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2話  記憶喪失系ヒロイン

今日は、週に一度のゴミ処理の日だよ!

このゴミ溜め、「終わりの街」を見回るだけの簡単なお仕事さ。まぁ目的は、棄てられたゴミ共が怪しい事をしていないかチェックする事。脱走とか企てちゃう奴が居るもんでさ~...困ったもんだよね。裏でコソコソ武器を作ってたり、穴掘ったり...あーーー!!!ゴミはゴミ箱にってルールがあるのにさぁ!そういうのムカつくよねホント...僕キレイ好きだからさぁ...もう!


ふぅ...えーっとね、だから我等GIGの中の下っ端「清掃員」の人達が、そういう怪しいゴミを処理しているんだよ。それっぽかったら即射殺!って感じでね。


...え?そんな面倒な事しなくても、

ゴミは全員ぶっ殺しちゃえばいいって?

うーん、そうしたいんだけど~...

GIGの反対勢力?ってのがうるさくってねぇ...

誰にでも生きる権利が~とか、

古臭い考えは捨てて欲しいよ...あの老害。


まぁ、この話はまた今度にしよう。


それでね、今日の大事なポイントは、さっき話した「清掃員」についてだよ。彼らは、GIGの中でも最下層の人間なんだ。本来ならゴミとして処分されるような奴らだったんだけど、GIGの仕事を手伝う事を条件に、かろうじて人間扱いしてもらっているんだよ。結構危ない仕事だけどね...ん?どういう仕事かって?....あぁ、良い子の皆は知らなくていい事だよ!大人の世界も複雑なんだ。うん。


次のテストに出るから。

この話は覚えておくようにね!



ーーーーーーーーーーーーーーー



真っ暗闇。

...ここはどこだろう?

体を動かそうとしたが...ダメだ。

目を開けることも出来ない。


私は一体どうしてしまったんだろう。

何もかも分からない。

......誰かの話し声が聞こえる。


「...お前、どうするんだ?」


男の声だ。何の話をしているんだろう。

男は、どうやら私の隣に居るようだ。


「まったくよぉ、上の人に何て説明すれば...」


聞こえるのは、1人分の声だけ...

誰と話している?

頭も痛いし...状況が掴めない。


「まぁ、ぶっ殺しちまった事については、何とでも言えばいいけどよぉ...」


...ぶっ殺す?


その言葉を聞いた瞬間、

ある光景が頭の中に浮かび上がる。

嫌らしく笑う男、真っ赤に染まった人間の身体。

そしてスーツの男が.....!?


ハッとして、なんとか目を開く。

身体はまだ動かなかったが、必死に周囲の状況を確認しようとした。

すると、1人の男と目が合う。

おそらく、先程の声の主だろう。


「お、気がついたか!」


その男は、私を上から見下していた。

どうやら私はベッドに寝かされているようだった。

首はなんとか動かせたので、自分の身体を確認する。


「...あぁ、暴れられると困るからな。悪いが縛らせてもらった」


...身体が動かせないわけだ。

というか何この状況...


「あの......」

「おっと、無理して喋るな。今、水とか食い物持ってくるからよぉ」


そう言って、男は奥の部屋に消えていった。

悪い人では無さそう...?


...さて、自分は何故こんな所に居るのか。

真っ白な部屋。いくつかベッドが並んでいる。

...病院?

全く見覚えがない。

さっきの男も、誰なんだろう?


...そもそも、私は誰だ?

何も思い出せない。

何を忘れているのかも分からない。

真っ暗闇の中で1人佇んでいるような不安感。


待て...落ち着いて整理しよう。

何を忘れているか考えるのでは無く、

何を覚えているのか考えてみよう。


私の頭の中にある情報....何か無いだろうか?


...1つ引っかかる言葉がある。

えーっと...何だろう。

私の好きな物が思い出せそうな気がする。

後少しなんだけど...うーん。



「...魔法壮年マジカル☆リーマン」



朝9時放送の人気アニメ。

映画化決定!


...すごくどうでも良い!

もっと先に思い出すべき事があるはず!

えーーーーっと.....

テレビ、アニメ、漫画...そして同人誌!

...は?


