第五幕 第六場
「だいたい刑事さん」傷の男が言った。「ママ先生の子供だからって、それだけでイコール真犯人になるのは強引過ぎる。犯行に及んだ証拠がないじゃないですか」
「たしかにそれもそうですね」西園寺はそこで咳払いをすると、わたしを手で指し示した。「それを証明するには佐々木さん、あなたの出番です」
「へっ、わ、わたしが?」虚をつかれ吃ってしまう。「わたしの出番ってどういうことですか?」
「まったくもう、なんのためにあなたをここに連れて来たと思っているんですか。あなたの記憶のなかに真犯人を特定できる証拠があるんですよ」
「そんなまさか」わたしはとまどってしまう。「わたしにはだれが真犯人なのかわかりませんけど……」
「観察力のない人ですね。せっかくの直感像記憶が宝の持ち腐れになりますよ」西園寺はたしなめるかのような口調だ。「だったらわたしが指定する場面を思い出してください。いいですね?」
「……わかりました」
わたしは不承不承といった様子で目をつむった。なぜか怒られているような気分になってしまう。
「最初に拾った一台目のビデオカメラ。そこに残されていた最後の映像を思い浮かべてください」
髭の男である田中リョウマが殺される場面だ。洋館の廊下でリョウマが壁を背にしてすわり、殺人鬼が銃を向ける。
「田中リョウマは真犯人に言いましたよね。最後に顔を見せろと。その要望どおり真犯人は顔を見せましたよね。そのとき田中リョウマは相手になんと言いましたか?」
「おまえのしわざだったのか。しかしわからないな。どうして泣いている。意味不明だよ。涙を流すやさしさがあるのなら、早くおれをこの苦しみから楽にしてくれ。さっさと引き金を……。そこまで言うと銃で撃たれて、彼は絶命しました」
「よろしい。この発言から真犯人が、あなたがたの仲間のうちのだれかだと断定できます。つまりは七人のなかのだれかの犯行です。では佐々木さん、つぎは二台目のビデオカメラ。その最後の映像を思い浮かべてください」
「わかりました」
眼鏡の女である青木カオルが殺される場面だ。殺人鬼に襲われ、自分の部屋に逃げ込んだ。そしてビデオカメラをおとりに、殺人鬼に不意打ちを食らわせ、拳銃を叩き落とした。それから拳銃をひろわせないよう、手をつかんで阻止しようとした。だが殺人鬼が軍手を脱ぐことで拘束を解き、拳銃を拾われ殺されてしまう。
「青木カオルは真犯人に不意打ちを食らわせ、銃を叩き落としたはずです。そして銃をひろわせないよう、真犯人と揉み合いになりました。その結果、真犯人はどうなりましたか?」
「ハンガーで殴られてマスクが半分ずれました。そして青木カオルの拘束から逃れるために軍手を脱ぎ、銃を拾ってそれを彼女に向けました」
「そのとき青木カオルはなんと言いましたか?」
「どうしてあなたがこんなことを、と言いました」
「そう、この時点で彼女には真犯人の正体がわかっていました」
「そうか!」わたしは目を開けた。「顔の下半分だけでその正体がわかってしまう特徴を持つ人物が真犯人。それはつまり頬に傷のある工藤ジュンが真犯人だ」
「おい、ちょと待てよ!」傷の男はうろたえた。「おれは真犯人じゃない」
「だけどあの状況下で特定できる特徴をもつ人物は、工藤ジュンあなただけしか——」
「ちがいます」西園寺がわたしのことばをさえぎった。「まったく佐々木さん、あなたの直感像記憶は非常に優秀ですが、それゆえに大事なことを見落としている。あなたは殺害の現場をビデオカメラの映像を通して観た。つまりは真っ暗な部屋を暗視装置越しに観ていたのです。実際には部屋の中は真っ暗で、顔を視認することはできないのですよ」
「……たしかに」
「ちなみに佐々木さん、雷が鳴って部屋が明るくなったとき、真犯人はずれたマスクを直したあとですが、それともその前でしたか」
「マスクを直したあとです……って、じゃあどうやって青木カオルは真犯人を特定した?」
