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大学デビューに失敗したぼっち、魔境に生息す。  作者: 睦月
二章 樹海の町の住人たち
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樹海の町の観光案内

 一角族とルルさんの事件はとりあえず無かった事にして、せっかくなので樹海の町をお爺ちゃんズに案内することにした。


 案内するとはいっても、基本的には人外魔境呼ばわりされている超が3つはつく程のど田舎だ。

 観光名所どころか大してガイドするところもない。



 あそこに倒れているお酒の自動販売機は、ウチの酒乱モンテがガンジーに頼んでこじ開けさせたものなんですよー、とかいう余計なガイド説明は止めておこう。

 


 あっ 彼処に放置されている軽トラは、車の運転に興味を持ったロッコがハンドルを破壊してしまったやつだ。


 懐かしいなあ 誰も住んでいない町中で、交通事故起こしかけたのは今でも昨日の事のように思い出すことができる。


 助手席に座る俺に、もぎ取ったハンドルを手渡された時の絶望感は忘れられない。

 道路をたまたま横切っていたガンジー先生に止めてもらえて本当に良かったと思う。



 またある時、夜中定期的に聞こえてくる、何かを叩きつけるような音が町中に響いていた。

 さすがに気になって、モンテを連れて恐々と外へと見にいってみた。


 そこで目にしたものは、ガンジーが電柱相手に正拳突きを叩き込んでいる姿だった。

 何でも拳を鍛えているらしい。

 感想は何も言わず家に戻ったが、しばらくテレビもつけずに居間で放心していた。


 数日後、その電柱は倒れていた。それを今ちょうど跨いでいるところだ。



 樹海の町での思い出の数々に想いを馳せていると、



「ぬぉおっ」


 ーーガスっ


 お爺ちゃん①の悲鳴と共に、近藤くんのお仲間が勢い余って3本角を樹に突き刺していた。



「お爺ちゃん…… こういう蜜がありそうな立派な樹の間を通るときは、しっかり左右の確認して渡らないとダメでしょ?

 それとちゃんと耳を澄まして。怖そうな虫の羽音が聞こえてきたら一時停止は基本ですからね? 」

「え……悪いの、こっちかの?」

「交通ルールを守るのは自分のためですから」

「す、すまんの」

「じゃあ、ちゃんと抜いてあげましょうね。その子困ってますから」

「わかった。……よっと。………しかし、さすが魔境じゃな、こんな生き物見た事がないぞ。ちなみになんて生き物なんじゃ?」


「…………ビ、……ボーリングビートルですね」

「今考えたじゃろ?」




「おぉぉ!」


 お爺ちゃん②の感嘆の声に振り向くと、樹々の間を指差して何か感動していた。


「お、おい、さっきそこでユニコーンのような美しい双角の生き物がおったぞい。ここにゃあ、あんな神秘的な生物までおるんかっ」

「あぁ、きっとホワイトディアですね。警戒心強いからあんまり人前に出る事はないんですけど、ツイてましたねー」


「そうかーすごいなー 美しかったのう、また見たいのぅ」


 目を少年のように輝かせているお爺ちゃんを微笑ましく眺めていた。



 ーー 言えないな


 イノシシ(豚肉)に飽きて作った、鹿肉兼芝刈り機代わりだったとは。


 まあ、大ヤギの群れがいるのがわかったので、未だに食べたことはないんだけど……

 もし狩ることがあっても、食材の名前は絶対に嘘つこうと心に決めた。


 ついでに町中の緑小人たちと、畑の作物を巡って骨肉の争いを振り広げている事も黙っておこう。イメージを崩したらお爺ちゃんがかわいそうだしね。




 ーー ピュゥィピィッ



 指笛を鳴らす音が聞こえたので、そちらを振り向いてみると……お爺ちゃん③が塀によじ登って何かを見ていた。



「おう姉ちゃん、ええ乳はしとらんがケツはいい形しとるぞい。今度触らせてくれやあ、がはははは。嫁の貰い手がおらんのじゃったら、ワシっーー」


 その瞬間、誰かの手が塀の上に伸びてきて、出歯亀じじいの髭を掴み塀の中へと引きずり込んだ。

 一瞬だけ見えたのは、それは美しい金糸のような髪質だったが、気のせいだろうか。


 町中をぐるりと歩いてきた結果、いつの間にか衛兵隊詰所の前まで来ていた。

 ついでにいうと、詰所にいる小鬼族たちが愛用している、五右衛門風呂が置いてある場所だね。


 ーー あれ、気持ちいいんだよね。俺もたまに使わせてもらっている



「ぬぉおおっ ちょっちょっと待てぇい。ひ、ヒゲはやめい、ドワーフの誇りじゃぞいっ」

「うるせぇっ、てめぇぶっ殺すぞっ」

「ひ、ひいぃぃぃぃ」

「ちょっと……何事ですか? キャァァァア! ルルさんダメっ それはダメ!」

「……リナ殿、どうされた……ストップ、ストーーップ、エラいことになっとるっ」

「こんのクソジジイがぁああっ」

「ご、ごめんなさい。も、もうせんからぁああーー」



 以前聞いた時は鈴のようだったドスの効いた声とジジイの哀れな悲鳴。

 駆けつけてきたリナちゃんの悲痛な叫び声。止めに入る一角族の女の声。


 塀の向こうがどんな事になっているのかは、知らない方がいいだろう。


 ジジイのヒゲが燃える匂いに鼻を摘みながら、その日は家路についた。

 せめて夕飯は香りの良いものにしよう。



 あと、近所にちょうどいい民家があったので、お爺ちゃんズはそこを工房に改造して鍛冶業を始めてくれるらしい。やったね。


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