え…これ怒られるんじゃね?
自分でもこんなことになると思ってなかったよ…
今、零断は野原と言えるかどうか定かではないが、森へ走っていた。理由はもちろんナンパ…じゃなくて討伐だ。
【そういえばこのクエストのランクを聞き忘れていたな。まぁいいか。】
意外と大切なことを聞き忘れているが、やはり無視する。
現在40分ほど走っている。もうそろそろ見てもいいんじゃないかな…と、零断が思っている時にちょうどよく森がが見えて来た。
森は大きく、前方全て森だ。名前はないらしい。これも帝国と王国が自分たちで名前をつけようとして、言い合いになり、片方は片方ずつで名前をつけているが、普通に暮らしている町人はただの森と呼んでいる。もし隣の国から人が来た場合言い換えるのがめんどくさいからだ。
というわけで零断は森の名前を知らない。
そして、ついに森についた。零断は索敵と隠蔽を発動する。
【もうそろそろこの『索敵』とか、『隠蔽』にも名前つけないとな…ネーミングセンスないけど】
と、思っていると1人の気配を感じた。まずはそちらの方向へ向かってみる。多人数だったら盗賊の可能性があるが、1、2人の場合はほとんどないので情報交換をしに行くのが普通だ。
そのことを零断は伝えられてないので盗賊だと全く思ってないだろうが。
零断は森の中を入って行く。
少し歩くと人影が見えて来た。一応隠蔽はといておく。
もう少し近づくとその人もこちらに気づいたのか振り向く。そして手を振って来た。
「おーい!聞こえるかぁー!」
大声も出して来た。それに零断も答える
「おう!聞こえてるぞー!」
と言って小走りで走る。ライトニングムーブは無しだ。そんな簡単に手の内は見せない。そこはゲームで学んでいる。
普通に話しても聞こえるくらいの距離になるとあちら側から声をかけて来た。
「よう!お前も例の人狼討伐に来たのか?」
どうやらこの人も人狼を討伐に来たようだ。
「ああ。そうなんだよ。何か情報があったら教えて欲しいんだけど…」
と、気が弱そうに話しながらさりげなく情報を聞こうとする。
これも零断が使っていた技だ。新イベントの時とか出遅れた時にサブアカウントを使って情報収集の時に使っていた。
それに相手は潔く答えてくれた。
「ああ。人狼は基本狼形態だ。白くて、大きさは高さ50センチで、横はわからん。めちゃくちゃはえーから気をつけろよ。」
零断は頭の中に人狼の大きさをイメージする。
あまり大きくはないようだ。しかし、ちょうどいい小ささで早く動いてくるのは厄介だ。範囲攻撃が有効だろう。
と、そこまで考えていると人狼と呼ばれる由来がわからなくなった。だからもう一度尋ねる。
「あの〜。この魔物はなぜ人狼と呼ばれているのかわかる?今言われた形をイメージしても人狼と重ならないんだが。」
「ん?あーそれは人狼は満月になると活発に人間や魔物を襲うんだ。満月の日の朝から晩までな。だから満月が終わってすぐに俺は来たんだ。あと二週間くらいは満月が来ないからな。まぁ、満月じゃなくても相当強いから覚悟しておいたほうがいいぞ。」
【ご丁寧な答えをありがとう】
と、思いながら気の弱い人を演出する。気の弱い人は聞いたけど後ろめたくなるのだ!