「佐々木さん、思い出してみてください。あなたはわたしとわたしの双子の弟をどうやって見分けましたか?」
「えーと、それはネクタイで」
「それだけでは双子だと見分けられなかったはずです。ほかにもあったでしょう」
「右手の薬指にあった結婚指輪の日焼けの跡で……!」わたしはすぐに事実を悟った。「まさか彼女が真犯人!」
「もうおわかりですね」西園寺は右手を掲げる。「真犯人は軍手を脱いだ右手で青木カオルに銃を向けていた。彼女はその手を見て真犯人を特定した。つまりはそれだけを見て、その人物を特定できる特徴を持つ人物は、彼らのなかにひとりだけしかいません。それは右手の甲から腕の肘まで入れ墨を彫った人物。今回の事件の真犯人の正体は松本スミレだ」
みなの顔に衝撃の色が浮かぶのが見てとれた。だれもかれもが動揺している。
「死んだはずのスミレが真犯人?」金髪の女がつぶやいた。「まさかでしょう……」
「そのまさかです」西園寺は長髪の男へと顔を向ける。「そうでしょう神崎さん?」
「ちがう!」長髪の男は声を荒らげた。「スミレは真犯人なんかじゃない。そもそも真犯人なんていない。おれがみんなを殺したんだからな」
「往生際が悪いですよ神崎さん。でもまあ、あなたがそうやって彼女をかばう気持ちもわかりますよ」
そう言うと西園寺は懐からイニシャル占いで使用した紙を取り出し、それを目線の高さに掲げた。
「小林さん、これに見覚えはあるでしょう」
「……ええ」金髪の女はうなずいた。「わたしが占いで使ったものです」
「その占いというのは、どういうものか説明してもらえませんか」
「えっ……あっはい」金髪の女はわけがわからないといった様子で説明をはじめる。「まずはじめにアルファベッドに順番よく数字を振っていきます。Aなら一でBだったら二といったぐあいにです。そして自分のイニシャルに対応する数字を足した数が、自分の数字になります。その数字を相性を調べたい相手の数字と足して、その答えが偶数なら相性よし、奇数なら相性がだめになるんです」
「ご説明ありがとうございます」西園寺は言った。「松本スミレは母親である西村アカネが亡くなり、あなたがたと離ればなれになると父親の姓である松本を捨てて、母親の姓である西村を名乗っています。おそらくはもう自分が西村アカネの子供だと、あなたがたに隠す必要がなくなったからでしょう」
そこまで言うと西園寺は持っていた紙を裏返し、わたしが書き残した血文字の裏面を見せる。そしてそこに書き残されていたS・Nのイニシャルを指差した。
「西村スミレ。それが彼女の本名でありそのイニシャルはS・Nです。そして占いではそのイニシャルの数字は三十三。彼女は自分のほんとうの数字と二十四を足した。つまりは二十四の数字を持つ相手が彼女にとって意中の人のはずです。あなたがたのなかで、その占いによって二十四の数字にあてはまる人物はイニシャルM・Kの神崎マコトしかいません」西園寺は長髪の男に顔を向ける。「あなたとスミレさんは、ひそかに交際していたのではありませんか?」
「……知らない」長髪の男の表情がみるみる曇っていく。「そんな事実はない」
「どうやら神崎さん、あなたは嘘をつけない人間だ」西園寺はほくそ笑んだ。「顔に真実だと書かれていますよ」そこで傷の男に顔を向ける。「工藤さん、あなたは夜の砂浜で青木さんにビデオカメラを向けられたとき、結婚したい相手がいると語っていましたね」
「はい、そうですが……」突然質問されて傷の男はとまどった様子だ。「それが何か?」
「ですがあなたは結婚に踏み切れない。その理由は自分が元孤児であった事実を明かしていないから。そうですね」
傷の男はためらいがちにうなずいた。「ええ、そうですけど」
「そのときスミレさんも、自分には結婚したい相手がいると語りました。ですがあなた同様秘密を隠しており、相手に打ち明けることができなくて悩んでいましたね」
「たしかにそのとおりです」
