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大学デビューに失敗したぼっち、魔境に生息す。  作者: 睦月
一章 異世界人がやってきた
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生物錬生

 翌日から自分の能力を把握するために、試行錯誤を繰り返してみることにした。


 俺の魂に関しては、昨日考えたように親密な関係にしかやり取りはできないというのは正解だった。ただし、そこからが少し複雑だった。


 まず、自分の魂力を生きている存在に与えることはできるのか? これに関してはモンテと緑小人にだけ有効だった。吾郎ちゃん達には魔力を送ることはできても、魂力は送れなかった。しかも自分の魂を一度相手に与えた場合は再度自分に戻すことはできない。やり取りが自由にできるのは、自分の体内に取り込んでいる間のみだ。


 モンテと数匹の緑小人に試しに魂力を少しだけ与えた所、目に見えて力が増した。モンテに関して言えば、簡単な水魔法や土魔法が使えるようにもなっていた。


 そして、次が中立の魂だが、これが家の子達にはやはり取り込めなかった。

 でも、ある程度自分の思い通りに操作できるのはわかった。分裂、合体、強度などの調整、そして生き物の錬生も問題なくできるようだ。



 庭の隅に置いてあった両手で抱えるくらいの石を何個か集め、手のひらを切り血を垂らした上で自分の強くなった魂力を十分に注いでみる。

 その際にイメージしたのは頑丈で力強い守護者。緑小人のような弱い存在や家族を外敵から、その身を呈して守ってくるような優しい性格の種族。それらの想いを込めながら。


 そして次に、家にあるイチョウの木にもさきほどと同じように守護者をイメージして中立の魂力を少しだけ残して注いでいく。これで今日はもう放置しておこう。明日になれば結果はわかるだろう。




 次の日の朝、庭に出ると6歳ほどの少年が地面に座っていた。


 緑小人たちがそれぞれ好きに群がっている。背中にしがみついたり、肩に座って足をブラブラさせていたり。その子はそれでも微動だにしない。

 

 よく観察してみる。灰色の肌つるりとした石像のような体。長く黒い髪を後ろに流し、額にはエメラルド色の鮮やかな宝石が埋まっている。そして静かにじっとこちらを見つめていた。


 とりあえず、素っ裸というのもなんなので、庭先に干されていた俺のスウェットとTシャツ、そしてパーカーを渡してみる。


「……………」


 黙って受け取りはするが、服を見たまま動かない。

 仕方がないので、身振りで万歳をさせ頭からかぶせる。そのあとに足を伸ばさせ、スウェットを履かせる。その時に気付いたことだが、この子めちゃくちゃ重い。7、80キロは余裕であるんじゃないか?


 周囲を見てみるとイチョウの木が変わらずあったが、形が大きく変わっていた。


 幹が太く長くなっている。枝もがっしりとしている、周辺の地面は何かが動いたかのように盛り上がっている。緑小人たちもやや離れた位置から興味津々といったように眺めている。


 足元にいたモンテを抱きかかえ、そろりと木に手を触れてみるが何もおこらない。今度はちょっと強めにコンコンとノックしてみる。



「おーい、起きてるかー?」



 何も反応がないので首を傾げていると、上から視線を感じた。視界の端に大きな目がコチラを見ているのがわかる。さすがにちょっと怖い。

 じりじりと後ずさり全体を納めてみると、大きな一対の目がコチラを興味深そうに眺めてきていた。


 地面の土がボコりボコりと蠢き始め、イチョウの木も前後左右に揺れ始めた、中でも太く大きな枝が数本、地面に手をついているような動きをしている。モンテを初めて見た時の鉢から出てくる時にそっくりだった。ただし、かなりビッグスケール版だが。


 これはまずい。イチョウの木は4、5メートルはあるし、さすがに目立つ。しかもこのサイズが歩き回れば畑が荒れること間違いなしだ。



「ストップ、ストープ!! 立たなくていいから、そのままのんびり座っておいて。ホンっトに、ホントにお願いですからっっ!!!」



 俺の必死の訴えが通じたのか、きょとんとした表情?で大きな目をぱちくりさせながらその動きをとめた。



「……ちょっと枝を一本こっちに伸ばしてみてくれる?」



 そう言って手のひらを上に差し出してみた。いわゆる”お手”である。

 じっとコチラを見ていたと思ったら、一番下にある大きめの枝がゆっくりと此方に向かって動いてきた。そして手に触れてくれたのだが、枝に付いた葉に顔ごと埋もれてしまった。



「ぶわッッぷ、………ペッ。 まぁ、意思疎通はできるみたいだな。」


「普段の日中はできるだけ動かないでくれるかな? ここは君が動き回れるほど広くないし、あまり周囲の人にも騒がれたくないから。何かこの子達や、俺たちを害するような存在がきた時にだけ助けてくれたら嬉しいかな?」


 これだけ言うと、少しの間が空いたあと軽く頷くように幹を揺らしてくれた。





 自宅の縁側に座って、庭を眺めている。

 緑小人たちは一昨日の時点で14人に減りはしていたが、今日さらに2人ちっこいのが増えていた。

 畑つきの広めの庭には、彼らの子種ともいえる芽がちょくちょく生えている。この分ならすぐにまた増えていくだろう。



 今日産まれたばかりの岩人?である男の子(単純ではあるが名前をガンジーとした)は縁側の上がり框に腰掛けて、ボーッと緑小人の好きにさせている。


 イチョウの木のトレントは、時折目を開けて周囲を眺め、緑小人たちがよじ登って遊んでいるのを見つけては目を細めている。緑小人が落ちそうになれば、器用に枝を動かして支えてあげている。まるっきり孫をあやすおじいちゃんだな。