「了解だ。いろいろ教えてくれてありがとう。けど、こんな情報教えていいのか?」
「ん?なぜそんなこと聞くんだ?」
「いやだって、聞いたのはこっちなんだけど、一体倒したらそっちの手柄がなくなるだろ?」
「いや、だって人狼1匹じゃないし。」
驚きの情報だった。けど、人狼は1匹って言ってたような言ってなかったような…
現地の情報の方が確実だろうと思い、納得する。
「それじゃあ俺は行くぜ。そっちも死なない程度に頑張れよ〜。」
「ああ!ありがとな!」
そう言い、2人は別れた。
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「さてと。情報もゲットしたし探しますか。」
わざわざ声に出して気合いを入れる。気弱モード終了だ。脳が許すギリギリの範囲で索敵を開始する。隠蔽は使っていない。それに使う範囲が無駄だからだ。
先程あった冒険者は零断と逆方向へ進んでいる。なのでそちら側を無視して零断は自分が向いている方向に感覚を傾ける。何匹か動物や魔物がいるようだ。とりあえず魔物を殺しに行く。その魔物はトレントのようだ。魔力が高い森林などで発生しやすい魔物だ。種類は多くいるが、まだ零断には知識がないのでトレントとしかわからない。
そのトレントの場所までライトニングムーブで移動し、通り側に断ち切る。それで終了だ。
もう零断はトレントのことなど意識にはなく、次の獲物へ標的を変える。そこら辺の切り替えもゲームだ。この世界に来てからの初めてのその狩り。相手に合わせる必要はなく、思う存分戦えるし、移動できるのだ。零断の魔力総量は非常に多い。ここ2カ月毎日魔力を使いきり、回復させて来たからだ。さらに、波動者のブーストなのか神職が決まってから魔力総量が大幅に上昇した。一日馬鹿みたいな量を使っても大丈夫なまで増えた。
よって、零断はライトニングムーブと索敵、身体強化を常時使用し、戦うときは波剣技も使用している。
そして、次々に魔物を斬り伏せて行った。
しかし、肝心な人狼が見つからない。もうそろそろ日が暮れる。
グレンとウィリアムはどうせ心配していないだろう。
しかし、零断は野宿の準備をしていない。それまでに終わると思っていたのだ。
【よく考えればゲームだと強敵がいる場所は基本決まってるけど、リアルは決まってないじゃん。ああ〜そこ間違えたのか…今日は木の上にでも寝るかなぁ。食料は動物狩りゃいいや。】
今日の野宿は覚悟する零断。
今のうちに動物を1、2匹狩っておこうと索敵を開始する。
昼に出会った冒険者は意外と近くにいた。約2キロほどの場所にいる。零断の最大索敵距離は約5キロである。多分冒険者の寝床がそこなのだろう。だからと言って一緒にはならない。寝ている間に何かされては大変だ。一緒に寝るのはパーティメンバーや、ギルドメンバーである。信用できない人を無防備な状態で近くには置いておけない。それが基本だった。
一旦冒険者のことを頭の中からどかし、動物を探す。と、1キロほどの場所に熊を見つけた。冒険者がいる側だ。遠慮なくそちらの方へ走る。そして通り側に首を断ち切る。よくアニメであるような『首がポーン』を実現させた。
零断はそいつの前足2本を固定させ、後ろ足の2本も固定させる。今回は魔石がないことは確認済みだ。
そして零断はその上にある木の枝にジャンプして飛び乗る。
枝が生い茂ってるところに実感知状態の波動の板を置く。もちろん切ったり吹き飛ばしたりしない普通のやつだ。いや、普通ではないかもしれないが、無害なただの板だ。もちろん透明なので、下が見える。
その下が見える場所に周辺の太い枝…いや、これはもう幹と言っていいレベルのものをすごくうまく組み合わせて行く。
そしてできたのがどこかにありそうなツリーハウスだった。太すぎる幹を平たく切り、よくありそうな板にする。それを横に並べ、地面を作る。低いが多少の壁も作り、あとは動物の皮などを紐替わりとして薄く切り結ぶ。そして固定すれば完成である。
【そう言えばあの念話って遠くにも届くのかなぁ】
と思いながら念話を発信する。
《あーちょっと今日俺クエスト出てるせいで町帰れんわぁ》
すると
《テメェは馬鹿かぁぁ!!!!ふざけるなっ!何が帰れないだ!》
《…流石零断じゃな。もうわしには手が追えん。無事に帰って来るのじゃ》
【…あれ?届いちゃったわ…これ絶対帰ったら怒られるやつじゃん。】
零断は深くため息をつく。
【というかさ、なんでグレンに送ったの初めてなのに対応できちゃってんのあいつ。セリアとかおばちゃんは対応できなかったのに。本当にあいつらのステータスおかしいよ。】
人のことを言えない零断。
とりあえず、零断は索敵を無意識状態で行いながら睡眠をとることにした。
あと何話だろうなぁ