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大学デビューに失敗したぼっち、魔境に生息す。  作者: 睦月
三章 外に出かけてみよう
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アルニアハンターズシティ

 翌朝、ランバードと一角族2名、騎兵隊1隊を倉庫に残し、簡単に組み立てれるようにバラしてあった荷車を組み立て、荷物を積んでハンター街へと向かっていった。


 ランバードに関しては、連れて行くと目を付けられ、根ほり葉ほり聞かれた上で譲ってくれという話になるだろうと、皆の意見だったので当初から置いていく予定だった。

 実際に海町一行にも譲ってほしいと打診されていたのだが、乗れるようになるまでの手間暇を話したら渋々とだが了承してくれている。

 一度、気軽に近づいたローさんが、元蔵ガンジーのパートナーに襲い掛かられそうになっていたのも大きかったのだろう。あの鉤爪と鋭利なクチバシは、慣れていても怖いものがあるしね。


 ハンター街が近いということもあり、しばらく歩くと似たような行商人の姿を目撃する事が多くなった。そばには護衛役であろう冒険者風の人間もいる。ローさんとの顔見知りもいるようで、軽く手を上げて挨拶してくることもあった。


 二時間程国道を歩いたところで、とうとう街が見えてきた。



 アルニアハンターズシティ。


 遠目からでも分かる高さ数メートルはある分厚い鉄板を貼り付け並べたような、乱雑だけども頑丈そうな塀。グルリと円形に作られたその威容は、柄の悪いドーム状のスタジアムのようにも見えていた。


 その門前に屯するのは冒険者なんだろうか? かなり不揃いな格好をした、どこか血なまぐさい雰囲気のある連中からはジロジロと不躾に見られている。

 路上で昼間から酒を呑み、博打の類をしている者もいる。

 そばには、首を切られた獣の体が横たわり、適当に捌いて火に炙られ調理され、周囲には焦げた肉の匂いが漂っている。

 それらが両サイドに分かれ、門へと続く道を作っていた。


ーーうぅん、一人だったらまず通りたくない雰囲気だよね。


 門自体は大きく開け放たれており、冒険者や俺たちと同じように荷車を引いた交易商人、中世を感じさせるような馬に乗ったアルニア人も目につく。

 都心部からだろうか、魔物対策に補強されたトラックも入っていっており、その荷台には武装をした冒険者の姿が見えている。


 門番のような類は一切配置されていない。


 その代わり塀の上からは、弓を装備したエルフや獣人が周囲を厳重に警戒しており、高い櫓も数多く設置して、双眼鏡を目に当て魔物達の警戒には余念がない。 

 時折、何か大声を発して、塀の上を走り周っている者たちもいる。

 少しすると、冒険者の集団が門から駆けて出て行くところを見るに、近くに魔物の群れがいたのかもしれないな。


 何にしても、予想以上に大きくて、ゴチャついた街だった。

 なんというか……統一感がない。

 少し呆気にとられていた俺の様子を見て、ローさんとラーさんが楽しそうに笑っている。


 門を潜りしばらく進んでいくと、東南アジアにあるような雑多な市場が目に入ってきた。


 むせ返るような正体不明の匂いと目に見える砂埃の中、簡易テントを屋根にした屋台が立ち並び、台には様々な商品が置かれているが、どの店にも値段は書かれていない。


 そして、目に入る人種はほぼアルニア人だ。


 多種多様な獣人達に加えて、ドワーフや小人族に翼人種、中にはゴーダさんのような飛び抜けて大きな巨人族もちらほらと見かける。周囲を惹きつける程の、美しいエルフの小規模なグループもいた。

 昨日、ローさんの話に出てきていたトカゲの二足歩行姿、リザード族たちもいる。表情筋が全く違うため、談笑しているのか、威嚇してるのかまったくわからない。

 ーー確かにあれにキレられたら怖いな。


 そんな、ファンタジーの住人たちが所狭しと行き交っている光景は……壮観だった。


 わずかではあるが日本人冒険者もおり、周囲から聞こえてくる言語には日本語とアルニア語が入り混じっている。


 魚市のおっちゃんのようなダミ声の取引に、威勢のいいおばちゃんの客引き、お客と激しく値切りあう露店主と冒険者。

 詐欺だと路上でとっくみあう連中にそれを輪になって囲み、口々に煽る観衆。 

 何かに追われるように人混みをかき分け必死で走る奴もいれば、それを怒鳴りながら追いかける集団もいる。捕まった瞬間に袋叩きにあっていたが、眺める人はいても止める人はいなかった。


 少し細い路地裏を覗けば、無気力に半裸で横たわる者や血を流して倒れている者もいる。


 何かこそこそと怪しげな取引をしている人、たまに女と2人で昼間から致している奴らもいて、ガンジーやロッコが俺につられて覗いていたので止めておくのを忘れない。


 意外な事にもスーツ姿の日本人もちらほらと見かけている。

 露店商相手に交渉しているようで、携帯電話を片手に話していることからも都心部の業者なのだろうか。

 周囲には簡単な金属鎧をつけ、武装している日本人冒険者もいたので、立ち位置から察して護衛依頼なのかもしれないな。


 モンテはバックのサイドポケットから、こっそりと周囲を見回しているようだ。

 ガンジーはキョロキョロと物珍しげに町の中を眺めている。

 ロッコはすぐに走り出しそうになるので、迷子にならないようにしっかりと手を繋いでいなきゃいけない。


 ちなみ2人の額の鉱石は目立つので、布切れをターバンのように巻いて隠している。


 それでも、やはり俺たちは目立っているようだ。

 特に一角族の一本角には指をさして見ている者もいるが、ギロりと視線を向けられればすぐに逸らしていた。


 そんな俺たちの後ろにはルルさんとイゴールさんが続き、荷車を運ぶ小鬼族達、周囲にはそれを護衛するように一角族が注意深く周囲を警戒している。

 先を歩くのは海町一行で、初めての俺たちに案内をしてくれていた。


 試しにと、ローさんがその場に売っていた香辛料を手にとって交渉してみると、小さな小瓶が数万円の値段で吹っかけられる。徐々に値切り交渉していくも、結局はかなりの高額にしかならず、ローさんは呆れたように首を振り、その場を後にしていった。

 後ろからは店主の罵声が投げかけられていたけどね。


「とまあ、このようにちゃんと相手を選んで売買しないと馬鹿をみることになりますからね」と笑いながら伝えてくる。

 そこからはイゴールさんと2人で何やらいろいろ話していた。

 交渉のコツや、信頼できそうな露店商の特徴などの話がちらほらと聞こえてきていたので、商人としての知識なのだろう。


 その後も、オススメの宿屋や立ち寄らない方がいいエリアなどを教えてもらう。

 こっそりと、わりかし安全な娼館の場所も教えてもらえた。

 今回は無理でもいずれはと、しっかりと場所と名前を聞いておいた。その際、聞き耳を立てていたイゴールさんのにやけ面が腹立たしかったけども。


 最後にお互いのメールアドレスを交換し合い別れることになった。

 海町の場所も聞いていたので、「新鮮な刺身が食べたくなったらいつでもどうぞ」とのこと、かなり魅力的な誘い文句だ。必ず行こう。




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