「この場合、相手が神崎なら自分たちが孤児同士であることは知ってます。それなのに彼女が隠している秘密、それは自分が西村アカネの子供だという事実しか考えられない。そしてそれほどまでに、スミレさんと神崎は深く付き合っていた。だから神崎は彼女をかばい、自分を犯人に仕立てあげた。彼女を殺人鬼にしたくなかったから。小林さんが亡くなった石川ヒナコをかばい、西村アカネの死の真相をだまっていたように、神崎もスミレさんをかばい、その死の真相を隠している」
「……死の真相?」金髪の女ははっとした表情になる。「そうよ。スミレが真犯人なら、どうして死んじゃったのよ? そんなのおかしいわ」
「みなさん、先ほど佐々木さんが話してくれた田中リョウマの死の場面を思い出してください。スミレさんは泣きながら、田中リョウマに銃を向けていた。つまりはあなたがたを殺すことに、彼女は抵抗があったのです。おそらくは復讐心と罪悪感のあいだで揺れ動いていたのでしょう」
西園寺はそこでことばを切ると、わたしを手で示した。
「小林さん、あなたは佐々木さんが犯人としてあなたがたに捕まったとき、気の緩みからそれまでかかえていた西村アカネの死の真相をスミレさんに告白しましたね」
「はい……」金髪の女はうなずいた。
「それを聞いたスミレさんは、復讐が終わったことを知ると、罪の意識にさいなまれ自殺したのでしょう」西園寺は右手で銃の形をつくると、それを自分のこめかみにあてた。「スミレさんの死因である側頭部への銃弾も、自殺のためだったにちがいありません。そしておそらくは、その際に罪を告白した遺書を残していたはずです」
「スミレが遺書を?」金髪の女は疑うような表情を見せた。
「はい、そうです」西園寺はうなずいた。「それまで何も知らなかったはずの神崎が、突然彼女の死を偽装し、自分が犯人になりすましたことから、容易に想像できます。そうでしょう神崎さん?」
長髪の男はうつむき押し黙ったままだ。西園寺とは目も合わせようとしない。
「黙秘ですか」西園寺は肩をすくめた。「なら、話をつづけましょう。神崎は自分が犯人になるべく、スミレさんの死を偽装し、偽のダイイング・メッセージを残した。だがここでひとつ問題が起きた。それは西村ユイが仕掛けた時限式発火装置が作動し、洋館に火の手があがってしまった。このままではせっかく残したダイイング・メッセージが無駄になってしまう。だから神崎は救出がてら、佐々木さんを利用する計画を思いついたのです」
まんまと利用されたな、とわたしは思った。けどそのおかげで、逃げ出すことができたのも事実だ。
「神崎は佐々木さんが拘束されている部屋に行き、アキラ君がいないのを確認すると計画を実行した。おそらくアキラ君のことは、火事で避難でもしていると考えていたんでしょう。そして無実である以上、佐々木さんも避難させなければならない。けど姿をさらして助ければ、佐々木さんがどうして無罪であるのか、みんなに説明しなければならない。だから姿を見せずにカッターナイフを投げ入れ、懐中電灯を置いて行った。自力で拘束を解けるように」
あのときの謎の人物の行動は、そういうことだったのか、とわたしは納得した。
「そして佐々木さんが縄を切って部屋から出ると、廊下の壁に偽装された血の跡を見つけ、神崎の思惑通り部屋の中へとはいり、スミレさんの遺体とダイイング・メッセージを見つける。そしてその部屋にわざと置いてあった神崎のデジタルカメラで、ダイイング・メッセージを撮るようにしむけた。これは神崎による佐々木さん救出と、偽装したダイイング・メッセージが火事で失われるのを阻止するための計画だったのです」
わたしは息をついた。よくよく考えれば、あそこに都合よくデジタルカメラがあったのはおかしなことだったが、あのときはそのことにまったく疑問を持てなかった。状況が状況だけに、しかたのないことだが。
