非常に少ない。
その次が『中レベルプレイヤー』だ。
この時期が一番PKに襲われやすく、対人戦闘に慣れる頃だ。
レベルは100〜200。脱初心者ってところである。
最後に『低レベルプレイヤー』。普通に初心者と呼ばれている。
実際100レベルになるためにも相当な時間をつぎ込まなくてはいけない。
これが、長年やっているゲームだからこその特徴なのだろう。
話を戻そう。先にも言ったように中レベルプレイヤーはPKに狙われやすい。
その理由は確実に勝てるからだ。
PKを一定回数以上するとあるスキルがついてしまう。その効果は自分が対人で倒された時のデスペナリティが多くなるものだ。
つまり、いくら強い敵と戦い、負けると非常に大きなペナリティがつけられるということだ。
しかし、マグネスはその常識を覆した。
もともと中レベルと高レベルの間くらいを多く狩っていたマグネスは『血に飢えた殺人魔』のスキルを得る。
すると、マグネスはPKギルドを作り、高レベルプレイヤーを狙い出したのだ。
マグネスが得た『血に飢えた殺人魔』のスキルはマグネスにぴったりだったのだ。
そのスキルは
《自分が殺したプレイヤーのレベルのぶんだけ自分のステータスがアップする。》
というものだった。
もちろん、一度モンスターにでもプレイヤーにでも倒されてしまえばその溜めたレベルはなくなる。
しかし、倒し続ければどうなるか。
マグネスは同じようにPK用のユニークスキルを手に入れたものと共闘し、高レベルプレイヤーを安全に殺していった。
そして、その刃は最前線にも届くほどになった。
最前線ですら恐怖を覚えるほどまでに強くなったマグネスには最前線のボス討伐会議で話題に上がるほどになった。
結果的に、零断と涼音、親友の3人と偶然出会い、戦闘になり、零断がとどめを刺した。
マグネス達は討伐に向かうところだったようで10人ほどいたのだが、親友の圧倒的な防御力と攻撃力。涼音のデバフと巧みな攻撃。そして、零断の瞬間的な攻撃力という最強な陣形により倒されたのだ。
しかし、マグネスはその時最後まで戦った。いや、マグネスだけが3人の1度目の攻撃を耐え抜き3人に攻撃したのだ。
そして、3人がかりでマグネスを止めたのだ。
この出来事が約2年前である。
その後はこのようなことになる前に定期的に討伐の話が出されるようになった。
まずまず、最前線の中でもトップレベル。しかも、長年連携しているこの3人でやっと倒せるレベルなのだ。そこまでなってしまったら何人殺されてしまうかわからない。
【はは。それほどの相手が今俺と一対一で対面してるんだよな…】
と零断は思う。
今マグネスに自分の正体を言うか、言わないか。それがなかなか決めることができなかった。
するとマグネスがさらに話し始める。
「ハァァ。早く話せよ。もしかしてこれだけじゃあ足りないってか?お前どんくらい大層なやつなんだよ。」
沈黙をそう感じてくれたようだ。零断はただ迷っていただけなのに。運が良いのか悪いのか。
「この世界に来てからもう2ヶ月経ったかな。俺の体はプレイヤーを殺せば強くなるっていったろ?この世界に来てからはプレイヤーではなく、そこに転がっている白い狼を殺したら強くなったんだよ。いや、正確には違うか。この森内で白い狼が死ぬと俺が強くなれたんだ。まぁとりあえず自分の能力を知りたかったからいろんな奴を殺してたら気づいたんだがな。そしたら人間が来た感覚がしてな。まぁ感覚だ。よくわからん。それで人間達と会話したんたら最近魔物の量が大きく減ったらしくてその原因を求めに来たらしいんよ。と言うわけで、お前と会った時みたいに協力を仰いだわけだ。白い狼がやってるってな。今は人狼イコール白い狼っつってるけどな。ま、俺の正体がバレたらすぐに殺したさ。」
つまり、白い狼が死ねば自分は強くなりその協力を人間にさせていたわけだ。
しかし、その協力した人間は全て殺したと言うわけだ。
零断は人を殺したといったといっても、戦闘になりしょうがなく殺したのかと思っていた。
だが、そんなことはなく、自分が強くなるため。自分の邪魔になるから“なんともないように”殺したのだ。
零断から怒りが出てくる。
「そんな理由で人を殺したのか!」
つい怒鳴るように声を出してしまう。
それをマグネスは軽く受ける。
「ああ。そうだが?邪魔なら殺す。それだけだろ?」
「そんなんで人を殺して良いと思っているのか!“この世界”の人は一度死んだら生き返らないんだぞ!」
人を殺すことを当然のように言うマグネスにさらに怒りを覚え、重要な単語を使って怒鳴る。
「へぇ。“この世界”ね。お前も地球から来た人間なんだな?」
マグネスは当然その単語に反応し、聞いてくる。
零断は覚悟を決め、自分の名前を言う。
「俺の名前は『ゼロ』。『深夜の暗殺者』だ。貴様は人間の害でしかない。この場で殺させてもらう。」
そして、今まで出していなかった明らかな殺気を放ち改めて戦闘態勢をとる。
それにマグネスは
「くくく。くはっはっはっ!てめえゼロか!前にお世話になったなぁ〜。あの時のデスペナとか、キル数を失うのは結構きつかったんだぞ?あの後はうまくキル数稼げなかったしなぁ。あの時の報復と行こうか。ここで死ぬのはお前の方だぜ?」
零断とマグネスの第2セットが始まった。
これ二週間連続投稿になっちゃうやつ?
ためが切れそうなんだけど…