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大学デビューに失敗したぼっち、魔境に生息す。  作者: 睦月
一章 異世界人がやってきた
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プロローグ

 大学の帰り道、やけに綺麗なコスプレイヤーがいるなと思って見ていた。


 日に当たったことのないような真っ白な肌、薄い紅色の唇に高く筋の通った綺麗な鼻、目尻はキツイというよりも静けさをたたえたような切れ長の瞳。スラリとのびた手足に、控えめな尻と胸の膨らみ。

 その人の着ているものはちょっとした薄い布に革鎧とブーツに、弓矢を肩に提げていいる。おまけに髪は銀色で耳も尖っていた。もしかして何か撮影中なのかも。



 街中だったこともあり、周囲の人たちからも次第に注目を集めていっていた。



「……今日どっかでコスプレイベントとかあったっけ?」

「てか、あの人ちょー綺麗。スタイルすっごーい」

「モデルさん?」

「一人ガチコスプレとかハート強すぎだろ笑」



 口々に囁かれる嘲笑とも尊敬とも取れる笑い声と視線。それと比例してエルフの格好をしたコスプレイヤーの挙動は少しづつおかしくなっていった。

 それまでは物珍しげに周囲をキョロキョロしていたのが、次第に周りを警戒するように距離を取り始めて、なにやらブツブツと独り言を言っているようだ。


 そんな彼女の反応にさらに周囲は面白がる。中にはスマホで撮影し始める人も出てきていた。



『vna;bh:f ma]eorjba]flm ]apgobja;krvp.gksnbfgj!!!!!』



 途端、目を吊り上げ怒気をあらわに、肩にかけていた弓矢を構え、意味のわからない言葉を周囲に吐き出し始めた。


 そこでようやくギャラリーは彼女の異常性に気付き始めた。


 弓矢を向けられ軽い悲鳴をあげるもの、さらに煽るもの、遠巻きに輪を描くようにコスプレイヤーを囲み、さらに悪ノリに発展しかけたところで警察が駆けつけてくれた。


 遠くからだったので、一体なにを話していたのかはわからないが、最終的には駆けつけた警察官とさらに増援であらわれた人数、しめて十数人ほどでの大捕物となった。



 そのニュースは地元のローカル局でのみ軽く放送されるにいたったが、一人の外国人コスプレイヤーが起こした騒動として片付けられる。





 それから半年がたった。




 日本全国、いや世界中で発見される本格的なコスプレイヤーたち、いやもうこの言い方が正しくない。衣装をつけているんでないのが判明しているのだから。


 最初に現れたエルフのような女性の耳は本物だった。

 その後に現れた身長150センチ足らずのガタイのいい髭面のオッサン集団に、子供のような見た目の青年。動物の耳やシッポを付けた人種も各地で続々と発見されている。


 いまだに各国のニュース番組では所在不明の外国人として扱われているが、日本のとある地域には多くいる、その道の専門家達は口を揃えてこう言い始めた。




「「「異世界転移ヒャッフ〜!!!」」」




 そこから日本のオタクどもの行動は早かった。というより異常なまでの団結力だった。

 異世界人に関する情報を徹底して明かさない政府機関に業を煮やし、まずは異世界人の目撃証言とネットでの情報収集から予測される転移位置の割り出しと張り込み。

 頭のお堅い役人達には思いつかない発想や、二次元好きならではの着眼点からそれなりの成果を叩きだしていた。

 そして満場一致で決まった異世界人保護対策のマニュアルがアングラで全世界に周知された。


 凄まじい熱意がネット上では溢れ返っていた。インターネットの某掲示板がここまで意志統一をされたのは、俺が知る中でも始めてのことだろう。一種の歴史的快挙とも言える。



 まあ、それはさておき。



 次第に都心には深めのフードを被ったような人たちが、ちらほらと見かけられるようになってくる。時期でもないのにニットキャップを被っていたり、マフラーで顔を深く隠していたり。


 そしてそれと同時に行われているのが、日本各地に広がるコスプレイヤーの爆発的な増加だった。イベントがあるわけでもなんでもないのに、ケモミミをつけてのデートや、通勤途中のサラリーマンは尻尾アクセをつけていたり、革鎧のようなものとド派手なウィッグをつけて街を闊歩する異様な集団などが日常的にみられるようになる。尖った耳のコスプレグッズが大ヒット商品になっていた。


