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1話  拾われる天使

ここは、「終わりの街」


色々と「終わってる」奴らが住む場所だ。

例えば、犯罪者であったり、働かず日々を無駄に過ごしてる奴。

あとは、やらかした政治家なんかもココにやってくる

...というか、棄てられる。


ここは、ゴミ箱だ。

地下深く掘り下げられた大きな穴。

地上の人間様が「いらない」と思ったモノを棄てる場所なのだ。

もちろん、脱出など出来ない。出ようとすれば、即射殺だ。


棄てられたモノ達が生きていくには、人間様が放った残飯を食うか、重労働の対価として少しだけマシな物を食わせてもらうか。あとは、たま~に来る金持ち様に買ってもらうか...

それ以外の奴らは死ぬしかない。


当然だよね!

社会に貢献しない奴は必要無し!

いらないモノは片付ける!

君達は、ポテチを食べた後の袋をとっておいたりはしないよね!ゴミ箱にぶち込むだろう?そういうこと!

人間は、そんな当たり前の事をしてこなかったせいで、ゴミが貯まり過ぎちゃったんだ...


そんな困った世界を何とかするために出来たのが、このゴミ箱なんだ!我等GIGが24時間体制で管理しているよ!

ほら、今日も収集車がゴミ共を集めてきた!

汚いねぇ...あれはきっとニートって奴かな!

あんなのには、なりたくないよねぇ...

ねぇ?

だから良い子のみんなは、

社会の役に立つ人間になろうね!


「はーい!」


「以上、クリーンな社会を作る、GIGでした」



ーーーーーーーーーーーーーー



「最悪ッ!最悪ッ!最悪ッ!」


私が天界から落ちて、1時間ほど経過した。

なぜ自分が飛べなくなったのか考えてみたり、

天使達に助けを求めようとしていたのだが...


「何で誰も助けに来ないのよ!セレディア様の一大事なんだから総出で助けに来なさいよー!バカー!」


叫んでも助けは来ない。

なんで大天使の私がこんな目に...!

使いっパシりの小坊主は何やってるんだか!


そして何より不思議なのが...身体。

私は魂のみの存在のはず。

だが、確かに身体があるのだ。

物に触れる感覚、匂い、重力。

初めての事だらけで頭がパンクしそうになる。


おそらく今の自分は、寒くて、痛くて、空腹だ。

これが身体的苦痛か。

人間の事は長い間観察してきたが、今日初めて理解できた。

こんなに辛い物だったとは思わなかった。

何とかしなければ、死んでしまうだろう...


「...あれ、死ねば戻れるんじゃ?」


そうだ、死んで魂だけになれば天界に戻れる...

今死のう!すぐ死のう!

こんな苦しい身体なんて、さっさと抜け出してしまおう。

辺りを見回すと、ちょうど良さそうなガラス片があった。

これで喉元をスパッとやれば、死ぬ...よね?

痛いんだろうけど...まぁ大丈夫でしょ。

私、大天使だし!


私はガラス片を拾い上げ、自分に向けた。

手が少し切れてしまったが、まぁ関係無い。

さぁ、帰ってダラダラしよう。

鋭く尖った先端をしばらく見つめた後、覚悟を決め...

私は自分の喉にそれを突き立て......

ようとしたのだが、一つ気になったことがあった。


ガラスに映る自分の顔。

自分の姿なんて何回も見たことがあるはず。

だが、この顔は...


「.........誰?」


ガラスには、知らない人が映っていた。


黒くて艶のない髪の毛、汚れている顔...そして何より


「胸が無いッ!!!」


私の髪の毛はキラキラでサラサラの金色!

顔立ちはめちゃくちゃキュート!

そしてもっとナイスバディ立ったはず!

...何じゃこりゃあ!!!絶壁だこれ!

そういえば着ている服も、汚い布切れ一枚だけ...


自分の身体をあちこち確認してみたが、間違いない。

これ私じゃない。

つまり、どっかの誰かさんの身体に、私の魂が入っちゃってるわけ!?意味が分からない!


そこで嫌な予感。


この身体を本当に殺してもいいのだろうか?

私の身体じゃない=殺したら殺人?=


大天使が人間を殺した!

地獄へ直行!


なーんてことに...!

まずい、自殺はダメだ!

じゃあ誰かに殺してもらうか...?

いや、そんな事しようとした時点でもう殺戮の天使や!


つまり...私が大天使として天界に戻るには、この身体を殺さないようにして、尚且つ最終的に自然死すればいい....って事かな...?


「嫌だーーーーーーッ!!!」


死ぬことを待つ日々なんて嫌だ!

最悪、寿命が尽きるまで待たなきゃいけないじゃない!

そもそも身体なんて持ったこと無いから、

どうやって過ごせば良いか分かんないし!

もう誰か助けに来てよ!天使とか聖霊!働け!


「.........ッ!」


叫んでも、何も変わらない。

もう神様の声も聞こえない。

自分は本当に人間になってしまったのだ。


仕方がない、しばらくは人間のままでいるか。

きっと助けも来るはずだ。と、私は軽く考える。

とりあえず立ち上がって、周りを調べてみることにした。


「...力が入らないなぁ」


なんだか身体がフラフラする。

おそらくは、空腹のせいだ。

何か食べないと動けないなんて、人間とは不便だ。


私は周りを見回すが、人間の姿は無い。

そもそもこんな不潔な所に人が住んでいるのだろうか?

ボロボロの建物が並んでいて、一応は街のように見えるのだが、何の気配もない。


ここはいったい何処なのか?

