第三幕 第三場
「……ビデオカメラ?」
床には持ち主不明の第三のビデオカメラが落ちていた。
希望で胸が高鳴った。これまでの経緯から髭の男である田中リョウマの忠告で、証拠の映像が残されている可能性が高い。わたしは急いでビデオカメラを拾いあげると、周囲を警戒しつつ物陰へと隠れた。
「こんどは何が記録されている?」
ビデオカメラを操作し、映像データーを調べる。十にも満たない動画ファイルが残されてたい。数は少ないが、犯人を知る手がかりが発見できるかもしれない。
わたしはいつものように時系列順に動画ファイルを再生することにした。いちばん古い動画ファイルの日付は二日前。彼らが島にやってきた日だ。
動画ファイルを再生した。液晶ディスプレイの画面には、青い海を背景に島の岬が映し出された。水平線の先からこちらに向かってやってくる船らしきものの姿が見てとれた。おそらくクルーザーではないのかと予想される。
波音が聞こえてくるなか、女性の鼻歌らしき声が聞こえてきた。その声音は楽しげでありながら、どことなく儚さを感じられ、不気味な雰囲気を醸し出していた。
「姉さん。あの子たちを乗せた船が、この島にやってくるわ」西村ユイの声だ。「楽しみだわ、みんなに会えるのが。どれほどこの日を待ちわびたか」
ふたたび鼻歌が聞こえてくる。どうやらユイがやっているらしい。
「姉さんが亡くなってもう十三年も経つのね。長いようで早かった気がするわ。そのあいだいろいろあったの。結婚して子供が生まれたのよ」
そこでしばらくのあいだ、無言の間がつづく。
「でもだめだった」ユイは声の調子を落とした。「姉さんと同じで結局は離婚してしまったわ。でもわたしは姉さんのようなどじは踏まなかった。これも姉さんの元夫のひどいやり口を見ていたおかげかしら……」
画面が船へとズームアップされると、それがクルーザーだと判明した。
「もうまもなくこの島にみんなが集まる。そうすればすべてに片がつく。そのときこそ、ようやく姉さんの魂が救われるわ」
ユイがそう告げると、動画はそこで終了した。




