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大学デビューに失敗したぼっち、魔境に生息す。  作者: 睦月
一章 異世界人がやってきた
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魂の属性

 モンテの気遣いで少し気分が落ち着いた。それに、まだ終わっていない。


 部屋の隅に目をやれば、未だ動かない横たわる女性の姿。

 残酷すぎる現実を直視したくはなかったけど、ちゃんと確認しなきゃいけない。

 


「ん?」



 胸がかすかに動いてる。

 即座に駆け寄り、耳を口に近づける。ちゃんと呼吸はしている、だが目はうつろだった。

 

 よほど手酷く扱われたのだろう、アザや腫れ、傷跡など、直視するのをためらうほどだった。そして首元には噛みちぎられたような後があり、大量に血が未だ流れ続けていた。



「い、今救急車よぶからっ つ!?」



 俺の腕をがっしりと掴み、はっきりとこちらを見つめてくる。口がかすかに動いていた。彼女の手を握りなおし、もう一度耳を口元に近づけてみる。聞き取れたのはーー



「……こ…まま……で…」



 彼女の目を見返してみると、その目からは次第に光が消えていっていた。



 ズタボロにされていた弥生ちゃんの最期を看取り、目を閉じてあげる。

 近くにあった布団からシーツを剥ぎ取りかぶせた。いつかの元助の時のように、彼女の中の魂に手を伸ばしてみる。


 しっかりとした強さを感じはするが、今はかなり弱々しい。明かりが明滅を繰り消すように瞬いている。

 彼女の手を握りなおし、胸元に当てた手のひらからそっと意識を伸ばしていく。触れた魂は静かに体の中に入ってきたことを感じた。


 すると、部屋の中で倒れていた緑小人達の小さな魂が浮かび上がって俺の周囲に漂い始める。生きていた時と変わらずじゃれ付いているように。


 じんわりと涙をたたえながら手を差し出すと、緑小人8人の魂も流れ込んできた。弥生ちゃんと緑小人達の魂を自分の魂に受け入れた。

 自分の魂が今まで感じたことがないほどの輝きを放ち、大量で濃密なエネルギーが満ちていくのを感じた。


 嫌でも目に入る他の屍体。

 嫌悪感を抑えながら、目の前に横たわるゴブリンの魂にも手を伸ばす。意識が触れたと思った瞬間に弾けるように霧散して消えていった。他のゴブリンたちも全て同じ現象だった。


 庭に出て倒れていた夫婦の遺体にシーツをかけ、その際にも魂を取り込もうとしたが上手くはいかなかった。

 霧散することはなく体に入れることまではできたが、光一さんの魂が上手く取り込めない。

 いろいろ試してみてもだめだった。美鳥さんの方の魂はすんなり受け入れることができたのだが、光一さんの魂は入ってくれない、なぜだろう?


 今は自分の中に2つの魂を感じている。1つは強く濃密な自分の魂、そして決して混ざらない光一さんの魂。


 警察に連絡して現場に来るまでの間にいろいろと考察してみた。

 魂は一定以上の親密度がない存在の場合にしか取り込むことはできないんじゃないか?と思い至る。

 美鳥さんとは仲良くしていたが、光一さんとは何度か顔を合わせただけだった。

 また、ゴブリンのことを考えると、どちらかが敵として認識したものには触れることすらできないのかもしれない。

 わかりやすく魂を3つの属性で分けると共生、中立、敵性の魂。今回は緑小人、弥生ちゃん、美鳥さんの魂が共生、光一さんが中立、ゴブリンが敵性となるのだろう。


 これまで散々ネットで調べ漁っていたが、魂や体の奥にあるエネルギー体についての話は一切出てきていないし、緑小人のように新しい生物を作ったという話も聞かない。


 代わりに変わった能力の話はちょくちょく出てくる。動物と話せたり、五感の1つが異常に鋭くなっていくなど、こういった能力は程度こそあれど、あまり他に類を見ないものが多い。この魂に触れる能力に関しては特にだ。手探りで知識と使い方を深めていくしかない。



 警察がやってきて、現場の説明と治療にかなりの時間を取られたが、ここ最近ゴブリンやオークといった被害が全国各地で増えてきていることもあり、後日事情聴取に署まで来てもらうということにはなるが、今日は病院からそのまま家に帰らせてもらえた。



 家の門をくぐり、裏庭に回ると緑小人たちが車座になって項垂れていた。

 その中心には、現場から他の緑小人に命じて先に家に運ばせておいた、犠牲になった緑小人8人の遺体。


 それを見て、深く深く静かに息を吐きだした。



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