今まで、何千年も下界を見てきたが、

こんな場所は初めて見る。いや、本当に初めてなんだろうか?

おかしい...私は大天使だ。

知らない場所なんて無いはず。

人間の事は完璧に把握しているはずなのに...


大切なことが頭からスッポリと抜けてしまっているような...あれ?そもそも、今まで私は何をしてきたんだっけ?


まぁいい、とにかくお腹が空いた...

何か食べる物を探さないと...


ここは暗くてジメジメしていて、嫌な感じだ。

ゴミの山が沢山あって、虫が飛び回っている。


「...ひゃっ!?」


そして突然、顔についた。

もぞもぞと蠢いて気持ちが悪い。

今まで虫なんて触った事が無かったから、

余計に驚いてしまった。

慌てて手で追い払うが、次から次へと集まってくる。


私は走ってその場を離れたが、どこまで行っても同じ景色。

ゴミ、虫、廃墟。

慣れない身体のせいで、私は何度も躓き、転んだ。

痛くて、苦しい。

何故、人間なんかに憧れたのだろう。

ここは、地獄だ。

あの退屈で、安全な天界が恋しい...でも...


「...負けるもんですか!」


私は、奇跡を司る大天使、セレディア。

この程度の事で挫ける訳にはいかない。

自分も救えなくて、なにが天使だ。

そう、諦めなければ、きっと希望はある...!

...ほら、明かりが見えてきた...!


何とか身体を動かし、明かりの元まで辿り着く。


焚き火だ。その周りには男が2人。

彼らはこちらに気づき、近づいてくる。

少し怖かったが、私は勇気を出して、言葉を発した。


「助けて...」


弱々しく、掠れた声。

人間に助けを求めるなんて屈辱だが、今は緊急事態だ。ここはグッと堪えよう。


2人の男の内、頬の痩せこけた眼鏡の男が、口を開いた。


「...こっちに俺達の家がある」


思ったよりも穏やかな口調に、私はホッとした。

彼らは、自分たちの家に私を招いてくれるようだ。

2人とも身なりはボロボロで、まるで骸骨のようだ。

おそらくここは貧民街で、十分に食事を

得ることが出来ていないのだろう。

にも関わらず、私に救いの手を差し伸べるとは...

なんと慈悲深いのだろう。

今まで人間を見守ってきた私としては、嬉しい事だ。


彼らは、近くの建物に私を連れて行く。

そこはテーブルやベッドがあり、かろうじて

人が住めそうな場所だった。寒さも外よりは大分ましだ。


テーブルの上に缶詰めが置かれる。

食べて良い、ということだろうか。

...なんと心優しい。

彼らに主の祝福があらん事を...


感謝の言葉を伝えようと、彼らの顔を見る。

その時、男が口を開いた。



「...服を、脱げ」



先程の穏やかな口調とは一変して、荒々しい。

2人とも、ニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべている。


「そ、それってどういう...?」

「あぁ!?分かってんだろ!?」


突然の怒鳴り声。

もう一人の男も、喋り出す。


「フヒッ...女とか久々だなァオイ?さっさとヤっちまおうぜ?」

「あぁ...そういう訳だから、脱げよ」


...純粋な優しさではなく、裏があったのだ。

この男共は私の身体が目的なのだろう。

やはり人間は愚かで汚らわしいっ...!


「...身の程知らずだな...私は大天使セレディア。人間如きが私を汚そうなんて...」


「ギャハハハハハハハ!?天使だってよォ!?」

「なっ...!?」


男達は下品な笑い声を響かせる。


「こんなところに天使様が居るってかぁ?この街はゴミ溜めよぉ...お前も俺達と同じなんだよォ!分かるかぁ?」

「安心しろ。俺たちの言う事聞いてりゃ生かしてやるよ。餌もくれてやるしな...」


ハァ...なるほど、こいつらは腐っている。

裁かれるべき人間だ。

天の国にお前達の居場所は無い。


「もう我慢できねぇやァ...オラ脱げ!!!」

「私に触れれば天罰が下るぞ...!」

「うるせぇっ!!!」


その場に押し倒される。

全く...仕方がない。

お前達を裁く権限は私にあるというのに...


今まで何度も罪人を裁いてきた。

こういう奴らは生きているだけで害だ。

だからいつも通り、裁きを...


「あん?天罰がどうしたってぇ...?」


私は大天使。その気になれば人間如き....


「俺はなぁ、神様なんて信じてねぇのよ...」


男は、私の服に手をかけた。

愚かな...私は...

私は...?


「や、やめろっ...!」


身に纏っていた布切れが、男の手によって裂かれた。

嘘だ。私がこんな辱めを受けるのを、

神が見逃すだろうか?この私が...


あれ...?...私って一体何だったんだろう...?


その時、今まで大切にしていたものが何もかも

無くなっていく感覚に襲われた。

取り戻そうとしても、もう、何も思い出せない。


そして、私は完全に、ただの『人間』になった。


「やめっ...やめてぇぇぇぇぇっ...!!!」

「ギャハハハ!やめねぇよ!!!」


必死に抵抗しようとしたが、力が入らない。

空腹と疲労で身体が限界だった。

もうダメだ。このまま、この男に......


私は諦めて力を抜いた...

祈ろう。この地獄が早く終わることを。


男が服を脱ぎ出す。

私は、これから起こる恐ろしい事に対して、覚悟を決めるしかなかった...



意識が朦朧とする中で、最後に見たのは、

2人の男が血まみれの肉塊になる光景。

そして、スーツの男。

何が起こったのか分からないが、

その男は私を担ぎ上げる。

そこで、私の意識は完全に途切れた。




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