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大学デビューに失敗したぼっち、魔境に生息す。  作者: 睦月
二章 樹海の町の住人たち
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魔物の捕食者

 町にある診療所から大量の消毒薬と包帯、添え木などを持ってきてもらい、小鬼族の治療担当の子に任せる。


 小鬼族は衛兵隊として真っ先に戦っているので怪我も多い。自然とそういった役割の子が決まっていた。


 名前はリナと言って、丸っこい顔つきの世話好きな女の子だ。

 彼女の柔らかい雰囲気は母親のようなやさしい包容力を感じる。

 彼女に手当てしてもらうのが小鬼族男子の中では、密かなブームらしい。



 数時間後、家の座敷で包帯だらけになって川の字で寝ているドワーフたちがいた。唯一の女性であるエルフの部屋は一応別にしてある。

 色々と聞きたい事はあるが、とりあえず今は全員休ませておこう。


 それよりも優先したいことがあった。






 樹海の町周辺を包囲するように、魔物達の群れが増えてきているのは知っていた。


 このまま放置していたら、そのうち一気に樹海になだれ込んでくるかもしれないという懸念はあったが、町の戦力も順調に増えていっているし、今日まではそこまで深刻にとらえてはいなかった。



 もっと早めに手を打っておくべきだった。

 周囲の魔物を間引く存在を作ろう。


 そのため、今日手に入ったばかりの中立の魂を有効活用させてもらう。


 アルニア人の魂は強かった。

 人間に比べると単純に倍以上は魂の密度が違った。十分錬生に足る。


 

 ということで生物錬生の準備を始める。

 場所はいつもの家の庭ではなく、今回は少し離れた空き地を選んだ。



 まずは一つ目。

 富士山さん家からいただいてきたヒグマの爪、そこらにいる野犬の血、イノシシの牙、そして魔力を含んだ畑の土。これを8体分。


 イメージは獰猛な肉食獣。魔物達を群れを率いて狩ることができる獣。硬い体皮を食い破る強靭な顎と牙、瞬時に距離をつめ獲物を捉える脚力と爪。そして高い狩猟能力。


 しっかりとイメージを固めて中立の魂を注ぎ込んでいった。



 そして二つ目。

 カラスの血、富士山さん家から頂いてきた鷲の羽、ランバードの爪、魔力を含んだ畑の土。これを5体分。


 イメージは……大空を悠々と飛び交い、獲物を見つけるや恐ろしいほどの速さで魔物に襲いかかる猛禽類。その太く鋭い鉤爪で相手を仕留め、強固な嘴は硬い皮でもやすやすと啄ばみ肉を食らう。


 イメージがはっきりとしてきたところで中立の魂力を注いでいった。



 少し仮眠したあとに、錬生した生き物がいつ生まれてもいいように夜通し待った。

 側には一角族が4人と小鬼族が6人控えている。



 まず先に生まれたのは肉食獣の方だった。

 素材が混じり合った8つの塊が徐々に色づき生き物を形作っていく。

 

 一体目、二体目と獣として生まれ始めた。


 それぞれの個体に濃淡の差はあれど、全体的にグレーの毛並みだ。

 ゆっくり立ち上がり、最初に俺を認識した獣がいた。

 その一匹は周囲に比べ、特に灰を色濃くしたチャコールグレーのような毛色。

 

