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大学デビューに失敗したぼっち、魔境に生息す。  作者: 睦月
三章 外に出かけてみよう
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お味噌がありません

「お味噌がありません」


 俺の発したその言葉は、町役場の多目的ホールに集まった街の代表者たちへと向けられていた。

 メンバーはルルさん、ドワーフのお爺ちゃんズ、医療担当のリナちゃん、走り屋のケイ君に小鬼族のリーダー、そして一角族の族長、あとモンテもいる。


「その他にも調味料、お米、医薬品、あと衣類も、 生地もとうとう底をつき始めました。ついでに言うと、樹海の町にある民家は粗方家探しが終わっています」

 間を空けずに続けた内容を聞き、それぞれの眉間にシワが寄っていく。


「……とうとうですかぁ」

「いつかは……と思ってはおったがのう」

「「「…………」」」


 皆が深刻そうな表情で黙りこくる中ーー


『ヒャッフ〜〜〜〜〜!!』

 町役場の屋上から、ヤーシャの陽気な歓声が響き渡っていた。


 多分、相棒のランバード《フォア》とランバードグラインダーをお楽しみ中なのだろう。

 最近は《フォア》も大きくなってきており、ヤーシャ位なら乗せて走れるようになっていた。ふわふわの綿あめのようだった体つきは少しづつ筋肉がつきガッシリとし、ランバードには珍しい真っ白な体色は樹々や青空に殊の外美しく映えていた。

 というのも現在進行中で、しっかりと太陽の光を反射しながら、笑顔のヤーシャを乗せて会議室の窓を通り過ぎていくからだ。

 ケイ君が少し気まず気にしている事からも、連れてきたのは彼らしいね。

 まあ、気をとり直して会議を再開しましょう。


「………味噌と醤油は、確か大豆が原料じゃろ? 緑小人達に作ってもらう訳にはいかんのかの?」

 自慢の顎鬚をしごきながら、伺うように聞いてくる。


「…………お爺ちゃん。

 味噌や醤油というのは、日本の職人さん達の技術の粋を集めたものなんです。

 何十年、何百年という歴史の集大成なんですよ?

 いくらクック◯ッドが優秀でも、あの品質を真似できるものではないんです」

「そ、そうか、すまんの」


 確かにお手軽に作れるレシピはネットでたくさん出回っているようだが、『いつもの味』や『おふくろの味』をそうそう出せるものではないだろう。

 予想以上に気持ちの篭った反論に、お爺ちゃんズが目をパチクリさせている。日本人の食に対するこだわり方を甘く見ないで欲しいね。


「まぁそれに、衣類や医薬品の類はどうしようもないですしねぇ………」

「レン殿には何かお考えがあるんですか?」

 リナちゃんの発言に耳を傾けた後、ちょっと探るようにこちらを見てくるルルさんに頷き返した。

 

 少しだけ間を開け、決意を新たに声を張る。

「アルニアハンターズシティに、買い出しに行きましょう」

「「「!!!」」」


 最近はちょくちょくニュースでも話題になる街なのでみんな知っているようだ。

 まあ、何かと面白そうな街でもあるしね。


「都心部に行けば何でも手に入るとは思いますが、あそこは正直行きたくありません。

 物価もそうですが、何より外部の住人に排他的になっているようですし、どんな難癖つけられるかわからないですしね。」


「しかし、先立つもんが必要じゃろうに……都心部ほどではないにせよ、今は何かとお高いようじゃぞ?」

 別のお爺ちゃんの言葉を聞き、鋭い眼光をこちらに向けてくるのはイゴールさんだろう。これまでの話を聞く限り、この中で一番ビジネスに敏い人のようだ。


「実は、ちょっと前から小鬼族にお願いして魔物の売れそうな素材は保管してあるんですよ。

 ナマモノ系の素材以外はですけどね。

 マーダーアントの甲殻は十分すぎる程ありますし、切り裂きラプトルや樹海の猪の皮や牙もおそらくは売れそうですよねー、……他にもまあちょくちょくと溜め込んでいます。

 それら売りさばいたら………ネットでの大雑把な換算ですけど、結構いい値段になるみたいなんですよね

 それにランバードを走らせれば、慎重にいっても数時間でつく距離でしょうし………。

 そこでなんですが………一角族や小鬼族騎兵隊を多めに連れて行きますので、誰かついてきてくれないですかね? アルニア人がいてくれた方がいいと思うんで。」


 小鬼族リーダーや一角族の族長が鷹揚に頷きながらアルニア人達の方を向いている。既にこの話はしてあり、同行するメンツはほぼ決まっている。後はアルニア人たちのメンバーを決めるだけだ。


「レン殿が行くのなら、私もついていきましょう。

 ただ……一角族や小鬼族のことは何と誤魔化すのですか? 樹海の種族だとは言えないでしょう、騒ぎになりますよ。」

 期待を込めて周囲を見渡す中、真っ先に参加を表明してくれたのはルルさんだった。それと同時に俺たちが外に出る事の懸念事項を上げていく。 


「……アルニアの別大陸からきた、未確認種族じゃ通りませんかね?」

 今は世の中、どこもカオスな状態だから多少ゴリ押しでもいけると思うんだよなー。


「………まあ、大丈夫かもしれんな。アルニア人の住む大陸にも滅多に他の種族と関わらん希少種族もおる事じゃし。 

 ただ、お主らその魔力は隠さんといかんぞい? 地球人よりもアルニア人は魔力に敏感じゃからな、間違いのう警戒されるぞ。」

 やや渋面でお爺ちゃんズの1人から指摘されてしまう。……そんなになんだろうか?


