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大学デビューに失敗したぼっち、魔境に生息す。  作者: 睦月
二章 樹海の町の住人たち
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獣人とランバード④

 初めてだった。



 今までランバードが軽やかに走り去るところを見ていたけれど、それを鞍の上から見るのは……。


 景色が流れるように過ぎ去っていく。

 大きな岩や、木の根っこなんかをほとんど衝撃も感じさせずに飛び越えていく。


ーー 凄いっ ランバードってこんなに早かったんだ!


 そう思っていると、俺たちが走っている目の前の上空から、いくつものランバードに乗った人影が降りてきて合流しはじめた。



 ーー レン達だ



 レンに加えて、一角族のゴツイにいちゃん達、それにガンジーとロッコまでもがそれぞれランバードに乗って駆けている。



 その時点で気がついた。魔物の襲撃だ。

 その援軍に向かってるんだ。



 そう思ったら、俺の頭にケイさんの手が載せられていた。

 見上げると「飛ばすよ」とボソリと呟いた。



 ーー え? 今まで飛ばしてなかったの?



 瞬間、体が宙に浮いているような感覚になる。

 まるで体重がなくなったような感覚。 


 いつの間にか視界に映っていたレン達の姿が、横向きになったり、上下に左右になったりと一瞬で位置が入れ替わり、入り乱れるように動き回っている。


 いや、レン達が動いてるだけじゃない。俺たちが動き回ってるんだ。



 ラルクが羽を広げるたびに、景色が一変する。


 最初は道路の上を飛び跳ねながら走っていたはずなのに、今は巨木の枝から枝へと、ブワリと無重力状態で飛び移っていく。

 建物の上を音も立てずに走っていると思えば、空間を貫くように羽を広げ滑空している。

 太い木の幹、突き出した枝、障害物、それらを紙一重で当たり前のように避けていく。


 あまりの風圧で横を向く事すらできないけれど、流れるように見えていた景色が、今や色付きの線にしか見えていない。

 それでもさらに縦横無尽に、衝撃もなく駆け続けているため、目の前の色さえも混ざり合っていく気がしていた。



 それは……水の中を泳ぐ魚の気分だった。




 ーー 何…コレ………



 訳がわからない、わからないけど……ただ……ただ凄かった。

 その目に映るもの、感覚に完全に心を奪われていた。瞬きするのを忘れていた。


 いつまででもその世界に溶けていたかった。





 気がつくと、徐々に景色が通常に戻ってきていた。

 知らず知らずのうちに呼吸が荒くなってた。ドキドキが止まらない。


 頭上からケイさんが覗き込んできて「大丈夫?」と心配してくれている。

 返事が出来なかったので頷くと「じゃあ、ちゃんと見てて、大事な事だから」。


 そういって指差した先では、オーク達との戦闘が始まっていた。





 以前、両親から聞いていたオーク。

 人種と同じ装備を使い、知能も高く必ず数体一組で行動している。

 熊獣人なみの体躯と膂力、分厚い脂肪は天然の鎧、その上凄まじいまでの嗅覚を備えており、一度補足されたら足が砕けるまで走って逃げろと教えられていた。


 その恐ろしい魔物の代表格、オークの10匹近い群れがまるで相手になっていなかった。



 まず最初、先行して足止めしていた騎兵隊の人たちが、タイミングを合わせたように散らばった。

 そう思ったら、ガンジーとロッコのミサイルのような突貫で、オーク2匹がきりもみ状に吹っ飛んでいった。


 続いてレン達が到着したの見つけて、群がってきたオークたちを一角族の2人が余裕で受け止めてさばいている。

 その重心、バランス、一歩も下がらない強い気持ちと力。

 手放しでランバードに乗っているのに、一角族の心と合わさっているような動きだった。


 一角族の戦い振りに戸惑うオークがいれば、それまで軽快に相手との間を外して避けていたレンが、瞬時にオークの側を駆け抜けていく。


 目で追えなくなるような緩急の速度の後には、地面にボトリと落ちるオークの首と、血を吹き出し糸の切れた人形のように倒れこむ大きな体があった。