 視線が交差する。

 どこかこちらを探っているかのように、澄んだ青い瞳を向けてきていた。

 他の獣たちも体についた泥を振り払いながら立ち上がってきている。



 その姿で真っ先に目に入るのは牙。

 獲物を人噛みでとどめを刺せるような、下顎から外に突き出し、内側に湾曲している杭のような太さだった。

 それが左右に3本づつ並んでいる。大きな顎とそれを支える野太い首。大型犬を上回る体高。熊と土佐犬の中間のようなゴツい体つきをしていた。


 周りの獣達が俺たちに視線を向け始め、牙を剥き低く唸り始めた。

 まだ体に血の匂いがついているのかもしれない。


 即座に一角族が剣を構え前に出る。小鬼族達も各々槍や弓を構え臨戦態勢に入っていく。

 張り詰めた空気の中、獣の群れの一匹が空き地の隅からこちらを恐々と覗いていた緑小人に気が付いた。


 態勢を低くして今にも踏み出そうとした瞬間、声をかけた。



 「そいつらには ”絶対” に手を出すなよ」



 言葉をかけた獣はビクリと体を大きく揺らし、こちらに向き直り怯えたように威嚇しなおしてくる。


 一角族の前に出た。

 周囲の獣たちが警戒する中、俺を静かに見つめている最初の一匹は未だに微動だにしていない。



 「眷属には牙を剥くな。

 お前達の獲物は樹海の町の外にいるような魔物たちだ。

 ……それ以外を無闇に襲うことは禁止する」



 群れの長であろうその一匹から、一瞬たりとも目を逸らさずに話かけた。

 脅すことなく、猛ることなく、媚びることなく、淡々とした口調で。


 少しの間、静止した時間が流れた。


 不意に長が俺に向かってゆっくりと歩き出す。

 一角、小鬼族達が反応しようとしたが、目で制止した。



 目の前まできても歩みを止めず、俺に体を擦りつけ、背中に回り匂いをつけるようにゆっくりと一周していく。

 その間、彼の体に手を置いて毛並みを堪能していた。ごわついていて、いかにも強そうだった。

 ーー モフラー好みではないね。



 そのまま群れに戻り、一度だけこちらを振り返って他の獣を率いて消えていった。



 深く息を吸い吐き出すと、周囲に弛緩した空気が流れた。


 

「レン殿、あの生き物は何と命名されますか?」


「………マグイ。魔物を食ってもらうために産んだからマグイって呼ぼう」

「承知しました。皆に特徴を伝え、念のために警戒させておきます」

「そうだね。……やっぱりちょっと危なかったね」


 俺の言葉を受け、苦笑い気味の一角族。心配させたようだ。


「もうレンさん、ああいうの止めてくださいね。あんな牙で咬みつかれたらどうするつもりだったんですか?」

「ランバード達がいなくて良かった……。あんなピリついた空気出してたら、制止聞かずに飛び掛ってたと思いますよ。アイツら結構気短いから……」

「すんません、正直ビビってました。帰りたかったっす」


 小鬼族達も冗談まじりにぶう垂れていた。まあ、アイツらかなり迫力あったしね。




 やっぱり中立の魂は少し御しにくいところがある。


 特に今回は魔物の間引きのためだから、相当に気性が荒く余計にだった。

 これが自分の魂力を注いだ眷属ならもっと話は簡単だったんだけど、今回は中立の魂を使わないといけない理由があった。


 この前、一角族を初めて錬生した時に気付いたんだけど、眷属は俺から離れて暮らしたがらない。

 特に注いだ魂力が多ければ多いほど顕著だった。


 四六時中べったり、というようなことじゃなく(一角族は必ず誰かを側に仕えたがるが、それはあくまで護衛兼世話役の仕事として)、基本的に同じエリアで生活することを当たり前としている。


 岩人の2人にしてもそうだ。


 まあ、あの子らは基本マイペースだから、一角族ほどわかりやすくはないけれど。

 それでも同じ家から出て別々に住もうとはしない。

 ましてや樹海から出て外で生きようとは考えもしていない。モンテや小鬼族たちも同じだ。



 繋がりが強いからこそ、忠実に純粋に側にいたがる。



 緑小人を見ていたら、世代を重ねるごとに徐々に薄くなっていってはいるようだが、それでもまだ十分強い。


 眷属を親子や親族とするなら、非眷属は経営者と従業員位のちがいかな?


 一応、生まれた時点で敬意や畏れはあるみたいけど、心服しているわけじゃないって感じ。

 気に入らなければいつでも辞めますなスタンス。


 だから今回のように、樹海の外も狩場にして自由に暴れてこいっていうのは非眷属のほうが向いている。

 ここより気に入った場所があれば、そのまま出ていって自分のコミュニティを作るだろうし、ここが良ければ適当に外で狩りをして、その辺に寝ぐらを作って最低限のルールを守って好きにやっていくだろう。

 

 ま、一長一短適材適所ということで、そろそろ次の子らが生まれてきていた。


 

 

 猛禽類の方は、青鳶あおとびと名付けた。


 体は犬鷲より大きく全長は100センチオーバーとかなり大型だった。

 色は濃紺、目は黄色く猛禽類のそれだった。爪はランバード並みの凶悪な仕様になっていた。嘴は言わずもがな。


 マグイのように今にも襲いかかってきそうな雰囲気はなかったが、周囲の木の上から睥睨されている状況は、普通の人ならガクブル間違いなしだろう。

 

 声をかけて、肉を置いてやると下に降りて啄ばみ始めた。

 食べ終わりを待ち、マグイの時と同じようなことを話すと、一瞥だけして空に飛び立っていった。

 一貫して超クールな生き物だ。



 気がつくともう夕方になっていた。

 かなり疲れた。今日は早めに風呂入ってゆっくり寝よう。

 ーー炭酸ガスが恋しいよ

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