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大学デビューに失敗したぼっち、魔境に生息す。  作者: 睦月
三章 外に出かけてみよう
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弓の指導員①

ルルさん視点です。

 

 小鬼族には弓兵隊というのがある。

 今のところ、人数は7人しかいない。


 弓の全体教練の時に、特に成績優秀で意欲的だったものを選抜していた結果こうなってしまった。

 ここの弓兵隊には、普段の巡回パトロール以外での大事な役回りもあり、それには向き不向きが大いに関係してくるからだ。



 それは狩りだ。



 樹海の町の住人が食す獲物の半数以上を集めているのは弓兵隊だ。それだけの狩りを安定してやろうと思うのなら、やはりそれなりに適性が必要になる。



 ここ樹海での主な狙いはというと、異常繁殖している鶏、これも丸々と異常によく肥えたデブ兎に野鳥もおり、偶に大ヤギにイノシシといった大物を狩ったりもする。


 あと私は見た目がグロくて苦手なのだが、樹海産の大蛇なんかも人気の食材だ。あっさりとしていて美味いのはたしかなのだが、捕まえるのが正直怖い。見た目が生理的にゾッとしてしまうのだ。



 どうやら、樹海では生き物の発育というか、進化というか、魔物化じみた成長を促すらしい。

 

 確かに明らかにおかしな生き物も多く、ここ最近では5~60センチほどのまだら模様の大蜘蛛を見つけて、レン殿が悲鳴をあげていたのを覚えている。


 他にも、音に合わせて体を揺らす不思議なキノコや、夜になると発光して飛び回る美しい夜蝶、周辺の匂いを嗅いだだけで幻覚を魅せる恐ろしい花など、樹海を歩けば歩くほど不可思議な動植物にでくわしてしまう。

 今視界の端を駆け去って行ったのは、尾が二又になった大きな黒猫だった。



 以前聞いたのだが、吾郎ちゃんファミリーも元を辿ればただのグリーンイグアナだったという話しもある。


 ただ、これに関してはレン殿の冗談かもしれない。サイズはともかく、さすがにグリーンイグアナは火なんか吹かないからな。

 吾郎ちゃんがくしゃみと同時に鼻から火を噴き出し、庭が軽いボヤ騒ぎになったのは記憶にも新しい。



「レン殿は偶に冗談なのか本気なのかわからないことを言うから……なあ吾郎ちゃん?」


 

 そう言って、わたしを背中に乗せてドシドシと樹海を闊歩する吾郎ちゃんに話しかけた。


 日に日に体が大きくなっており、今では私一人など軽々と乗せて運んでいる。

 名前を呼ばれると一瞬だけこちらを振り向いて、その知性溢れる瞳を向けて来たが、また気にせずに前へと向き直した。



 朝食の席で、今日は新人弓兵を連れて狩りを教えに行くという話をしていたのを聞いていたらしい。

 獲物が多いところに行くのをちゃんとわかっているんだろう。


 ーーふふふ、まったく食いしん坊な子だ



 ちなみに背中の棘は寝かせてくれていて、これは彼が『乗っていいぞ』という時の合図にもなっている。

 あと、鱗が硬くて痛いので、低反発クッションを挟むのを忘れてはいけない。



 吾郎ちゃんの子供たちも当然ついて来たがっていたのだが、遠慮してもらった。

 彼らもそこそこなサイズになっており、全員連れて行くことになると、それはもう狩りというよりも何かの襲撃のような物騒な事になりそうだったからだ。

 

 今は、私と吾郎ちゃん以外には小鬼族弓兵の2人が同行している。

 最近配属されたばかりの若者で、初めての狩りと聞き、今日はやはり緊張しているようだ。


 訓練を見る限りセンスはいいので、後は実戦でうまく慣らせば優秀な弓兵兼狩人になれることだろう。

 そのためにも、今日はできるだけ簡単な狩場へいこうと思う。こういったことは、小さなことでも成功体験の積み重ねがものを言うのだから。




 さて、そろそろ第一の狩りポイントに着く頃だ。







 突然だが、樹海の鶏は空を飛ぶ。


 樹海の住人にとっては今更な常識なのだが、私のような外部から訪れた者にとってはまず第一に驚いたことだった。


 まあ、本来の鳥ほど自由自在という訳ではなく、地上数メートル位を激しく羽ばたきながら一気に低空飛行で逃げていくという、なかなか厄介な魔鳥に育っている。


 たまに気性の荒い個体は怒ってこちらに迫ってくるもあった。

 体躯が通常よりは2周り以上は大きいために、けたたましい鳴き声とともに突っ込んでくるあの姿は中々に怖い。しかも、オスの鶏冠とさかが硬質化しており、かするだけでも流血モノの被害を被ってしまう。