うーん、まぁとりあえず自分が「オタク」だという事を思い出してきた。


だが、肝心なことが分からない。

今まで何処で、何をしてたんだろう。

あと名前も......ダメみたいだ。

頭が回らなくなってきたから、もうやめよう。


考えるのを辞めると、今度は自分の身体の異変に気が付く。

...空腹だ。お腹がグルグルと鳴っている。

多分、しばらく何も食べていなかったのだろう。

...お腹の音が鳴り止まない。

少し恥ずかしかったので、手で押さえ込もうとしていると、先程の男が戻ってきた。


「おう、とりあえずパンと水だ。いきなりたくさん食うと死ぬからな」

「あ、ありがとう...」

「おっと、すまん。縛られたままじゃ食えねぇよな。今外すわ」


やっと手足が自由になった。

だが、ぎこちない動きになってしまう。

まるで自分の身体じゃないみたいだ。

とにかくお腹が空いているので、

男からパンと水を受け取り、慣れない手付きで口に運ぶ...


「........ッ!」

「お、おい何も慌てて食う事はねぇだろ...」


私は、夢中でパンを食べ続けた。

なんだこれは!

なんというか...初めてだ!

満たされるような、幸せな感覚。


「...は、初めて食べた...」

「あ?パンをか?」

「...食べ物...」


「ウッソだろお前!?ハハハ!じゃあ今までどうやって生きてきたんだぁ!?」


めちゃくちゃ笑われてしまった。

だが本当に、口に物を入れるのは初めてのような気がする。

私はどんな生活を送っていたのか...

貧しいってレベルじゃないぞ...?


食べ終えると、一応空腹は収まって、少し元気が出てきたみたいだ。

それを見計らってか、男が口を開く。


「落ち着いたか?」

「...うん」

「そうか...とりあえず、自己紹介な。俺はナオキだ。そして...」


その男...ナオキは、私の後ろを指さした。

後ろ...?


「そいつが、レンだ」


振り向くと、もう1人の男がベッドの上に腰掛けていた。

...気付かなかった!影が薄くて全く気配を感じない。

というか動かない...寝ているんだろうか?

目が髪の毛で隠れているから、よく分からない。

その男は、どこか見覚えのあるスーツを着ていて、

なんだかもっさりした印象だ。

...何故か「エロゲの主人公」という言葉が頭をよぎる。


「あー...そいつ喋んねぇんだわ...」


ナオキがそう言うと、そのもっさり男は

ゆっくりと大きな紙を取り出し、何かを書き始めた。


「あのスケッチブックが無いと意志疎通できねぇんだよ...」


変な人...

...レンは、何か書き終えると、それを見せてきた。


『マジカル☆リーマン。僕も見てるよ。』


私の独り言を聞いてたのか...

ていうか、最初からここに居たんだ...

本当に気付かなかった。

なんかニヤニヤしてるし。

『よろしく☆』とか書いてるけど

絶対そんなキャラじゃないでしょ...


「変わった奴だろ?...ちなみにお前を助けたのは、そいつだ」


ナオキによると、私が暴漢に襲われている所を、

この変な男...レンが助けてくれたらしい。

ぜんぜん覚えてないけど...


「レンの気まぐれが無かったら...お前さん、大変な事されちまってたぜ?」

『R-18 !』


...暴漢 + 大変な事 =

...エロ同人誌みたいなっ!?

それは危ない所だった!

純粋に感謝だ。

でも私は何でそんな状況に...?


「んで、レンによるとお前は、自分の事をセレディアと名乗っていたようだが、どこの人間だ?変わった名前だ...」

「それが...」


自分が何も覚えていない事を伝える。

その...セレディアとかいうのも聞き覚えがない。


「...ショックで記憶がぶっとんじまったか?正直、俺達はお前さんの扱いに困っててなぁ。ここに来る人間は全員リストアップされてる筈なんだが...お前さんのデータは該当無しだ。いつ入り込んだのかねぇ...」


ナオキは申し訳無さそうにこちらをみる。

どうやら私の居場所はここには無いようだ。

本当に困った...

自分が誰かも分からないのに、これからどうすれば...


「...そこでだ。俺はこういう面倒なことはごめんだから、レンに任せようと思う!」

「どういう事?」

「つまり、レンが拾ったんだから、てめぇで世話しろって事だ!」


そんな、私をペットみたいに...!


『OK!』


軽っ!!!

...でも、丁度良い。

記憶が戻るまで、ここで世話になろう。

それ以外の選択肢は無さそうだし。


レンが、ちょいちょいと手招きをする。

付いてこいって事か。

何で喋らないんだろう...?


『俺の部屋に 案内する』


絶対、書くより喋る方が早いと思う。

っていうか私、この人と同じ部屋で生活するの...?

男女が1つ屋根の下とか...何かが起こってしまう!

