小鬼の責任感
小鬼族にもいつの間にか2人の子供が生まれていた。
ここ最近小鬼族の女の子の姿をあまり見ないなと思っていたら、ちゃっかり妊娠していたらしい。言ってくれれば、お祝いの品くらい用意したのに……。
小鬼族の子らは家の近所にある別の農家で寝泊まりしている。そこにも立派な畑があり、緑小人達が住み着いてガンガン果物や野菜を育てているため、菜食には困らない。
しかも小鬼族は狩りが上手い。
ネット知識を元に教えた手作りの罠や弓を自作し、ウサギやイノシシ、それにキジなんかも取ってきて、よくおすそ分けしてくれる。
獲物の中でも一番多いのは、空き農家からいつの間にか逃げ出して、かなりの数繁殖している鶏だった。これも大地に魔力が根付いた恩恵なのか、明らかに通常の鶏よりもビッグサイズになっている。体高は大体60センチ位だろうか? 子供が見たら泣くレベルだ。
小鬼族のリーダーに、以前からお願いされていた事がある。
彼らは町の衛兵として日夜見回りをしてくれているわけだが、いかんせん町はそれなりに広い。
つい先日、ゴブリンが発見された時も、結局は軽トラで小鬼達を拾って向かった位で、俺たちとは別働隊として即座に駆けつけるという体はなしていなかった。
まあ、そこは直ぐに人数が増えるだろうし問題ないだろうとは思っていたのだが、衛兵というイメージで生まれたこともあり、思った異常に生真面目な性格をした種族だったようだ。かなり責任を感じてしまっていた。
そこでお願いされたのが、自分たちの足になってくれるようなパートナーが欲しいということだった。
これに関しては俺も前から考えていた事ではある。
今使っている軽トラも、そのうち蓄えてあるガソリンがなくなればどうしようもない粗大ゴミになる。それまでに、自分たちの足になるような存在を錬生した方がよかろうと。
と、いうわけで今日も生物錬生をしましょう。
準備するのはイノシシの牙と骨を少々、カラスの羽、鶏の足と血を数滴、そして上質な魔力をたっぷりと含んだウチの畑の土。それらを3匹分。
イメージは……逞しく強い脚力、争いになっても恐れず、身軽で素早く動き回り、乗るものに対して賢く忠実なパートナーである存在。そこまでイメージが固まったところで魂力を注ぎ込んでいった。これからの大事な機動力なので、こめる量も多めにしておく。
翌日、生まれたのはダチョウを全体的に太く大きくしたものだった。
濃いブラウンのモヒカンのような雄々しいたてがみと、黒と灰色の入り混じった羽、やや下に湾曲した尖った嘴。どこか剣呑な雰囲気のある大型の鳥だ。
首は逞しく、足はガッシリと骨太で、太く鋭い爪が地面に食い込んでいる。体高は2メートルは優に超えている。
見た目とは真逆に3匹とも大人しくしており、こちらから声がかかるのを待っているようだ。緑小人たちは近寄らない。
その内の1匹が目の前まで歩いてきて座り込んだ。
黒い瞳で俺を見つめてきて、なんとなく『乗ってみろ』と言われているような気がしたので、思い切って背中に跨ってみた。
俺の体重を全く感じさせないような動きでスクッと立ち上がる。急に視界が上がったことで驚いて首にしがみついてしまったが、鳥は微動だにもせずひたすら頼もしい。
ひとしきり首や体を撫でていると、目を細めて気持ちよさそうだった。
「少し歩いてみてくれる」というと軽快にトントントンと数歩進んで立ち止まる。
柔らかな羽毛とバネの利いた足腰から、それほど衝撃は感じない。それにこちらの意思を正確に汲み取ってくれる賢さもある。
ものは試しにとガンジーやロッコ、ついでに緑小人達も乗せてみたところ、軽々と動いている。むしろ岩人二人乗りでも違和感なく運んでいた様子には驚いた。予想異常の優秀さに口元がゆるんでしまった。
その後、軽く慣らしで街中を走り回ってもらったが、直ぐに後悔することになった。
車並みの速さにくわえて力強い跳躍力、飛べはしないが軽く滑空のようなことまでできた。シートベルトも座席も何もない状態では恐怖以外の何物でもなかった……。これは馬具のようなものが必須だ。
へとへとに腰砕けになりながらも3匹を小鬼族の家まで連れて行き預けてきた。
小鬼族も最初は恐々としていたが、俺に首を撫でられ、気持ちよさそうに顔を擦り付け甘えてきている様子を見てすぐに仲良くなりはじめた。
一旦家に戻り、鞍や轡、鐙の存在をネットで調べ、紙にわかりやすく作り方を書いたものを渡す。その際に皮のなめし方や革細工の作り方などの資料も混ぜておいた。文字が読めないので簡単に説明だけはしておいた。
まあ、身体能力に優れた小鬼族なら、それらがなくても乗りこなしそうではあるが……。
ちなみに鳥の種族名はシンプルにランバードにしといた。食べ物は虫や草、豆類なんかを食べるらしい。緑小人は絶対に食べないようにとしっかりいい聞かせておいた。