「……というか、そんなことできるんですか?」

「それくらいは、練習すりゃすぐできるわい。それに上手いのが樹海にもおるじゃろう? 透明のなんぞ訳わからん奴じゃ」


 ああ、そういえば元カメレオンのサスケさんがやってるなー、あれがそうだったんだな。


「じゃあその辺は要訓練ということで。

 メンバーの方も後で詰めるとして、皆さんには必要なものや欲しいものをピックアップしてほしんですよ」


「酒とかええんかのう?」

「ドワーフ達はいつもそれだな……自作している果実酒があるだろう」

「たまにはビールとかウィスキーもイキたいんじゃ」

 自分の欲求を素直なお爺ちゃんに、ルルさんの手厳しい声がかかる。


「ははは、その気持ちはよくわかりますねー。

 ただまあ、まずは実際に魔物素材がどれ位でやりとりされているかですよね、品質とかもかなり関わるみたいですし。

 一応リストを作って、優先度高いのから選んでいこうとは思っていますんで、お酒や娯楽関係は余裕があればと言ったところですかね。」


 そこからは、それぞれが必要と思える物資を上げていく。全体から見た優先度、必要量などを。

 なかなかに白熱することも多く、休憩を挟みながらも、空が夕焼けに染まるまで続けられた。


 結局アルニアハンターズシティに行くメンバーは俺、モンテ、ガンジー、ロッコ、ルルさん、イゴールさん、一角族4人、に小鬼族騎兵隊2隊として決めた。初めての樹海からの遠征ということで中々の大所帯だ。

 イゴールさんはお爺ちゃんズの1人なんだけど、アルニアにいた頃は鍛冶工房での素材買い付けから卸業者との値段交渉までやっていたらしい。

 アルニア人相手の値段交渉はそれになりに慣れているということで付いてきてもらう事にした。


 モンテ、ガンジー、ロッコは普通に付いて来たがっていた。たぶん旅行気分なんだろう。かくいう俺もそうだ。

 ヤーシャとミーニャも、話を聞いた時は最初行きたそうにしていたが、やはりまだ樹海の外に出るのは怖いようで、結局行かないことにしていた。お留守番中はリナちゃんとケイ君に任せよう。あの二人の言う事はしっかりと聞いているしね。


 さてさて。お買い物リスト、メンツ、スケジュールが決まれば後は個人の準備のみ。

 こういう時のためにも、小鬼族が事前に作ってくれていた革製の大型バックパックには魔物素材を詰め込んだ。その上にはデジカメもしっかり入れておいた。もちろん予備のメモリーカードと充電器は忘れずにね。

 ………だって『アルニアハンターズシティ』だよっ? 

 日本であって、日本じゃない街なんだよ!? 

 日本人がほとんどいない上に、アルニアのあらゆる種族が闊歩している冒険者の街!! 

 街並みなんかも、特殊らしいんだよ!

 そらもうっ、心のシャッター押し捲りでしょ!?


 遠足前の小学生気分で準備した俺は、もちろん出発の日の朝は寝不足です。


 目の下に隈をつくり、目を爛々と輝かせて意気揚々とバック担ぐ。ポケットの一つはモンテ用で、顔だけ出している。腰をかがめて俺を待つ正一に跨り、周囲を見渡す。

 集合場所だった町の広場には、買い出し隊が既に勢揃いしていた。俺と同じく明らかに眠れなかった目を擦っている者、期待に胸を高鳴らせているもの、それとは対照的に不安を必死に押し殺している者もいた。


 どうなるかはわからないけど、まぁ行ってみましょうか。


 「じゃあ行ってくるからー。お土産たくさん買ってくるからねー」

 色々な想いを胸に、見送りをしてくれている人たちに手を振って出発していった。


 町を抜け、樹海の獣道を駆けていく。

 勝手知ったる自分たちの森を、無言で進む事しばらく。樹海の外縁部が見えてきた。

 

 樹海の際までくると、魔物達の姿が見えてくる。

 遠目から見てもそこら中にいるのが見えた。

 既に俺たちの匂いに気づいているのか、魔物たちの姿が徐々に増えてきていた。上を見上げると青鳶たちの低くも強い鳴き声が聞こえてくる。それに伴い、狼よりもはるかに野太いマグイたちの遠吠えも。


 ルルさんとその後ろに乗るイゴールさんの表情を見ると少し固い気がした。

 それもそうか……多くの仲間を失った記憶はまだ新しいだろうしね。


 「……そろそろ行きますよ。準備はいいですか?」


 ここは一気に行こう。

 彼らに恐れを思い出させない内に。

 恐怖を置き去りにできるように。


 「「「「はいっ」」」」


 威勢の良い返事を背中に受け、正一の腹を軽く蹴り一歩進み出す。


 「行くぞっ! 遅れるなよぉお!!」

 「「「「央ッ!!」」」」


 ランバード達の駆け出す音が、一斉に鳴り響いた。


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