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第三幕 第六場

 つぎの動画ファイルを再生した。画面には西村ユイが映っている。どうやら場所は洋館の個室で、ビデオカメラを手に持ち自分自身を撮影しているらしい。


「いったい何から話せばいいのやら……」ユイは浮かない顔で言いよどんだ。「ことばを思いつかないわ」


 ユイは落ち着かな気な様子で、そわそわしはじめた。まるで何かにおびえるような感じだ。


「ごめんなさいアキラ。あなたにとって、わたしはよい母親ではありませんでした。それは自分でも自覚しています。それなのにわたしは……」


 心を落ち着かせるようにして何度か深呼吸すると、その張りつめた表情が幾分かやわらいだように見えた。


「わたしは亡くなった姉に心を囚われている。そのせいであなたのことをないがしろにしてしまった。でも信じてほしいの。わたしはあなたのことを愛している。ほんとうです」


 しばし沈黙する。


「もしもわたしの身に何かが起きてしまったら……。そうたとえばわたしが死んでしまい、あなたがひとりで生きていかなければならない状況になったら、お父さんのところに行ってください。話は別れる前にしてあります。あの人ならきっと、あなたをあたたかく迎えてくれるはずです。わたしなんかよりも、よっぽど立派な大人ですから」


 ユイの目に涙が浮かびはじめた。


「ほんとうなら……こんなだめな親であるわたしよりも、あの人があなたを引き取るべきでした。でも姉さんのことがあって、こわかったの。だからあなたを手放さなかった。いまとなっては、それは大きなまちがいでした。いまさらこんなことを言っても、ゆるされないことです。アキラ、わたしのことは憎んでもいい。でもわたしがあなたのことを、愛していたことは覚えていてください」


 こぼれ落ちる涙を拭うと、ユイは強張った笑みを作る。


「これから出かけてきます。もしかするとわたしは……死んでしまうかもしれません。でも生きてふたたびあなたの前にわたしが現れたそのときには、ずっとひた隠していた秘密を打ち明けるわ。わたしの姉の子供についてよ。その真実をあなたに教えるわね」


 言い終えるとユイは画面に向かってゆっくりと手を振る。すると動画はそこで終了した。

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