表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/51

第四幕 第三場

 少年アキラが部屋から出て行って、どのくらい時間が経過しただろうか。すでに夜の帳はおり、あたりは真っ暗になっていた。暗さに目が慣れたとはいえ視界は悪く、一メートル先に何があるのかすらわからない状態だ。


「くそっ!」


 わたしは縄の拘束を解こうと躍起になっていた。急がないと犯人が殺しにくるかもしれない。そうでなくても火事に巻き込まれて、焼け死んでしまう。だがしかしどんなにもがこうが、手足に縛られた縄は固く結ばれており、はずれる気配は一向にない。生存者たちはよほどわたしのことを恐れていたのだろう。


「はずれない!」


 縄がはずれない以上、残りの生存者に助けを求めるしか方法はない。だがどうやって助けを求める。彼らはみんな自分の個室にいるにちがいない。自分が動けない以上、向こうから来てくれるのを待つしかない。


 その可能性はあるだろうか?


 ……可能性はじゅうぶんある。見張りをしているアキラのことを心配して、だれかが様子を見に来るはずだ。その人物に助けを求めればいい。


 問題はその人物が犯人かどうかだ。


 依然として容疑者は四人。傷の男、長髪の男、入れ墨の女、金髪の女。早く犯人を特定しないと、新たな犠牲者がでるかもしれない。もしかすると、すでに犯人以外殺されていてもおかしくない状況だ。急がないと。


 わたしがそんなことを考えていると、突然ドアノブをまわす音が聞こえてきた。わたしはすぐさまドアへと顔を向ける。だが暗くて何も見えない。


 やがてドアがきしる音を響かせると、ひと筋の光芒が部屋の中へと差し込まれた。光は部屋を探るようにして、せわしなく動きまわっている。おそらく懐中電灯の明かりだろう。


「だれ!」わたしは思わず叫んでしまう。「だれなの?」


 すると光はこちらに向けられた。そのまぶしさにわたしは顔を背けてしまう。暗闇に慣れきった目には、懐中電灯の光は強烈過ぎる。目をあけていられない。


「もしかしてアキラ君?」


 心変わりしたアキラが、助けに来てくれた可能性に賭けて呼びかけてみるも返事はない。どうやらアキラではないようだ。


 わたしがまぶしがっているのを悟ったのか、光は顔から足下へと向けられた。わたしは光源へと顔を向ける。かろうじておぼろげな人影が見てとれるも、いったいだれなのかわからない。


 犯人か、それともほかの生存者なのか?


 心臓が早鐘を打つなか、カチカチという音が聞こえると、懐中電灯の光源の前にカッターナイフの姿が現れ、わたしの脈拍はさらに速まった。

 犯人だ! 犯人がわたしを殺しに来たんだ。


「お願い殺さないで」わたしは恐怖で震える声で言った。「死にたくない」


 相手はなんの返事もしない。もはや殺される、と思ったつぎの瞬間、思いがけないことが起こった。カッターナイフがわたしの足下へと放り投げられた。


「えっ?」


 わたしは困惑しながらも足下へと目を向けた。数センチほど刃が飛び出したカッターナイフが落ちている。しかもそのカッターナイフに懐中電灯の光が向けられていた。まるでわたしがそれを視認しやすいように。


「これはいったい何?」わたしは勇気をだして尋ねてみた。「何がしたいの?」


 相手はまたしても答えない。


 やがて懐中電灯の光が降下し、床の高さと同じになると、そこからわたしの足下を照らすような形になった。するとドアが閉じる音が聞こえてくる。


 何が起こっているのかわからず、しばらくのあいだわたしは呆然とカッターナイフを見つめていた。耳をすましてもだれの息づかいも聞こえてこない。どうやら相手はカッターナイフを投げ入れると、部屋から出て行ったようだ。


 いったいなんのためにこんなことを?


 だがすぐにそんなことはどうだっていい、とわたしは思った。このカッターナイフがあれば縄を切ることができる。


 わたしは体を揺すって椅子を揺れ動かすと、その勢いに乗せて床へと倒れた。ぎこちない動きで体を動かしながら、カッターナイフが落ちていた場所へと手を近づける。すぐにその指先にふれる感触があった。わたしはカッターナイフを拾うと、慣れない体勢に悪戦苦闘しながらも、なんとか縄を切ることに成功した。


「やった」思わず歓喜の声をあげてしまう。


 わたしは足首を縛る縄をほどくと立ちあがった。逃げ遅れる前に、この洋館から脱出しなければならない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