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大学デビューに失敗したぼっち、魔境に生息す。  作者: 睦月
三章 外に出かけてみよう
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捕獲作戦


「うおおおおおっ!!!」



 大声を出しながら、鍋をガンガン鳴らして走り寄っていく。傍ではロッコもクールにフライパンを叩き続けていた。

 


 俺たちの突然の来襲にビクンと反応したヤギ達は咄嗟に別方向へと逃げようとする。

 そこは待ち伏せしていたお爺ちゃんズやルルさん組が飛び出してきて、進路を制限させていった。


 三方から半包囲するように距離をつめ、定置網の方向へだけ開けている。



 ヤギ達が本格的に走り始めたころ、進行方向の方へと配置していた小鬼族騎兵隊に『予定通りそっち行ったからよろしく』と指示をだし、さらに追いやっていく。



 さすがに走りでは追いきれなくなれば、近くに待機させていたランバード達を指笛で呼び、お爺ちゃん達を後ろに乗せて大急ぎで後を追いかける。

 小鬼族からも連絡では無事誘導することはできているようだ。


 

 しばらくランバードを走らせたところで、ヤギ達の後ろ姿を見つけることができた。


 報告通り、周囲には小鬼族騎兵隊がうまく囲い、所定のポイントへと誘導していっている。

 その包囲網の中に俺たちも加わり、順調に定置網の目前へまで連れて行くことができた。



 正一の背中に揺られながら、コの字型の網へとヤギ達が入り込むのを確認、即座に出口を塞ぐように動く。

 ここまでの道中で、残念ながら少し逃してしまったが、それでも5頭は追い詰める事ができた。


 雄ヤギが3頭前に出て、その後ろに2頭の雌達がいる。


 雄は威嚇するように地面を足で掻いている。

 特に群れのリーダーであろうヤギは、その立派な角を突きつけるように頭を屈め、鼻息荒く興奮しているのがわかった。


 ランバードから降りて、手には盾やらロープやらを準備し始めるが、騎兵隊にはそのまま騎乗してもらい、念のためにも杖も構えてもらっておこう。



「思った以上に暴れそうですね。慎重にいきましょうか」


 そうみんなに声をかけると、一角族が両手に一つづつ鉄製の大盾を持ち、その両サイドにはイゴールさんとアゴールさんが同じ大盾を構えて前に進み出た。


 

 俺とウゴールさんは、中が空洞になったパイプにロープを通した物を用意している。

 先から出たロープは輪になっており、手元で締めることができる。昨日、用意しておいた物だ。

 


 

 ーーガッツンッ


 準備をして、いよいよ距離を詰めていこうと思った矢先に大きな硬質音が鳴り響いた。

 同時に「ぶうォッ!!」という、驚きの声があがっている。


 音がした方向を慌てて見ると、イゴールさんが吹き飛ばされ尻餅をついていた。

 いつのまにか目の前には、角を突き出した雄ヤギがいる。

 

 間髪入れずに今度は、群れのリーダーが勢いよく跳躍し、一番前に出ていた一角族の大盾へと角を前に突き出し飛び込んできた。


 さっきよりもさらに重く激しい硬質音が鳴り渡ったが、さすがに一角族はぶれなかった。

 少し、足が地面にめり込んでいた程度だ。それでも、とても手を抜けるようなモノではないらしい。若干、眉をひそめている。


 立て続けにもう1頭が飛びかかってきそうだったが、ロープを持ったロッコが飛びかかろうとしているのに気付き、リーダーと最初にきた雄ヤギも示し合わせたように一斉に後ろに下がっていった。




 予想以上に群れの連携が取られている。


 雄の後ろに隠れている、雌2頭も決して怯えているようには見えない。

 角はやや小ぶりだが、今にも突撃してきそうな勢いだ。



「………ルルさん。ヤギってこんなに暴れん坊でしたっけ?」


「い、今までは、狩りで仕留めるか逃げられるかしかしていなかったもので………まさか、追い詰めたらこんなことになるとは………予想外です」


「普段大人しい奴が怒ったら怖いってこういう事なんですかね」

「……………」



 つまらない冗談は置いておいて、ここまで準備したのだから5頭全部は無理にしても、なんとか2頭くらいは捕まえたいところだ。



 ヤギの力強さがわかったこともあり、みんなでじわりじわりと慎重に距離を詰めていく。


 こちらを威嚇しているのだろう、相変わらずの突進の構えのまま『バァアア』『ベェエエッ』と低く鳴いている。

 雌のヤギも今度は攻撃に加わるような素振りを見せていた。

 



 

 ーーガガンッガンガンッ



 範囲を狭められるの嫌がり、一斉にヤギ達が突撃してきた。


 後ろ足で蹴り上げてきているものいる。


 お爺ちゃん達も一角族も今度は衝撃をある程度覚悟していたためどっしりと受け止めているが、さすがに体をよろめかせる事もあった。


 特に一角族の存在が一番厄介だと感じているのか、攻撃が集中していた。ヤギ達が休みなく突撃してくるため、先頭の位置から動けなくなっている。



 盾に叩きつけられる音がさらにヒートアップする中、視界の端を飛び交った影が一つだけあった。




 近くに生えている樹の幹を蹴り上げ、立体的かつ勢いのついた跳躍をみせるヤギがいる。


「ーー三角飛びかっ!?」


 反動を利用した弾丸のような飛び込みに、とっさにアゴールさんが反応して大盾を向けたが、衝撃を殺しきれず激しい衝突音と共に数メートルは吹き飛ばされてしまった。相手は群れのリーダーだった。



「アゴールさんっ!!」

 あまりの吹き飛びっぷりだったんで心配したが、身を起こしながらこちらに向かって片手を上げているのが見えた。



 ーーしまったっ 包囲に穴が空いた!