 騎兵隊の小鬼族達も、その長く太い杖を上手に操り、仲間とのチームプレイとランバードと一体化したような動きでオークを狩りとっていく。



 その後、ガンジーにぶっ飛ばされるヤツ、一角族にズッパリと切られるヤツ、騎兵隊に小突きまわされるヤツ、オークが可哀想に見えるような圧倒的な戦いだった。



 呆然とその光景を見ていると、いつの間にか俺たちの側にはレンとロッコがいてくれていた。


 頭に感じる暖かい感触。

 見上げると、手を置いたケイさんが優しい笑顔でコチラを見つめていた。



 戦闘が完全に終わると、レン達にお礼を言って先に帰っていく。


 行きのようなものすごいスピードという訳じゃなく、ゆるやかにランバードの乗り心地を楽しむような走りだった。


 ケイさんに後ろから腕をまわされ、流れ行く景色を目にしながら、涙が溢れていた。



 ーー 俺……バカだったな……… 



  ランバードの賢さと強さ、乗り手たちとの信頼関係の深さ、そしてそれに全然気づいていなかった自分が情けなかった。


 あのランバード達をただの鳥と思って、見下していたことが恥ずかしかった。


 彼らは、ちゃんと乗り手を理解してた。

 その能力に癖、性格、気持ち、その上で全力で力を貸してくれている。



 まぎれもなくパートナーだった。



 詰所に着いた瞬間、ロープを外して飛び降りた。


 納屋に駆け込み、親鳥たちの目を見て必死で謝った。攻撃されることも覚悟して謝った。

 最初は襲いかかられそうだったけど、それでも謝った。

 


 卵に無神経に近づこうとしてごめんなさい。

 バカにした態度でごめんなさい。

 ちゃんと謝らなくてごめんなさい。

 

 


 何度も何度も声に出して謝った。



 次第に……威嚇されることはなくなっていった。




 納屋の外へ出ると、ケイさんとラルクが優しく抱きしめて迎えてくれた。




=================================




「ーーという事があったんですよ」

「なるほどねぇ……」



 今は縁側でケイ君とオセロを打っている。

 モンテは相変わらずの大仏さまスタイルだ。ミーニャちゃんはそれを飽きもせずにニコニコと眺めている。



「しかし、それでも気の毒だねー


 ランバードデビューがケイ君とラルクの鞍の上とか………」



 ケイ君といえば、小鬼族きってのランバード狂い……もとい、ランバード愛好家。

 ケイ君といえば、樹海の町きっての走り屋でスピード狂。


 彼の休日は、樹海の奥地をいかに鋭く縫い走れるか、いかに直線でぶっちぎれるか、いかにギリギリのコーナーリングを攻めれるか、どれだけ鋭くキレのある滑空ができるのか。


 ミリ単位での重心移動、コンマでのせめぎ合い。

 彼は一体何と戦っているのだろうか?



 ランバード乗りの間では、ケイ君の走りはもはや変質的、ただの変態として有名だった。

 もちろんその相棒ラルクも同じ扱いである。


 この前のオーク戦だって、俺らが合流してすぐ弾丸のように消えて行った。

 そして、なぜか鞍の上に縛り付けられていたヤーシャに、俺は心の中で合掌していた。



「ちゃんと加減はしてましたよ?」

 上目遣いで伺うように言い訳してくる、町一番の変態走り屋。


「どうかね? 見ていたかぎり、やたらと立体駆動が多かった気がするけど……」

「気のせいです」

 目を見ずピシャリと否定された。



「で、その後は?」

「それはもう、人が変わったようにランバード達に接していましたよ。

 彼の仕事振りには深いランバード愛を感じました。ヤーシャもこれで立派なランバード愛好家ですね」

「……ちょっと」

「…………一般的なレベルでの、ランバード愛ですよ。……………今はね」

 

 最後の言葉だけは聞かなかったことにしよう。



「それで、その結果が……アレなワケだ」

「はい。アレなワケです」


 和やかに微笑む彼の視線の先には、



 ーー 綿あめのような雛と一緒に駆け回る、ヤーシャの姿があった。





これで二章は完結です。

只今、三章を書き進めているところですので、出来上がり次第また投稿していきます。


これまでブクマ、評価してくださった方々、本当にありがとうざいました^^

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