 そう、ネットで広がったオタクどもの異世界人保護対策の一貫である。


 政府に見つかるよりも前に接触できた異世界人を守るために、衣食住の支援の充実。

 また、周囲をコスプレイヤー達で埋め尽くすことで、異世界人自体を目立たなくしてしまおう、それに伴い転移してきたばかりの異世界人達にできるだけ安心してもらおうという、なんともお粗末で心優しい対策だった。


 浅慮に見えたこの対策だが、これが意外にも功を奏した。警察や政府の人たちはコスプレか本物か、自信をもって見抜けなくなってしまったのだ。

 さすがは変態国家日本である。オタクであればあるほど、そのコスプレの精度は群を抜いていた。



 ただ、何人かは異世界人との接触に失敗して手痛い攻撃を受けてしまい病院送りになったものもいて、ニュースで問題になりもした。

 それでも、オタクどものパッションは色褪せなかった。むしろ攻撃を受けたやつは交渉術に愛と熱意が足りなかったと手痛いバッシングを受ける始末。


 基本的には、相手に無駄な警戒心を抱かせないように丸腰アピールでの接触を徹底。中には全裸こそがピースフルな対応だという猛者もいたが、それはベクトルの違う変態でしかないということで下火になっていった。


 結局は身振り手振りでの根気強い交渉に、分かりやすい食料の提供、これらによって素直に心を開いてくれる異世界人も多かった。彼らも突如知らない土地へ放り込まれ不安だったのだろう。

 なにより、彼らを保護することに成功した同士達からの情報で、ある程度挨拶や簡単な単語くらいなら言語を教わることができたのだ。この辺の柔軟性や吸収力は日本国民ならではとも言えるだろう。


 一人暮らしで余裕のあるものは部屋で匿い、実家で暮らしている者は近くの倉庫や近所の廃工場などをあてがい、少し都心から離れた者は山の中にテントや支援物資を渡すことで、思い思いに彼らと交流を取っていた、そして集まる異世界人たちの知識と情報。


 情報規制がされているため政府がどこまで掴んでいるのかはわからない。

 オタク達が情報のやり取りをしている掲示板はいくつも強制的に閉鎖され、そしてそれ以上の掲示板が新しく作られるイタチごっこがはじまっていた。



 そんな状況の中、彼らはアルニアという世界からきた他種族という認識が今や定着していた。


 ファンタジーには欠かせない存在であるエルフにドワーフ、小人族に獣人、巨人族など、アルニアには人族含め様々な種族が混在して生活しているらしい。

 そしてこちらに来た経緯を聞いてみると、外を歩いていると突如深い霧に覆われた、そう思ったらいつの間にかこちらに来ていたということで一貫していた。彼らにも事情がよくわかっていないようだ。


 ここまでは、まあテンプレとも言える情報なのだが、やはり世のオタク達が真っ先に知りたいのは『魔法』の有無。

 アルニア人たちとの交流が進んでいく中、徐々にその情報も集まってきた、やはりというかなんというかエルフたちは当然のごとく魔法を使えた。

 他の種族も得意不得意はあったが使えるようだ。ただし以前と比べてかなり弱々しいとのことだった。


 地球には大気に含まれる魔力が圧倒的に少なく、体内に取り込みづらいとのこと。ただし、わりかし早めに来ていた者がいうには、徐々にではあるが大気の魔力濃度は濃くなってきているらしい。

 多分ではあるが、自分たちから発せられる魔力やアルニアから一緒に流れ込んできている分があるのではとのことだ。日に日にアルニアからの転移者は増えていっている。


 実際に見せてもらうと、指先に直径数センチの火の玉を作ったり、バケツ一杯分の水を出したりという程度ではあったが、動画配信をもって世界中で知られることになる。魔法は確かに存在した、この”地球”上でも。


 この情報を得てオタクども躍起になった。称号としての『魔法使い』ではなく”本物”の魔法使いになれるかもしれないのだ。

「仕事も金もないが時間だけはある」と豪語して昼夜を問わずに訓練しまくった結果、とうとう一人のオタクが達成した。手のひらに光を浮かべることを。

 

 その日はネットを通じて世界中のオタク達が熱狂した。



 これまでは政府の目を盗んでまで異世界人と交流しようという熱心な活動は、日本がぶっちぎりで多く、海外は細々というのが実情ではあった。

 だが、これを機に世界中で異世界人保護対策がヒートアップしていく。奇抜な格好をしたコスプレイヤーの増加に加え、街中でブツブツと呪文をとなえているような者などが大量発生することになる。


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