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大学デビューに失敗したぼっち、魔境に生息す。  作者: 睦月
一章 異世界人がやってきた
4/66

魔物被害

 

 それから3ヶ月が過ぎていった。


 俺は緑小人達が楽しそうに走り回る家の畑を眺めていた。

 以前住んでいたマンションは立地や間取りもよくすこぶる快適だったのだが、いかんせん今の住人達には狭すぎた。


 あれから緑小人たちは成長と増殖を続け、今や総勢22人。サイズの方も気持ち大きくなっており、モンテで30センチもない位、その他でだいたい10〜20センチくらいの個体差はあるだろう。

 なにより、五郎ちゃんなんかは一メートルの大台に乗っているし、今まであまり触れなかったが、近藤くんはいつのまにかツノがもう一本増えて、サイズも当初の倍以上。小さな緑小人が一人跨って遊んでいるほどだ。サスケさんも4,50センチの体に加え、擬態の精度がかなり上がっている。ここしばらくは姿を見ていない。


 そんな住人たちを養うには以前のマンションでは無理だったため、先月とうとう引っ越すことにした。

 

 大学までの通学には2時間以上かかり、周囲には広い畑がたくさん見えるかなり長閑な田舎町。隣近所まで数百メートルは離れており、騒音を気にする必要もない。

 家賃は都心と比べて格段に安く、今は広い庭付きの古民家を贅沢に借りている。ちゃんと塀もしっかりしていて、外から見えないのも高ポイントだ。ウチには若干隠し事が多いからね。


 それまでのバイトもやめて、新しく近所のスーパーで働いている。傷んだ食材やお弁当をただでもらえるのもお財布に優しいよね。


 緑小人たちは十分な広さの畑で土いじりを満喫し、吾郎ちゃんはちょっとした恐竜のようにのっそのっそと緑小人達を背に乗せて歩き回っている。

 近藤くんはそこらの木にしがみついて蜜を堪能しているようだ。サスケさんは……変わらず謎。そんなまったりとした日々を楽しんでいた。




=============================



 それは東欧にある牧場で起こった事件だった。


 牧場主の夫妻に息子夫婦、そしてまだ7歳になる小さな男の子の5人家族での牧場経営。広い牧場には、多くの牛たちがのんびりと草を食んでいる。

 家の前の庭では奥さんが洗濯物を干し、子供が犬と一緒に戯れている。家の中では老婦人が食事の準備をし、夫たちは牛舎の中で掃除に身重の牛の世話とやることはいくらでもあった。それは都会で慌ただしく生きるビジネスマンが見たら、憧れるような田舎暮らしであっただろう。


 

 牧場主の息子は、夜中に目を冷ました。


 牛舎の方から牛たちの興奮した声に何かが破壊されるような大きな音がしたからだ。家の中からけたたましく犬も吠え続けている。隣に寝ていた妻も起きあがり、不安そうに見つめてきている。

 

 妻はガウンを羽織り、幼い息子の部屋へといき。夫はライフルに弾を込め、明かりをもって外に出ていく。外にはすでに彼の父親も出てきており、無言で頷きあい牛舎へと向かう。


 牛舎の周囲を慎重に探っていく。隙間から中を覗きつつも、牛たちが興奮している以外は異常はない、若干安心仕掛けたところでそれを見た。


 壁に大穴が空いており、その周囲にいたであろう牛たちの姿がいなくなっていることに……。そして壁や柵には血が飛び散っていた。

 地面を明かりで照らすとプロレスラー並みの大きな男の足音が見つかった。それは何人もいたようで、牧場の外に続く森の方へと続いていた。



 その後、警察がきて事情を聞かれ、現場検証が行われた。

 捜索隊を組み、森の方へと入って行ったが、見つかったのは無残に食い散らかされた牛の死骸だけがあり、警察犬の怯えたような声が響いていた。



 その事件はニュース番組でも特集が組まれ、日本人記者も現地での聞き込みや捜索に加わっている映像が流されていた。世論はUMAという面白がった噂話もあるにはあったが、概ねアルニアからの転移者が犯した、初めての血なまぐさい事件ではないかと言われ始める。


 だが、その話はすぐにたち消えた。世界各地で保護されている当のアルニア人たちが口を揃えたように



「「「あれは、オークの仕業だ」」」



と証言したからだ。



 彼らの話すオークの特徴や習性を、聞けば聞くほど合致している。

 オークたちは食欲、性欲旺盛でタフで常人よりもはるかに強い膂力を持っている。大きさは2メートル強もあり、その数の多さに加えて、数匹での集団行動や群を統率する知性の高さから、アルニアでも厄介な魔物として知られている。


 多くのアルニア人と同じく霧の中から転移してきたのだろうとの見解だった。


 そしてその事件は、オークたちの下見だとも説明された。味をしめた彼らは、少し時間をおいたら必ずまた襲撃にくる。その時に逃げるのが遅ければ、住人たちは殺され、女をさらい、彼らの子供を孕まされるだろう。



 事実、数日後オークたちによる再襲撃が行われた。数は6匹で豚を醜悪にしたような顔をしており、手には各々西洋の剣や斧を持っていた。体には何の獣かわからない毛皮を羽織り、恐ろしい吠え声をあげて牧場地に襲い掛かってきた。


 アルニア人の情報を受け、ライフル銃を装備した警官が4人パトカーで待機しており、音を聞きつけた牧場主とその息子もライフルを持って参加した。

 柵を越えてきたとはいえ、まだかなり距離はある。相手の容貌に度肝を抜かれはしたが、比較的落ち着いた様子で狙いをさだめ一斉射撃を食らわしていた。



 何発も当たったはずだった。現に体を仰け反らしたり、動きをとめたり、衝撃を受けている反応は確かにあった。それでもオークたちは歩みを止めない。

 流石に距離が近くなれば傷を負っている部分も目に見えはじめたが、とてもライフルで受けたような傷ではなかった。また、オークたちの動きは思った異常に素早かった。

 あと20メートルほどの距離と思った時には、ほんの数秒で警官たちを血肉の塊に変え、食らいついていた。


 

 そこまでが、その場にいた取材班が撮影できていた部分だ。


 話に聞く限りだと、その後に増援にきた警察が見たものは、あたり一面の血と肉と臓物が撒き散らされた惨状と、また森の方へと続く血と大きな足跡だけだったらしい。

 牧場の女子供たちは、念のためにと近くの町にあるモーテルに泊まらせていたのは不幸中の幸いだったようだ。


 運良く逃げだせた1人のテレビ局スタッフにより、ある程度編集された状態でテレビやネットにも動画が公開された。もちろん、世界はパニックに陥った。

 


 これが地球で最初の魔物被害になる。この時から続々と世界中で似たような事件が頻発する。

 出てくる魔物はオークだけでなく、ゲームの世界では定番のゴブリンやコボルトという存在も発見されはじめていた。

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