「さらに神崎は殺人鬼がまだ生きていると思わせるために、わざと佐々木さんを襲った。おそらくはスミレさんの遺書とともに置いてあったであろう、犯行道具を身につけて。だがここで誤算が起きた。神崎は佐々木さんの奇襲を受けて、銃を奪い合う揉み合いになった。その結果銃は暴発し、佐々木さんの脚を撃ってしまった。予期せぬ出来事に驚いた神崎は、うろたえるようにして逃げ去りました」
どおりでおかしいわけだ、とわたしは思った。なぜ殺人鬼が拳銃を発砲したあと、みずから手放したのが不思議だった。あれはそういう理由だったのか。
「佐々木さん」西園寺が呼びかける。「あなたを襲ってきた殺人鬼はどちらの手で銃を握ってましたか?」
「左手です」
「事件当時、あの島にいた人物で左利きは神崎しかいません。これで佐々木さんを利用し、わざと襲ってきた人物が神崎だと証明されました」西園寺は長髪の男に顔を向ける。「どうでしょう神崎さん。わたしの推理はあたっていますか?」
長髪の男は顔をあげると、苦悶する表情を見せた。「あたっているもなにも、最初から全部ぼくの犯行だと言っている」
「まだそんなこと言うのですか」西園寺はため息をついた。「佐々木さんがビデオカメラに映った映像を観ておぼえているのですよ。あなたがたを襲った殺人鬼が右利きだったと。左利きのあなたの犯行ではないと証明されています」
負けを認めたのか、長髪の男はくやしげな顔つきになった。
「全部スミレさんの犯行だったんだろ」アキラが口を開いた。その口調はけわしい。「だったら母さんを殺したのもスミレさんだな」
「いえ、ちがいます」西園寺は否定する。「スミレさんは西村ユイを殺害などしていません」
「はあ?」アキラは顔をしかめた。「何を言っているんだよ、刑事さん。真犯人はスミレさんだったんだ。母さんを殺したのもスミレさんにきまっている」
「いいえ、スミレさんが西村ユイを殺害するのは不可能です」西園寺は金髪の女に視線を向けた。「小林さん、あなたがたは島に来た初日の夜、スミレさんと青木さんとともに、明け方近くまでお酒を飲んでましたね」
「……はい」金髪の女は記憶をたしかめるかのように、おずおずとうなずいた。「ヒナコの罪の告白のこともあって、それで全然寝付けなくて、ずっと飲んでいました」
「それじゃあ待てよ!」アキラは声を大にする。「いったいだれが母さんを殺したんだよ」
「アキラ君、落ち着いて」西園寺はなだめるような口調だ。「あなたの母親はだれにも殺されていません」
「殺されていない?」
「ええ、そうです。最初にわたしは言いましたよね、今回の事件はひとつの事件ではなく、いくつかの事件が重なった、と。西村ユイの死因は自殺です。ですがみなさんは石川ヒナコのときと同様、これを殺人事件だと連想してしまったのです」
「……母さんが自殺だと?」アキラは愕然とした表情になる。
「そうです。彼女を殺害する人物がいない以上、自殺と考えるしかほかありません」
「そんな馬鹿な。どうして母さんがみずから死ぬなんて、意味がわからない」
「おそらくはアキラ君、あなたのために死を選んだんでしょう」
「おれのために……死んだ?」
「そうです。西村ユイが亡くなってしまっている以上、憶測でしか語れませんが、西村家には財産と呼べる物はもう残されておらず、借金だけしかなかった。これではきみに苦しい生活を余儀なくされてしまう。だから自分に高額な保険金をかけて自殺した。もちろん自殺では保険金はおりません。でる場合もありますが、それは長年の契約期間が必要とされます。だから西村ユイは他殺に見せかけるために、わざわざ転落防止の柵を乗り越えて自殺した。あたかもだれかに強要されて崖へと向かい、そこから突き落とされたかのように。その後に殺人事件が起これば、警察は自殺だとは判断しないと、考えたんでしょうね」
「……嘘だ。母さんがおれのために死んだなんて嘘だ」アキラは困惑した口調になる。「だって母さんはおれのことなんて、どうだっていいと思っているはずだ。いや、むしろ邪魔な存在だったはず。おれのために死ぬはずない」
