彼女
セリアは気持ちが落ち着くまで泣いた。その後、気持ちよさそうに寝てしまった。零断はセリアを部屋で寝かせ、質問責めにあっているだろうグレンを助けに村の集会場に行った。しかし、そこでは予想外の出来事が起こっていた。
グレンが酒を片手に零断の怒りっぷりや、戦いっぷりを大きな声で話していた。それを全員真剣に聞いている。
【ちょっ!何やっとるんだあいつは!うわっ!はずっ!】
と思い、全力で止めに行くと、もちろん村人全員に見つかる。そして、見つかった瞬間。零断の体は空中にあった。零断を胴上げしているのだ。けど、
【え?…反応できなかったんだけど!この速さがあればボルケニクスの変異種になる前なら楽勝じゃねーのかよ!】
と、零断は内心発狂してた。
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その後、どうにか胴上げをやめさせ、非常にウザい顔をしたグレンを身体強化ありの本気で殴り飛ばし、村人にセリアとの関係を囃し立てられ、想像通り可能性があると正直に答え、さらにお祭り騒ぎになった。
しかし、さすがにグレンも零断も極限の集中をしていたので疲れが出て来て、どちらも家に帰り、夜まで寝ることにした。なぜ夜までかと言うと、夜に祭りをやるからだ。ついに仇を取れたと、天国の人たちに伝えるためである。
というわけで家に帰り、自室へ入るとふとんが膨らんでいた。
【おいおいまさか…】
と思い、思いっきり布団を投げ飛ばす。すると零断の予想通り、可愛く丸まっているセリアを見つけた。
【…なぜセリアがここに?】
零断が突然の事に驚いて固まった…セリアが可愛かったと言うのもあるが…間にセリアが目を覚まし、零断を呼ぶ。
「ふぅあー。ん?零断?一緒に寝る?」
「よし。寝よう。」
何故か超即答した零断。理性がやばい。童貞は卒業済みだがまずい。それは零断もわかっているので、慎重になりながらセリアがいる布団に入る。
と、入った直後、セリアに抱きつかれる。セリアは何か吹っ切れたように悪戯顔をしている。一応反論してみる。
「あの〜セリアさん?まだ付き合っているわけではないんですが…」
「それでも王都に行ったときに零断の“彼女”以外にも好きになってしまう子がいるかもしれないじゃないですか。そんなことをさせないために今からアピールします。………もう覚悟もできているので」
最後の方は声が小さく、聞き取れなかったがやはりやめる気は無いようなのでもう諦める。暖かい抱き枕と思えばいける…はずだ。
実際疲れがたまっていたようですぐに眠りについた。
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頰を突っつかれた気がして目を覚ます。
「んん〜」
ぼやける目を開けると微笑んでいるセリアがいた。
「これは…女神か?」
と、ボケて見ると、それにのってくる。
「はい。あなたが大好きの女神です。さて、私に何をしてほしいですか?」
欲望のままに言う。
「…この世界に来てから感じたことがない温もりが欲しいです。」
と言うと、抱きつかれ、唇にキスをされた。ディープキスではないが、長いキスだった。
「そんなに難しい要求しないでくださいよ。私はこれしか思いつきませんでした。どうですか?」
と、聞き返されては取る行動は決まっている。零断はセリアをぎゅっと抱きしめる。
「いろいろな気持ちが積もった優しいキスをありがとうございます。」
と、目を見て言うと、セリアは微かに目をそらす。もう一度見させるために顔を両手で挟む。
「むぅ」
といいながらまた目を合わせてくれた。非常に可愛い。
“彼女”のために我慢するが、王都行って情報がなかったら恋人じゃなくて結婚するんじゃないか?と思うほど仲が良い。
見つめ会う。まだまだ見つめ会う。まだまだまだ見つめ会う。まだまだまだま………
「おい!零断!起きろ!」
と、家のドアが開かれる。グレンだ。
「これは見られたらやばいな。」
「ですね。ふふふ。かっこよかったですよ?零断。」
「そりぁありがとさん。
ああ!わかった!すぐ行く!先行っていてくれ!」
「わかった。早く来いよ!」
「おう!
さぁいこうぜ!セリア!」
「はい!」
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2人はこのぐらいは良いかな?
と行く考えで手を繋いで外に出る。もう“彼女”の居場所がない!
当然外に出たら驚かれ、騒ぎ立てられる。そして、押され、村の広場の壇上に乗らされる。
そして、グレンが
「さあ!ここで結果報告を!!」
セリアが恥ずかしくて顔を真っ赤にし、零断は違う意味で真っ赤にする。
「お前はそれができないことを知っているだろうが!」
と怒り気味でいう。
「どうだか。もし、その“彼女”が、もうお前のことを忘れていたらどうするんだよ〜!、っ!?!?」
グレンはそう言い終わったとき、自分が絶対に言ってはいけないことを言ったことに気づいた。グレンはセリアが零断のことをどう思っているかを知っている。先ほども気がつかないふりをしていたが、気配を読み取り、2人が同じベッドにいたことで、やっていただろうと予想はつけていた。多分やったはずなのに、零断は関係を否定した。元の世界に恋人がいるから。そう考えると、零断と“彼女”の間には深い絆があることを。そして、グレンはその2人の絆を馬鹿にした。セリアの件で零断がそう言うのを大事にしていることはわかっていたはずなのに。
「……ずねは…“涼音”は!そんな訳がない!!あいつが俺のことを忘れるなんてっ!俺があいつのことを忘れるなんてありえない!」
そう言った時。この世界に来て初めて零断が彼女の名前を言った時、零断の周囲が爆発した。セリアは零断が無意識に掴んでいた。しかし、そのほかの人はその力をもろに浴びた。集まっていた人たちは全員思いっきり吹っ飛ばされた。それでも、零断は力を抑えない。波動の力を制御できないのだろう。同じように心の制御もできていない。波動に目覚めた時、村で練習しようと思ったことが裏目に出た。村の人々が痛みに悶え、ある者はグレンの方を向き舌打ちをし、ある者は零断に恐怖を抱いた顔をしている。そんな中、1人の少女が声を出す。
「零断!落ち着いてください!!その力を抑えてください!守るためにある力を暴力に使ってはいけません!」
「セ…リア…」
零断はいつの間にか泣いていた。セリアに止められたことで力がどんどん薄くなり、涙の量が増えた。そして、完全に力がなくなった後、そこには子供が泣いているときのような声が響いていた。
今週の金曜日22時にもう1話投稿します!