 最初の狩りの時は、そんなアグレッシブな鶏の行動に情けなくも声をあげてしまったものだった。


 ただし、そんな彼らの羽毛は布団や衣類にも使われており、樹海にとっては欠かせない存在になっている。

 何もせずに放っておくと、ポンポン卵を産み散らかして大量発生してしまうが、彼らの卵は濃厚で美味しいので食卓では大人気だ。町中で放置されている卵を見かけたら、みんな積極的に拾うようにしている。





 小川にほど近い、少し開けた場所に鶏たちが集まる憩いの場所がある。

 いつもその近くに身を隠し、狩りをしている。そこは新人でも楽に狩れるポイントなので今日も訪れていた。




 ーーよし、集まっているな。



 少しだけ離れたところからこっそり確認すると、数十羽は確認できる。

 水を飲みに広場から出てきたものを順次狩り取っていこうという作戦だ。



 と、最初はそのつもりだったのだが………今日は特にお腹でも減っていたのだだろうか?

 フライングしてしまった奴がいた。




 吾郎ちゃんが、私を乗せたまま鶏広場へと突進していっていた。

 「ご、吾郎ちゃん!」制止しようとしたが、突然の急発進で体のバランスを崩してしまい、終いには転がり落ちてしまう。


 「ああっ!!」「ルルさんっ 大丈夫ですかっ!?」

 焦ったように声をかけ、助け起こしてくれた小鬼族たちにお礼を言い、鶏広場の方へ顔を向けるとーー



 それはもう、大パニックに陥っていた。



 自分たちの天敵でもある親玉が、突如自分たちの集落に乱入してきたのだ。鶏たちが恐慌状態になるのも仕方がないだろう。

 


 コケーーーーココッッコ



 周囲にはけたたましい鶏の鳴き声が四方八方から飛び交っている。

 その中心にいる吾郎ちゃんは、自分の独壇場とばかりに次々と鶏たちを丸呑みにしていっている。


 一心不乱に羽ばたき飛び去っていくもの、他の鶏を蹴倒してでも遠くに逃げようとするもの、樹にぶつかっているもの、中には吾郎ちゃんに飛びかかっていく勇敢な雄もいた。

 周囲一帯には羽毛と土埃に加え草葉までもが舞い散り、視界さえもよく見えなくなっている。

 時折、吾郎ちゃんの雄叫びや、長い尻尾がブンブン振り回されているのが確認できた。



「ル、ルルさんっ どどどおしましょう!? 鶏たちがむちゃくちゃ暴れてます!」

 当初の予定とは全く違う展開に、小鬼族の新兵二人も大パニックだ。


「と、とにかく、弓は止めだ。自前の得物で手近な鶏を狩ってくれっ!! このままじゃ吾郎ちゃんに独り占めされてしまうぞっ」

「「ハッ ハイ」」





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





「吾郎ちゃん! 一体どういうことだっ」

 


 吾郎ちゃんを目の前にして、私は今猛烈に怒っている。

 結局のところ、吾郎ちゃんの暴れっぷりや鶏達のパニックから身を躱すのに精一杯で一羽も成果がなかった。

 せっかく今日は新人2人に自信をつけさせようと考えていたのに、これでは台無しではないか。



「連れて行く時に言ったはずだぞっ ちゃんと私の指示には従ってもらうと!」

 腰に手を当て、指先を吾郎ちゃんの顔に突きつけて激しく叱りつけている。



 すると、『知らねえよ』とばかりにプイッと横を向いた。

 その態度には流石に頭にきた。


 がっしりと両手で顔を掴み「聞・い・て・い・る・の・かっ!」と念を押して言うが、首を振るい外されしまう。


 ーーなんという太々しい態度なんだっ

 「ぐぅぅっ、私は怒っているんだぞっ 反省ぐらいしたらどうなんだっ!」



 ジロリとその黄色い目でこちらを睨みつけてくる。反省する素振りは微塵も見えない。



「まあ………まあまあまあ、吾郎ちゃんもきっとお腹が減っていたんですよ」

「そ、そうですよー、こんなに体が大きいんですから、仕方ありませんよ」


 そう言って、吾郎ちゃんの体を撫でている小鬼族たちに『だよなー』とばかりに顔を向けている。

 



 ……まったく、小鬼族にしても一角族にしても、レン殿の友達である吾郎ちゃんにはトコトン甘いのだ。

 だが今回の件ではっきりしたことがある。



 吾郎ちゃんは、そんなユルユルな環境に胡座をかいているということを。


 他の者たちはどうか知らんが、こと狩りに関してだけは私は決して吾郎ちゃんを特別扱いなどしない。甘い顔などは一切しないからなっ。


 

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