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大学デビューに失敗したぼっち、魔境に生息す。  作者: 睦月
三章 外に出かけてみよう
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半鬼

 都心部とサテライトコミュニティとの連携により、今のアルニア難民や都心部の問題を緩和していくという政策がとられていても、それが一気に効果が出るわけじゃない。


 そもそも、富裕層と低所得者の生活には、すでにどうしようもないくらいの差が生まれていた。

 全てにおいて足りていない今の世の中だからこそ、その格差には深い憎悪が絡み合う事になる。



 そんな悪感情の吹きだまりとなっている場所がスラム街だった。


 気持ちに余裕をなくし些細なことでの暴力沙汰、しのぎを削る犯罪グループ同士の抗争の激化、職を無くし困窮した人たちが起こす強盗まがいの犯罪、溜まった鬱憤を晴らすかのような女性に対する暴行、それらがエスカレートすることにより殺人すらも珍しくない危険な地域。



 そこから少し離れた場所にあるファミレスで、これまでとは毛色の違う事件が起こっていた。



 

 きっかけは、お昼の時間帯に混雑する中で、店員が注文を間違えたことだ。


 自分のミスに気づき、焦るように頭を下げて謝罪するウェイトレス。

 混雑時ということもあり、自然と周囲からは注目が集まってくる。


 当の間違えられた客も、静かに謝罪を聞いているだけで特に声を荒げたりはせず、あからさまに不機嫌になっているということもなかった。

 



 ただ、手元にあるステーキナイフで相手の喉を突き刺しただけだった。




 場が騒然となる中、返り血で顔を染めている犯人は、静かにウェイトレスを見下ろしていた。




 即座に警察が駆けつけ取り押さえられた犯人の映像がテレビで流れていたが、ぱっと見はどこにでもいる普通の主婦にしか見えなかった。

 40代位でご近所さんたちとお茶している姿が目に浮かぶような、犯罪とはイメージしにくいタイプ。


 ニュースやワイドショーでは、主婦業からくるストレスか? 旦那の浮気か? 子育てノイローゼか? 

 そんなことを推論し囃し立てる無責任なコメンテーターもいたが、警察の取り調べでは特におかしな家庭環境は見られていなかったようだ。


 旦那は中流企業の勤め人、都心部での生活は厳しいために2人の間に子供は作っていない。決して余裕がある訳ではなかったが、夫婦関係は悪くなく、衣食住に困るような生活もしていない。




 そんな中ニュースを見ていて一つ気になったのは、警察に連行されていく時に周囲のカメラの多さに驚いた犯人が、一瞬だけ何かを喋ろうとしていたことだった。


 何を話そうとしたのかはわからない、謝罪か歓喜か悲鳴なのか。


 問題は、その時にチラリと見えた犬歯の長さだった。

 人の持つ犬歯のサイズではないような気がしていた。

 


 後日、医者の診断が行われたところ”重度の鬼成り依存症”と判明する。




 それからも、スラム街を含めた近辺では似たような犯罪が多発した。

 タクシーの運転手が道を間違えた、電車で空いた席を横から奪われた、友達との口論の延長で。


 過剰な暴行、殺人に至るまでの理由があまりにも浅かった。


 それらもすべて、鬼成りの重度依存者が引き起こす事件だった。


 見た目の特徴は尖りはじめた耳に、爪と牙が発達している事。

 精神的には、モラル、道徳観の大幅な欠如、常習的な暴力性が見られ犯罪にたいする忌避感がない者。


 また、彼らには微弱ながらも魔力を纏い始めることが確認されており、次第に発症者を『半鬼』と呼ぶようになっていった。



 刑務所でも問題が絶えず、囚人達に対する被害が激増する。

 たとえ犯罪者達の収容所とはいっても、同じにするのは危険とされるようになった。


 そこで、治療法が判明していない以上、半鬼と診断された時点で都心部からは離れたコミュニティへと隔離されることになる。



 ネット上では、治療法の研究と称された程のいいモルモットにされている、強制労働の人手、魔物に対する生きた壁として使われているなどの、面白がった黒い噂が絶えないが、実際のところは明確には公表されていない。



 ただ、噂を真に受ける場合もあり、症状が出始めた時点で人知れず都心部から離れる者が多くなったのも事実だった。


 鬼成り依存症で半鬼とわかる者は、当然サテライトコミュニティに立ち入ることすらできず、そのほとんどが魔物の餌になる場合が多いようだ。


 だが、中にはいち早く魔力の扱いに慣れ、強く生き残る者もいる。


 そういった半鬼たちが徒党を組んで、冒険者や交易商人を襲う被害が出始めるまでに、そう時間はかからなかった。




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