零断式お仕置き
黒歴史。それは零断が酔っている時にグレンが聞いた話だ。
…実際零断は黒歴史だと思っていないが、グレンから見たら恥ずかしいことだったらしい。
それは……零断のGFOでのユニークスキル
“深夜の暗殺者”(ナイトアサシン)
という名前である。
グレンはこれを二つ名だと感じ、聞いた時には大爆笑した。この世界は魔法などはあるのに厨二感はないようだ。
そして、それをセリアに話され朝零断が起きて廊下への扉を開けると
「おはようございます!“深夜の暗殺者”さん。」
と挨拶された。すぐさま閉じた。また開ける。
「どうしたんですか?“深夜の暗殺者”さん?」
また閉じた。零断の顔は真っ赤である。セリアに楽しそうに言われるとなぜか恥ずかしいからである。そして、少し経った後また開けると
そこには誰もいなかった。零断は一息つき、リビングへ行こうとしたら後ろから抱きつかれた。
「アサシンたる者相手の背後を取るべしです。」
「…お仕置きが必要だな。」
「え?ちょっと待ってっ!きゃっ!」
零断は背中からセリアを綺麗に剥がし、お姫様抱っこして自室へ逆戻りした。
今日のセリア家の朝はセリアの喘ぎ声から始まった。
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零断は現在機嫌よく朝食を食べている。しかし、その隣にいるセリアは違った。体が火照り、顔を赤くしながらチラチラと零断の様子を伺っている。
なぜこのような状況になったかというと、零断はやる直前までしかやらず、そのあとはきっぱりとやめてしまったからだ。そのせいでセリアはずっとムラムラしているのである。
これが零断式お仕置き。夜にはやってあげるつもりだが、それまでが結構きつい。
セリアにとってなかなか進まない朝食であった。
セリアが4分の1ほど食べ終わったらところで零断が席を立つ。
「ど、どこに?」
恥ずかしそうにセリアは零断に聞く。聞いている時のセリアは腿をもじもじと擦り寄せている。その光景は零断にとってご褒美であり、からかいたくなる。
「普通にグレンと訓練だよ?まぁ、今日は夜くらいまで帰らないかなぁ〜。」
もちろん嘘である。グレンとの訓練は1時間ほどあとだし、それも昼には帰ってくる。しかし、セリアはそれを真に受けたようで
「ちょ、ちょっと待って…ください…。」
と言ってセリアは零断の裾を弱々しく掴む。
それに零断は
「ん?どうした?」
と、素っ気なく答える。すると、セリアは零断の理性を削る攻撃をする。
「まだご飯を食べ終わってないですよ?」
「ん?いや、全部食べただろ?」
「ふふ。ご飯は全部食べましたね。けど、まだ残ってます。」
セリアの言葉に食べ終わった皿を見ながら答えると、妖艶さを身に纏って近づいてくる。
やばい!と思った時にはもう遅く、長くあつ〜いキスを貰う。
「んっ。ぺちゃ。くちゅ…あっ。」
するだけで理性がどんどん削られるが、力が入らない。なぜだろう。
そして、5分以上のもしかしたら10分以上やっていたかもしれないキスを辞めた後には銀色の線が伸びる。そして、セリアは微笑みながら
「私を食べ忘れてますよ?」
零断は理性に負けた。
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今日も零断とグレンは町外れにいる。次の波動の練習だ。
次に覚えようとしているのはとうの昔に零断の頭から忘れ去られていた『魔剣技』である。
グレンに魔剣技は弱いと言われてから意識すらしていなかったのである。
何故魔剣技が弱いかというと、剣での戦闘中に詠唱してる暇なんてないからである。詠唱している間に切られて終わりである。
稀に魔剣技を使う人もいるが、そういう人は勝つ確率が非常に低い。
しかし、魔剣技を使うことができればその圧倒的な力によりほとんどの確率で勝つことができる。
剣に炎を纏わせれば自分は感じないその熱で相手は火傷をする。風を纏わらせれば切れ味や、振る速さが早くなったり。
つまり魔剣技を発動させることができたら勝ち同然というわけだ。
零断は魔法をほぼ無詠唱で出すことができる。なら、魔剣技もほぼ無詠唱で使えるのではないのか。そう考えた訳である。
実際、ボルケニクスを倒した時には剣の周りに波動が纏われていたので無意識に魔剣技を使っていたのだろう。
