過疎化と緑地化
ゴブリン襲撃事件から半年がたった。
日に日にゴブリンやコボルト、オークの被害は増えていっている。中にはオーガという3メートルを越す大型のモンスターまで確認されるようになった。
自衛隊と政府に保護されていたアルニア人による共同討伐隊により、都心部周辺や人口がある程度多い住宅地までは、一応政府の警戒網がひかれ保護下にはいっているが、地方や田舎にいけばいくほどそれらは手薄になってしまうのは仕方がない。
なんせ、戦える人材が少ないのだ。
自衛隊がいるだろうという話になるのだが、アルニアから転移してきた魔物たちには銃器が効かない。ゴブリンやコボルト程度の魔物であればわりかし効くようだけど、オークやオーガクラスになるとまるきり歯がたたないらしい。
体に纏っている魔力濃度の高さから、魔力を伴った攻撃でしか通らないことがわかっている。
銃弾一つ一つに魔力を込めるということも可能なようだが、全てにそれをしようとすると膨大な魔力と精度がもとめられる。一発一発では込めれる魔力量も少ない上に、普通の金属では直に触れていないと数秒程度で魔力が霧散してしまう。
よって、剣や槍、弓といった時代錯誤の武器と、アルニア人仕込みの魔力操作の習熟が必須になっていた。魔力を上手く体に行き渡らせることで、一時的な身体能力の上昇も見込めるらしいが、それらを実戦レベルでつかえる自衛隊員は全体でみると未だに少ないのが現状だった。
以前ゴブリンを相手取った時、頭に血が上っていたのではっきりとは覚えていないが、今思えば普段以上の力が出せていたようだ。喧嘩もまともにしたことがない俺があんなに動けたのはおかしい。スコップにも知らない内に魔力を纏せていたんだろう。
日々、緑小人という魔法生物に囲まれ、魔力や魂力を習慣のように操作している恩恵だったのかもしれないな。
そんな世間の状況による煽りを受け、俺の住む町からはほぼ人がいなくなっていた。
あたりにはもはや何の手入れもされていない農地と人の住まなくなった民家ばかりが存在している。
電力や水道、ネットに関しては、今でも通っているのは幸いだった。ただ、バイト先のスーパーは閉店し、近所には働ける場所はもうない。一応、貯金はちゃんとしていたため光熱費代くらいは暫く持つだろう。大学はもういっていない。
緑小人たちに関してだが、今では200人は超えるほどになっていると思う。
思うというのは数えるのが面倒というのももちろんあるが、すでに各々が自由に動き回っているからだ。好きな場所に住み、好きな場所で増殖している。
近場の空き農地や原っぱで好きな植物を育て上げ密林状態にしようと画策しているもの、好奇心の赴くまま自由に遊びまわっているものなどなど。近隣の住人がいなくなったというのは、この子達には良かったのかもしれないな。
そのおかげ?で最近では、家を中心によく分からない植物に覆われはじめてきている。
アスファルトや道路などはひび割れ、間からは逞しい植物が生えてきている。近隣の樹木も太く大きく育ってきているし、果物もたわわに実っている。
それに緑小人達が周辺に散らばっているおかげで、かなり緻密な警戒網ができあがっているという恩恵もあった。
これまでにも何度かゴブリンやコボルトを発見している。
最初のころはいたずらに緑小人が食い荒らされていた。
悲鳴にも似たテレパスを受け取り、駆けつけてもすでに魔物はいなくなっているということが数回続き、見つけたら即座に周囲に警戒を飛ばし逃げるようにと、緑小人達には言い含めている。
そしてもし追われたら、できるだけ木の上に登って隠れるようにとも言ってある。木登りは緑小人達お得意の遊びだし、ちっちゃい体でも蔓を伸ばして器用に素早く登っていける上、枝から枝へと上手に移動できる。
魂のつながりからある程度の距離まではテレパシーを受け取れるし、もし届かない距離であったとしても、緑小人を経由して伝言ゲームのように伝えていくよう徹底もさせた。
緑小人からの救難信号、警戒信号を聞きつけると、スコップ片手にガンジーと一緒に軽トラに乗り込んで現場へと急行する。
ちなみに、ガンジーの戦っているところを見てみたら滅茶強かった。ゴブリンやコボルトなら正真正銘のワンパンで終わらせている。
まぁ考えてみれば、最初は身長80センチほどの体型で体重は7,80キロはあった。しかも体全体が石のように頑丈なこともあり、拳が凶器どころか、全身兵器の有様だった。リアルに人の体が数メートル殴り飛ばされ木に叩きつけられる所を見てしまった。まさに漫画の世界だった。
さらにちょくちょくと魂力を追加していたこともあり、その破壊力には磨きがかかっている。身長は100センチくらいとまだ小柄だが、もともと岩人は成長が遅い種族のようだった。
俺はというと、ガンジーが仕留めるまでの場つなぎ程度でよかった。
素直には喜べないが、緑小人たちや弥生ちゃんたちの魂を取り込み魂力が増加したことによって、魔力の保持量や纏える濃度が飛躍的に上がり、魔力操作も格段に上達した。そんじょそこらの魔物程度なら余裕であしらえるくらいにはなっていた。
それでも緑小人に被害は出ていた。
現場に急行してみると、それなりの数の魂が俺の周囲に寄ってくることが未だにままあるのはやはり悲しい。先月だけでも20人は被害があっただろう。魔物達にとっては緑小人という存在は、魔力補給もできる体のいい食料のようだった。
そこで新たに生物錬生をしようと思い準備をしている。
素材はゴブリンの角と骨、そして緑小人達の遺体を植えたあたりの土を6人分。それぞれに俺の血液を数滴垂らしていった。込める魂力も気持ち多めにと予定している。
イメージは集落の衛兵、身体能力が比較的高く力も強い。仲間との連携もとり慣れていて、武器を作り、使いこなすほどの器用さと賢さをもつ新しい種族。そこまでイメージが出来上がり、それぞれに魂力を注ぎ込んでいった。