 まずは雌達が一斉に通り抜けていった。

 囲いを脱したあとは、リーダーと同じように樹の幹を使って勢いよく逃げていく。


 周囲にいた雄ヤギ達は雌を無事に逃がすために、俺たちに飛び込み牽制してくる。

 リーダーも自分の身を顧みずに一角族に突進していた。


 雌が一瞬振り返り、身を呈して間に入った雄ヤギたちを心配げに見ていたようだったが、リーダーのどこか頼もしい『ベエエエッ!!』という鳴き声を聞き、振り切るように走り去っていった。



 ーーなんだろう……ヤギ達が妙にドラマしている気がする



 

 そんな俺たちの白熱した勝負を見ていて、ワクワクを止められなかったのだろう。


 

「ーースキありぃぃい」


 少し離れたところから見ていたはずのヤーシャが、ロープを構え、よりにもよってヤギのリーダーへと飛びかかってしまった。


「ーーば、バカぁっ」

 叫び、反射的に手を伸ばすが到底届かない。



 当のリーダーはというと、しっかりとヤーシャを見据え迎撃の体制に入っている。スキなんて一つも見当たらない。


 その蹄で力強く地面を踏み込み、ヤーシャへと突きこもうとした瞬間ーー



 リーダーへと人影が飛びかかった。


 


「ーーふんどおおおっ」



 力強い雄叫びと、ドンッという重い音と共に、ヤギリーダーを真正面から受けとめたのはアゴールさんだった。


 既にベコベコになっていた大盾は地面に放り捨てられている。


 片手で角を掴み、大ヤギと首相撲をとるかのようにもう片手で組み合っていた。

 それでも止まらない突進を力の限り押さえ込もうとしている。地面にめり込んだ両足は、土をめくり上げズリズリと押され続けていく。



 そこへ「加勢するぞいっ」と胴体を抑えにかかったのはイゴールさんだ。


 リーダーを二人掛かりで押さえ込もうとしている。


 さすがに堪えるようで、リーダーはなんとか二人を剥がそうと首を振り回そうとしている。後ろ足も跳ね上げ、まるで暴れ馬のようだ。


 腕とこめかみに血管を浮き上がらせ、顔を赤らめ唸る二人。それを、横から静かに眺めるウゴールさん。



「ごらぁっこん色ボケジジイっ! お前も手伝わんかいっ」

「こんボケえ、ゲンコツじゃあ済まさんぞいっ!!」


「わかった、わかったわい」そう言いながら、ウゴールさんはしぶしぶとリーダーのお尻あたりに横からしがみついた。




 力のかぎり暴れるヤギリーダーに、小柄ながらも鍛冶で鍛えられた筋肉を隆起させ、歯を食いしばり耐えるお爺ちゃんズ。

 特にアゴールさんとの正面からのぶつかり合いは凄まじく、お互いに雄叫びをあげている。


 見ていて、手に汗を握るような名勝負だった。


 3対1の、まるで土俵際のようなギリギリの戦いにすっかり気を取られ、いつの間にか他のヤギ達には逃げられている。



「お爺ちゃん、頑張れえっ」

「後ろ足っ 後ろ足をもっと押さえ込んでー!」

「アゴール殿っ 早めに横に引き倒さなければ持久戦では不利ですぞっ」 



 いつの間にか、小鬼族騎兵隊も一角族も熱くなって応援している。俺も必死で声援を飛ばしていた。



 ちなみにヤーシャは、飛びかかる途中でロッコに取り押さえられていた。

 少し離れたところで、ルルさんに懇々と現在進行中で叱られている。





 30分か1時間かはわからない。


 体から湯気が出るほどにぶつかり合ったドワーフ三人は、今は地面に大の字で倒れこんでいる。

 胸が大きく上下しており、その戦いの激しさを物語っていた。



 当の相手であるヤギリーダーは、首に太い縄をかけられ樹に繋がれていた。


 ロープを掛けられた最初こそ嫌がる素振りを見せてはいたが、ヤーシャがランバード用に持っていた作物を与えて、なだめすかすように体を撫でていると、そのうち腰を下ろしてムシャリムシャリと食べ始めた。


 たまに呑気に『バアァアア』と鳴いている。


 もともとはこのように穏やかな性格なのだろう、雌を守る時のみ捨て身で本気を出すという漢らしい生き物なのかもしれない。

 今後は敬意を込めて、漢山羊おとこやぎとでも呼ぼうか。




 今や虫の息となっているウゴールお爺ちゃんに水を飲ましていると、近づいてきたロッコに袖を引かれた。



「………レン、これ」

「ん? ……おお、こんなのあったんだね」

「うん」



 そう言って、ロッコが差し出してきたものを受け取る。

 某アニメの再放送が原因だろう、どうしても使って欲しそうにロッコが俺を見つめていた。






 


 カロコローン





 お爺ちゃんズにロープを引かれ歩いていくヤギリーダーの首には、大きなカウベルがぶら下がっている。

 それを見て、ロッコもヤーシャも嬉しそうだった。




 そんな、のんびりとした鐘の音を聞き、ヤギリーダーの道草に付き合いつつも、これまたのんびりと家路についた。






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