というわけで、魔剣技を意図的に出す練習をグレンとする。
グレンはグレンで零断のほぼ無詠唱を取得するために努力中である。
ほぼ無詠唱。これからは最短詠唱というが、今のところはグレンと零断しか知らない技術となっている。下手して王国に知られると何をされるかわからないからだ。王国貴族は自分のことしか考えていないので、情報はなるべく伏せる必要もあるのだ。
グレンは自分がマスターしたら部下に教えると言っている。
それがよかったのか、悪かったのか。それはこの世界の神が決めることである。
話を戻そう。
零断は実際無意識に魔剣技を使ったことがある。ボルケニクス戦だ。あの時あのボルケニクスが吹っ飛んだのは波動のおかげだ。その後の異常な切れ味も、コンヴィクスだけではありえない。通常変異種になった魔物はその国の軍が倒すレベルなのだから。
そういうわけで、零断は圧倒的な魔剣技という力を使えるのである。
しかし、今回の訓練はそれを使えるようになるのでない。使いこなせるようになるのだ。
もし、相手が人間だったとしたら、基本魔剣技を受け止めることはできないのだ。しかも零断は雷魔法での身体強化で非常に早い行動をすることができる。つまり、非常に早い動きで圧倒的な力を振るうことができるのだ。
ならば、それを使いこなさなければ望まぬ死を招くことになりかねない。
よって、零断の波動による2つの魔剣技を使いこなすことを今後の目的とすることになった。
そして今日。まずは切れ味の変化を使いこなすことになった。
コンヴィクスは大きな感情がなければ反応しない。反応しなければ通常の剣より上質くらいだ。と言ってもウィリアムの傑作なので非常に良い剣なのは変わらないが。
相手の剣、または盾などの強度を考えて力を調整する必要があるのだ。
【まぁ、見ただけで強度がわかるわけがないがな。】
具体的な訓練は、ただただカカシにかけた剣や盾、鎧などをカカシを切らないようにに切るのである。切る武具防具はウィリアムの失敗作だ。しかし、上質な素材なので強度は保障されている。
そして、午前中は手探りでやり、飯を食って午後は本格的にやることになった。
というわけで午前はひたすら切り続けた。
と言っても最初の方は魔剣技の感覚を思い出せず、難攻していたがグレンにアドバイスを何個かしてもらい、感覚を一度掴んだ後は簡単だった。ただただ切って切って切りまくった。もちろんカカシも一緒に。
そんなことをしていたら午前は終わった。
正直午前は零断もグレンも遊びだと思っている。本番は午後から。
その日の昼ご飯もいつもは(1日2日だが。)いちゃついているのだが、零断は考え事をしながら黙々とご飯を食べ、すぐに訓練に戻った。セリアはそれを温かい目で見守っていた。
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だいたい1時ごろから始まった訓練。少し休憩を挟みながらも早3時間。未だに一度も成功させることができないのが現状だ。
グレンと零断は1回1回を全て考察し、よかった点、悪かった点を言い合い次に生かす。
1つできるようになると出来ていたものができなくなったり、また新しい問題点が出てきたりとどんどん時間がたって言ったわけだ。
そして今は波動の衝撃をいかに少なくするかを考えている。衝撃を出すのは2つ目だ。だからまだ1つ目のこの状態で衝撃を出してしまうのは使いこなしていない証拠と考えられる。さらに、この衝撃を抑えることができれば2つ目の衝撃を自由に作り出すときに応用できる可能性もある。
まず、衝撃を普通になくすなら切るスピードを遅くすればいい。しかし、それだと鎧を断ち切れなかったり、断ち切るために波動を使い、逆に衝撃が大きくなってしまうこともある。
結果的に波動の精密な操作が必要だ。ということである。
この結論が出た時、グレンと零断は同時にため息をついた。結果的に何をするにも基礎中の基礎をできるようにならなければいけないということだ。
実際この2人は楽できる可能性があるから魔剣技に挑戦したのだ。前にできたから出来るだろうと。波動に使い慣れれば基礎もつくだろうと。結果はこの通りだった。
そして、今日の残りの時間は、いや今日からの訓練時間はある全て波動に費やされることになった。