 今回の生物錬生(魂から生き物を作ることをそう言うことにした)でわかったことは、ある程度のイメージと元になる素材、そして混ぜ合わせる他の材料により見た目が大きく変わるということ、トレントや緑小人はやっぱり植物だけを材料にしただけあって、かなりモンスターよりの見た目になっている。


 それに比べてガンジーに関しては、肌の色や硬さ、重さなどは到底人間離れしているが、かなり人に近い容姿。俺の血を混ぜたからだろうな。


 そして注いだ魂力の大きさだが、どうやらこれにより魔力保持量や身体能力が変わるらしい。多分だが知能面でも差があるのだろう。生命力の根源というだけでなく、きっと生物としての器、潜在能力などのようなものじゃないのかと思う。それを確かめるためにも、トレントとガンジーでは注いだ魂力に差をつけている。


 今見ているだけでも、纏っている魔力量はガンジーの方がダントツで多い。筋力や身体能力に関してもそうだろう。単純な力比べにもなると重量や体格の差もあるのでなんとも言えないが。


 モンテ筆頭の緑小人達と今回生まれたガンジーを俺の魂力から作った眷属とするなら、トレントは非眷属の異なる種族。テレパシーのような意思の疎通や、俺の魂力の譲渡による強化は計れないことがわかった。


 ただ、俺の能力から生み出したこともあり、一応は言う事を理解して聞いてくれることが分かっただけでも上等だろう。


 最後に魂に属性別けができるなら記憶があるんじゃないか……とまで思ったが、緑小人やガンジー、トレントを見ていると、そうでもないようだ。きっと新しい命になった時点で完全に別の魂になるんだろう。俺の中にも元助や弥生ちゃんの記憶は一切ない。



 ガンジーの横顔を眺めながら、いろいろ考え事にふけっていると、ふとコイツ一体何を食べるのだろうと気になった。

 確認してみたところ、言葉はまだ喋れないし、テレパシーも不慣れなようだが、なんとなく身振り手振りも含めてで教えてくれた。


 驚いたことに主食は石らしい、地面に転がっている石をボリボリと美味そうに食べていた。あとは大気にある魔力さえ取り込めれば十分とのこと。なんて地球に優しいヤツなんだ。



 さて、残る中立の魂力はわずかななわけだが、折角なのでガンジー同様、環境に優しいものを生み出したい。そこで思いついたのは、一人暮らしになるとついついたまりがちになるゴミ。それを種類問わず何でも処理してくれる生き物、そしてその子らの糞や死骸が土の十分な栄養素になるような、そんな完璧な益虫を作ろうと思う。緑小人たちも喜びそうだしね。



 用意したものは、元となる腐葉土、石、そしてダンゴムシの死骸を一匹、それらを6体分、緑小人たちに集めてもらってきた。


 それらを広げてイメージを作り上げていく。緑小人にガンジー、トレントまでもの視線を感じる。イメージが固まったところで残る中立の魂力を全て注ぎ込んだ。


 数分ほどじっと眺めていると、それぞれの素材がひかれあい混ざり合っていく。

 そこからさらに時間をかけ素材が十分捏ねられたところで、ゆっくりじっくりとではあるが、少しづつ生き物の形を成していく。込めた魂力により、きっと生まれる時間も違うのだろう。


 30分ほど経ったころ、新しい生物が生まれた。


 形は手のひらにすっぽり収まるサイズの大きなダンゴムシ。色は黒から茶色、中には濃い灰色や紺色のものもいる。石のように硬く艶やかな装甲をしていて、動きはそれほど早いわけではないが、決して遅いわけでもない。それが計6匹。



 正直に言おう、ルックスをちょっと失敗した。



 ゴミを漁り、なおかつ生命力、繁殖力が強い生き物といえば、黒光りするGの姿が頭に浮かんでしまったことが最たる原因だろう。とっさに頭から打ち消したが、それでも多少影響が出てしまったらしい。今は庭の隅に集めた生ごみを嬉々として処理してくれている。


 あれほど無邪気な緑小人達も、積極的に遊ぼうとはしていない。精々、頭の蔓でツンツンとしては楽しそうに走って逃げている程度だ。


 とりあえず、人の家には”絶対に”入らない事と、この子達の身の危険でもあるため人目は極力避けることを厳命しておいた。俺の魂力を注いだ訳ではないし、一匹あたりの魂力も少ないのでちゃんと伝わっているかはかなり不安だった。



  数日後、庭の隅に積んであった生ごみはなくなっていた。それどころか、倉庫の前に溜めていたゴミも綺麗になくなっていた、中には空き缶やペットボトルも入っていたはずだ。そして、当の石ダンゴ達は姿を消している。

 見た目はともかく、かなりハイスペックな子たちではあるようだ……見た目はともかく。




 数年後、都心で手のひらサイズのダンゴムシが大量発生することになり、阿鼻叫喚の嵐となる。ただ、街自体は綺麗になったらしい。



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