第一幕 第五場
飛び飛びで映像を観てもらちがあかない。余計に混乱するだけだ、とわたしは悟った。
「時系列順に観ていかないと、現状を理解するのはむずかしい」
わたしはいちばん日付の古い動画ファイルを選択し、それを再生する。すると画面にはどこかの空港のロビーが映し出された。たくさんの人が行き交うなか、画面は到着口と思われる通路に据えられている。聞こえてくるアナウンスや人々の話す声が日本語のことから、海外ではなく日本の空港であることが断定できる。
「遅いな」髭の男の声だ。「もう着いているはずなのに……」
撮影者は髭の男で、どうやら空港でだれかを待っているらしい。
しばらくすると黒いサングラスをかけた女がキャスター付きの旅行カバンを引きながら登場し、画面はその女に向かってズームアップをはじめる。すると女は撮影していることに気づいたのか、口元に笑みを浮かべるとこちらに向かって歩いてくる。
「こんなところで何やってるのよ、あんたは」女はサングラスをはずした。
女は黒髪のショートカットで目鼻立ちの整った若い女性だ。ショートパンツにタンクトップというシンプルな服装をしており、そのため右腕に彫られた入れ墨が目立っていた。入れ墨は花をかたどったもので、手の甲からはじまり腕の肘あたりまでつづいている。
「おまえを待っていたんだよ」髭の男が言った。「遅れた者同士、いっしょにと思ってね」
「それじゃあ『マトコ』や『ナツキ』たちは?」
「とっくに島に着いているよ。連絡取ってないのかい」
「飛行機の中だったからスマホの電源切っていたのよ」入れ墨の女はそう言うと画面を向かって指を指す。「ところでそのカメラ撮っているの?」
「せっかくみんな集まるんだから、思い出にと思ってね」
「でも髭面の怪しい男がこんなところでビデオカメラをまわしていたら、盗撮魔にまちがわれるわよ」
髭の男が苦笑する声を漏らした。「ひどいな。おれがそんな男に見えるかい?」
「見えるから忠告してあげているのよ」入れ墨の女がいたずらっぽい笑みを浮かべる。「それよりも遅れているんだから、早く行きましょう」
「ああ、わかったよ」
髭の男がそう言うと、そこで動画は終了した。