...何かが!

まぁ見た感じ大人しそうだし...大丈夫かな...

でもでもっ...男はみんな野獣だとかなんとか...!


「そいつ、一応お前の命の恩人だからな。ちゃんとお礼しとけよ~?どうやってかは知らねぇけどな!」


ナオキに追い討ちをかけられる。

そんなエロ本みたいな展開になってたまるか!

私は負けないっ!



...そういう知識ばかり覚えてる自分が少し嫌になった。



ーーーーーーーーーーーーーーー



レンに連れられて、さっきまで居た、病院のような場所を出る。

扉には「医務室」と書いてあった。


そのまま一直線の通路を歩いていく。

窓の外は真っ暗だ。もうすっかり夜なのだろう。


しばらくして、大きなテーブルが置かれた広い部屋に着いた。

そこには、さらに4つの扉があり、それぞれ人の名前が書かれた

札が張ってあるようだ。


レンは、ここが食堂のような場所だと教えてくれた。

...筆談で。

左側2つの部屋の内、通路側がレンの部屋だそうだ。

彼は、鍵を開けて、私に中に入るよう促す。

男の部屋...なんだかすごく緊張してきた。


「ねぇ...変な事したりしないよね?」


とりあえず聞いてみる。

我ながら何を聞いてるんだか...

レンは、スケッチブックを素早く見せてきた。


『しないしない!絶対!』


本人は真顔である。

なんか...すごく嘘くさいっ!

まぁ、疑ってばかりいても仕方がないので、

ここは普通に部屋に入ろう。



中は思ったよりも広かった。

居間と、部屋が二つ。

あとはトイレとお風呂、キッキン...

なんというか普通?な部屋だ。


彼は、早速お風呂に入るよう勧めてきた。

確かに、私の身体は結構汚れているし、

多分嫌なにおいだと思う。

...決して下心がある訳ではない...よね?


私がお風呂に入っている間に、

着替えと私の部屋を用意してくれるらしい。


「...覗かないでよ?」

『善処する』


確約しろっ!

とりあえず一発蹴って牽制してからお風呂場に向かった。



お風呂...

浴槽は無くて、シャワーだけだ。

お湯の出し方は分かるのだが、

やっぱり初めてのような気がする。

お湯を浴びると、温かくてとても気持ちが良い。

味わったことの無い感覚だ。

今まで一度も風呂に入ったことが無いなんて...

人間として終わってるのでは...?

私は本当に何なのだろう。


ふと横を向くと、鏡に映った自分と目が合った。

これが私...顔は悪くないし、髪質も...

洗えばなんとかなるでしょ。

そして胸は...うん、無くはない!

ちょっと物足りないけど...クッ!?頭が!

何故かもっと大きかった気がするんだけど...

気のせいだな!痩せたんだ、たぶん!


...恋人とかは居たんだろうか?


「はぁ...」


まるで得体の知れないロボットに初めて乗り込んだヘタレ主人公みたいだ。まるで状況が掴めない。説明書とかあればいいんだけど。

まぁ、記憶が戻るまで我慢するしかないよね...


私は、その辺のごちゃごちゃした事は置いといて、

お風呂を満喫することにした...



お風呂を出ると、目の前には

タオルと着替えが用意されていた。

男物のパジャマだ。さすがに下着は無いか...

あったら逆にヤバいけど。

明日にでも用意してもらえるようお願いしよう。

とりあえずコレで我慢して...っと。


...何だか意識が朦朧としてくる。

よほど身体が疲れているんだろう。

もう夜も遅いみたいだし、そろそろ寝た方がいいな...


私は急いで着替えを終えレンの所に向かう。

部屋の用意は出来ているのだろうか?

すると、お風呂場の入り口で鉢合わせた。


『部屋 こっち』


準備は出来ているようだ。

レンに案内されて、少し狭いが綺麗に片づいた部屋に着く。

この部屋を使っていいみたいだ。

窓際に、寝心地の良さそうなベッドもある。

もう身体が限界みたいなので、寝させてもらおう。


『おやすみ!』


レンはさっさと部屋を出て行ってしまった。

...やっぱり普通に良い人なのかな?

普通の男だったら、ここで押し倒してるはず。

いや分かんないけど。

つまり彼は、紳士もしくはホモだろう!

...どうでもいいや。もう寝ちゃおう。



私はベッドに吸い込まれていった。

ちなみに、ベッドで眠る気持ち良さも初めて体験したのだった。



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