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大学デビューに失敗したぼっち、魔境に生息す。  作者: 睦月
二章 樹海の町の住人たち
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エルフのショッキング映像

 ニュースでもあのゴブリンとコボルトの争いが報じられていた。


 どこか胡散臭い自称魔物専門家が樹海の瘴気によるものといっていた。


 なんでも樹海へ近づけば近づくほど、魔物を凶暴化させる瘴気というものが色濃くなっており、そのため魔物達が続々と集まり群れが大きくなっていっているという。 ーー そんなもの感じた事ないんだけど



 ただ、実際にあの時の規模は相応に大きかったらしい。


 どちらも100匹を越すような数の群れで自衛隊や政府が危険視して監視していたようだ。

 下手に刺激して都心部に魔物が向かってきては叶わないと、かなり神経質になっていたらしい。


 徐々に膨らみ、いつ割れてもおかしくなかった風船が一気に破裂したかのように、両者がぶつかりあった。

 そしてそれに対して、自衛隊も魔物殲滅を試みて色々と作戦を繰り広げていたようだった。


 ニュースでは言わない事も多く、ネットでは自由な発言が過ぎる。

 正直どこまでが本当でどこまでがガセネタなのか検討がつかないが、それは保護したアルニア人に聞くとしよう。


 持っていた装備がある程度統一されていたことから、どちらも自衛隊所属のようだった。




 さて、まずはエルフさんから言ってみよう。

 なぜかって? それは聞かずともわかるだろうに。


 襖を軽くノックをすると鈴のような声で「どうぞ」と聞こえてきた。


 遠慮なく中に入ると、エルフの女性は布団を出て正座で待っていた。

 開口一番命を救われた事に対してのお礼を、手をつき深々と頭を下げながら並べ立てていた。


 ファンタジーの代名詞、エルフ美女からのDO・GE・ZAは意外とショッキングだったこともありかなり慌てた。

 助けたことは助けたが、魔物処理に向かったらついでにそこに居た位だったので、そこまで言われても……というのが正直な気持ちだ。


 様子を見る限り、かなり緊張している。後ろに控える一角族は外に待たせた方がよかったろうか?




 改めて彼女の様子を眺めてみると、頭を包帯で巻かれ、今は怪我から眼帯をつけてはいるが、それでもわかる美しさ。

 髪は金糸のような細さと艶やかさで、開けた窓から入る風だけでもかすかに揺れている。


 目、鼻、口、それぞれのパーツが出来すぎた造形のように完璧な造りをしていた。

 最初に街中で見たエルフの女性は遠目だったためによくわからなかったが、息を飲む美しさというのは正にこういうことを言うんだろうな。


 ほっそりとした体つきには確かな魔力を感じ、長い耳や雰囲気の神秘さと相まって、始めてアルニア人という存在を認識した気がした。



 とりあえず、体の具合を確認して幾つか質問したいことがあると伝えると、


 「重ねて申し上げますが、この度はいくら感謝してもしたりない恩義を受けました。何でもご質問ください」

 

 貴族というか武人というか、若干固すぎるような言葉使いだったが、気にせず色々と質問を重ねていった。

 あなたは誰でどこの所属なのか? なぜ、ここに来たのか? 外の状況はどうなっているのか? 一緒にいた仲間とはどういった関係なのか? 


 一つ一つに丁寧に答えていってくれた。

 まあ、要約していくと、


 まず、彼女の名前はルルさん21歳。自衛隊所属のアル二ア人斥候部隊の一員との事。

 

 今回は樹海の周辺に縄張りを持つ魔物同士の争いを機会に、各魔物たちの集落の殲滅、及び樹海への偵察も兼ねていたらしい。


 ところが、作戦が始まってみるとゴブリンやコボルトの1個体の力が予想以上に強く、どさくさ紛れに集落を攻撃する作戦は難航。


 それに加えて、樹海に近づけば近づくほど、事前の衛星偵察などでは確認できていなかったオークの群れやオーガの存在を何体も確認することになる。

 

 魔物同士だけでなく人種の血の匂いを嗅ぎつけた大型の魔物達は、続々と戦場に乱入してきた。

 その結果、自衛隊が作戦を継続するのは非常に厳しい運びとなった。



 何でも樹海の上空や近辺は、異様に高い魔素濃度(大気中に含まれる魔力量をこう呼ぶらしい)に覆われているからか、どうも正確な情報を掴みづらいらしい。


 そういえば、一時期からヘリコプターも来なくなったな。



 そこで撤退指示が出されたのだが、先行していたアルニア人を主力とするような部隊は、すでに混乱状態となっており、魔物たちの戦場にほぼ取り残されることになった。


 特にルルさんのいた斥候部隊などは、ほぼ孤立無援の状態だったらしい。



 直ぐに戦い切り抜けることは諦め、魔物達の血と泥を体中に塗りたくることで人種の匂いを誤魔化し、ひたすら隠れ潜みながら逃げ続けていたとの事。


 それでも仲間達は魔物に襲われ食われ減り、また同じように戦場に取り残されたアルニア人部隊を見つけては合流して、というのを延々と繰り返し這々の態で逃げ続けてきたようだ。



 そこまできて、もう都心部に帰還するのは諦め樹海の木々に身を隠しながら、何処か身を休めるところを探そうという事になった。

 その後、オークやオーガの縄張りを強引に突破して、俺たちが知る状況に至ったようだった。



 話の途中でリナちゃんがお茶を持ってきてくれていた。

 ちらりコチラに視線を投げて来ていたので「もうそろそろその辺で〜」と言う事だろう。

 確かに怪我人相手に話しすぎたね。


 ちょっと姿勢を正して、



「ルルさん。貴方のこれまでの経験、境遇を聞いて、口が裂けても気持ちを理解できるとは言えません。


 ですが、ここにいる間は、魔物はもちろんの事、あなた方に危害を加える存在を立ち入らせはしません。それが、今は私たちにできる唯一のことでしょう。


 どうかゆっくりと怪我の治療に専念して、今後の身の振り方をお考えください。

 あと、何かあればこの治癒士のリナに言ってくださいね。貴方のことをとても心配していましたから」



 彼女の目を見て安心できるような声音を意識して伝えた。

 涙を堪え、再度頭を下げお礼をいう彼女を残して部屋を退出していった。



 リナちゃんに話を聞いていた通り、真面目で実直な人のようだ。

 昨日は犠牲になった仲間を想い、声を押し殺して詫びながら泣いていたとも言っていた。


 話していても心根の真っ直ぐさが伝わってきていた。悪い人ではないだろう。

 ちょっと安心した。




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