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大学デビューに失敗したぼっち、魔境に生息す。  作者: 睦月
二章 樹海の町の住人たち
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鬼の目にも涙

 小鬼達の鍛錬は朝早くはじまる。


 標準装備の杖を構え打ち合い、お手製の木刀での立会い、木弓の的あてなど、毎朝威勢のいい声と共に木と木がかち合う音が響いている。


 オウッ エイッ オウッ


 今日はそこに一際野太い声が混ざっていた。

 樹海一の武闘派一角族だ。


 なぜこんな朝早くから、汗臭い訓練を俺が眺めているかというと、話は昨日の晩にさかのぼる。




ーーーーーーーーーーー




 夕食を食べ終え、モンテ、ガンジー、ロッコの4人でミュージック番組を見ていた。

 興が乗ってきたのだろう、ちゃぶ台の上でモンテが変な踊りをし始めたので動画撮影しているとーー



「「上申いたすっ」」



 大きな声が庭先から聞こえてきた。

 びっくりしながら声の方を向いてみると、一角族の2人がそれはもう美しい土下座をかましていた。

 もうピターっと揃っていた。



 ーー この前、時代劇見せたからだな。すっげー目キラキラしてたし



「「重ねて申すっ、上しーー」」

「ーーすいません! 温度差凄いんで、縁側に上がってもらえますか? 話ちゃんと聞くんで」

「「ーーかたじけないっ!」」

 ちょードヤ顔だね。言いたかったんだねそのセリフ。気持ちはわかるよ。



 でまあ、ロッコにお茶を入れてもらいながら話を聞いてみた。

 この前非番の日を使ってガンジーと手合わせしてもらったらしい。ーー ああ、それだけでお察し



 何でもその時の熱く重いパンチに心底痺れたとか、ーー くっ 脳筋度マックスが……


 自分たちも、もっともっと強くなりたい、だから小鬼族が毎朝やっている鍛錬に是非参加させて欲しいということだった。


 んで、その許可と2人で一緒に参加したいから、俺にも付いてきてくれということらしい。

 あー必ず1人は側に控えてるもんね。その時だけ離れるということは、聞くまでもなくありえないとの事。


 まあその時間はいつも起きてるからいいか、と頷いて



 ーー 今に至る。



 小鬼族の数倍はありそうな太い杖?軽い丸太じゃねぇという獲物で素振り。

 木刀を持って一角族2人の本気の打ち合い、弓矢の練習も含め、それはまあ顔を輝かせて参加していた。

 

 小鬼族3人対一角族1人という形式での模擬試合もやっていた。

 何でも四方からの攻撃に備えたいらしい。バテたらもう1人と交代して、それをさらに延々と続けていた。


 最終的には小鬼族騎兵隊一隊との模擬戦を連戦。

 さすがにこれには耐えきれず、地面に大の字なって倒れていたが、その表情は満ち足りていた。


 

=================================================



 しばらく後、オーガが2匹立て続けに現れたことで、いまは一角族が6人になっている。

 これだけ人数がいれば当面は安心できるし、その内子供も生まれて増えていくだろう。


 一気に増やしすぎると、ルールとか環境とか対人関係とかが色々面倒臭そう。

 伊達に大学デビューに失敗してぼっちをしていない。その辺のスキルは壊滅的だろうよ。言わせないでくれ。


 さすがに一角族6人は多いので近所の家に住まわせているが、ローテーションで必ず1人は家に宿直して側に控えている。

 人数が増えたおかげで、朝の鍛錬に付き添わなくてよくなったのは何よりだった。




 肝心のオーガ戦はどうだったかというと……まあ、何というかアレはひどかった。



 まず、前回の戦闘経験を元に、小鬼族がうまく注意を引きながら時間稼ぎしてくれていた。

 お陰で被害は最小限に抑えられていた。


 そして、一角族の2人とガンジーとロッコを連れて駆けつけたわけだが……以前冷や汗が流れたあのオーガの一撃を、一角族は1人で正面から受け止めていた。流石だね。


 その間にもう一人がオーガの背後に回り、膝裏を蹴り体制を崩させチョークを決めたところで、ガンジーとロッコの生き地獄ボディブローが ーードドンッ と連続して無防備な腹に炸裂していた。


 悶絶するように地面に膝をついて、口から変な物を出している3メートル強ゴリマッチョなオーガくん。

 何かに堪えるようなその必死な形相に、一角族の蹴りがクリーンヒットする。

 気持ちいいくらいに容赦がなかった。

 


 そこからは小鬼族も一緒になって、もう見事にフルボッコ。

 気のせいかもしれないけど……あの時俺は「鬼の目にも涙」という文字通りの光景を見た気がするよ。

 最後に一角族が、思い出したように背負っている西洋剣を構えてトドメをさしていた。


 その数日後に来たもう一匹も、以下同文な感じで終わっていった。



 ーー 俺、もういなくていいよね?



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