一番来てほしくないヤツ
続々と魔物はやってくる。
ゴブリンやコボルトはもちろん、前回のオーク戦から一気に豚どもの侵入も増えてきていた。
まあその分、ロッコや小鬼族の程のいいサンドバックになってはいるが……。
ここ最近のロッコが日課にしている、シャドーボクシングには光るものを感じ始めている。
どこかでボクシング入門本を探してこよう。
ガンジー? ヤツの正拳突きには神が宿ってると思う。
これ以上成長したら、マジで北斗ちっくな技を継承し出すかもしれない。
と、まあそこそこ余裕をぶっこいていたワケだが、とうとう樹海に大物がやってきた。
俺が一番来ないでほしいなーと思っていた魔物だ。
まあ、その分準備は万端だが。
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太い木の枝ををへし折りながら歩いてくる。
手には何処かで引っこ抜いたのか、根っこをつけたままの木を棍棒のように振り回してた。
身長は3メートルを超える、はち切れんばかりの筋肉をまとった大男。
額には2本の角を生やし、鋭い犬歯が口から覗いている。
大鬼、同じ鬼の魔物として有名なゴブリンと比べると体躯はもちろんの事、纏う魔力、その存在感、まさに”格”が違った。
オーガの数メートル先を騎兵隊の一隊が上手く挑発しながら走ってきていたが、俺たちが視界にはいると散開してオークの前から姿を消した。
新たに俺たちという獲物を目にしたオーガは、そのたくましい胸板を膨らませ息を吸い込む。
次の瞬間樹海に響いたのは、弱者なら聞くだけで恐怖に身を奪われるような凄まじい咆哮だった。
岩人の2人はランバードから降りてオーガを待ち構えている。
あのオーガの一撃を受け止めるのなら、地に足を踏ん張ったほうがいい。
その後ろには正一にまたがった俺が控え、その背後を半円に囲むように小鬼族の騎兵隊が2隊並んでいる。
今日は全員弓をオーガに向けて構えていた。
「撃て」
俺の合図で、一斉に矢が放たれた。魔力を通した矢は魔物にも有効だ。
だが、オーガの皮膚は分厚いうえに魔力も濃密。刺さりはするが、致命傷にはなり得ていない。
ドスドスドスと重い足音を地面に響かせながら、手に持つ木を振るい飛来し続ける矢を払い落とす。
より猛り狂うオーガを前に、ガンジーとロッコは静かに身構え始めた。
今回の彼らの役目は、その硬さと重さを生かした受け役、ゲーム風にいうとタンクがメインだ。
多分だが、オーガを相手にしても単純な力勝負になら負けないくらいのものは持っているし、彼らの拳が凶器なのはオーガだろうが変わらない。
ただ、いかんせん体格が違いすぎた。
大きいという事は、それだけでもリーチや体重の乗せやすさで有利になる。
このままの条件でガンジー達だけを攻めの要として使うのはリスクが大きいと判断した。
よって彼らには、最初は守りに徹してもらうことにしている。
目の前までやってきたオーガは、その勢いで大木を横ざまに振り抜いてきた。
あれほどの太さの大木ではありえないぐらいの風切り音に冷や汗が流れる。
ガンジーとロッコは、それぞれの腕を盾にして腰を落として真正面から受け止めた。
すさまじい破壊音が鳴り響き、ガンジーとロッコの両足が地面に深く線を引いてやっと止まった。
オーガは振り抜いた体制のまま、牙を剥き出し2人を見下ろしていた。
手に持つ大木は半ばからひしゃげ飛んでいる。
それを見てーー
「今だ。叩け」
一瞬動きが止まっていたオーガの脳天に、太い木の枝が次々と叩きつけられていった。
トレント達だ。
この周辺は比較的大きな巨木が生えており、その中にはトレントも多く混じっている。
この場所にオーガをおびき寄せ、一瞬でも動きを止める。
前もって協力を取り付けていたトレント達には、そのタイミングで上から打撃を叩き込んでもらう手筈になっていた。
完全に不意を突かれ、四方の頭上から振り下ろされる重い攻撃にたまらず体制を崩しかけたオーガ。
そこへガンジーがオーガの足に飛び込んでいく。
ラグビータックルのように横合から掬い上げられたオーガは、音をたて盛大に転倒する。
四つん這いになり立ち上がろうとしているところで、正一の上から背中へと飛び乗った俺の一撃が、オーガの首筋へと突き刺ささった。
切り落とすまでは至っていない。硬い筋肉に阻まれ、抜けなくなったスコップをそのままに背中から転げ落ちて逃れた。
転がりながら体を起こし、オーガへと視線を向けるとーー
ロッコが飛び上がり、オーガの喉仏を蹴り上げ首をへし折っていた。
オーガの首からくぐもった鈍い音が鳴り響き、四つん這いのまま声にならない呻き声をあげている。
その直後、全身の力がぬけ落ちたように地面に倒れ伏した。
倒したのを確認して、駆け寄ってきた2人の頭を撫で付ける。
しゃがんで、2人の小手と胸当てを外させ傷や骨に異常がないかを確認した。
「ガンジー、ロッコ、お疲れ様。痛いところは?」
2人とも首を横に振っている。
協力してくれたトレント達にも触れながら、一体一体お礼を伝えていった。
小鬼族達とも無事を確認しあい、初のオーガ戦は終了した。