「きみはビデオカメラの残された母親の最後の映像を観たはずだ。あれは彼女の遺書だ。姉の復讐にとらわれ、ないがしろにしてしまったきみへの謝罪と、そして自分がどれだけきみのことを愛していたか伝えるために残した映像だ」
「やめろ!」アキラは苦しげに顔をゆがめる。「母さんがおれを愛しているだと。わけのわからないことを言うなよ。そんなことがあるはずない……」
「きみたち親子は悲しいすれちがいをしているだけだ。死を前にして西村ユイは本音を語ったのだよ。これから自殺しようとする人間が嘘をつくはずないだろ」
アキラは目に涙を浮かべると手で顔を覆い、うつむいた。何もしゃべろうとはしない。
「西村ユイは子供のためにみずから命を絶った」西園寺はおごそかな口調になる。「西村アカネの復讐を、その子供であり姪っ子であるスミレさんに託して。西村ユイは当然スミレさんが姉の子供であることを知っていたはずだ。それは保険金の受取人の名前に、アキラ君とともに彼女の名前が書き記されていたことから、その事実は証明される」
西園寺はそこで息をつくと、長髪の男に顔を向けた。
「西村アカネの死に疑問をいだいたふたりは、その真実をたしかめるために、あなたがたに探りをいれた。神崎さん、あなたは西村アカネの遺体の第一発見者だ。おそらくは何かを知っているのではないかと、スミレさんのほうからあなたに近づいてきたのでは?」
「やめろ……やめくれ」長髪の男はうつむき苦しげに呻く。
「スミレさんが知っていた、事故直前にだれかを叱責する声と頬を叩く音を聞いたという情報源、それは神崎さんあなたですね」
長髪の男が身震いしはじめた。どうやら西園寺の言っていることは事実のようだ。
「実は今回の殺人計画は急遽変更された可能性があるんですよ。当初はあなたがたを睡眠薬で眠らせ、洋館を火事にすることで焼死させる予定だった。だがこれを実行せずに、殺人鬼を装い皆殺しへと変更されたとわたしは見ています。どうしてそんな不確実な方法に切り替えたのは、その理由はいまとなってはわかりません。けど、もしかするとスミレさんはあなたに探りをいれるうちに親密になり、あなたのことを本気で愛してしまったのではありませんか。だからあなたを生かすために計画を変更したと、わたしは考えています」
長髪の男は顔をあげて西園寺を見つめた。
「もし当初の予定どおり、みんなを焼死させるつもりなら、おそらくスミレさんはあなたを生かすために、あなたには睡眠薬を飲ませなかったはず。だがそうしてしまえば、あなたは危険をかえりみずみんなを助けようと、燃える火の海に飛び込み死んでしまう可能性があった。だから殺人鬼を装って皆殺しへと切り替えたのではないでしょうか。あなたが焼け死んでしまわないように」
長髪の男は信じられないといった表情になる。
「その証拠だとは言いませんが、空港近くのお店で狼マスクを購入するスミレさんを防犯カメラがとらえています。おそらくはその買い物のせいで、あなたがたとの合流に遅れたのでしょうね」
西園寺は腕を組むと、一同に目を向ける。
「今回の事件は西村ユイ首謀による保険金詐欺と、実行犯である西村スミレによる殺人事件だ。目的は金と復讐。そのために西村ユイは自殺をした。そして何も知らされていないアキラ君が異変に気づき、言いつけどおりGPSジャマーを作動させて通信網を遮断させる。こうして孤立したあなたがたを西村スミレが殺害し——」
「ちがう!」長髪の男が立ちあがった。「全部ぼくのしわざだ」
「この期に及んでまだそんなこと言うんですか」
「だいたい刑事さん、あなたのその考えは」長髪の男はそこでわたしを指差した。「そいつの証言をもとにした、ただの推測に過ぎない。スミレが殺人をおこなった証拠は何ひとつないんだぞ」
「証拠ね」西園寺はにやりと笑う。「そのことばを待っていたよ」




