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第二幕 第四場

 つぎの動画ファイルを再生した。だが画面は真っ暗だ。故障でもしたのかと思ったが、何やら人の息づかいや衣擦れの音が聞こえてくる。どうやら故障したわけではなさそうだ。このまま動画の再生をつづけてみることにした。


 ドアノブをまわす音が聞こえてくると、画面にひと筋の光が現れた。やがてドアのきしむ音とともに、ひと筋の光がひろがっていく。すると光を背にし、小柄な女が現れた。どうやら真っ暗な部屋のドアをあけた様子だ。


「ねえ、暗いんだけど」小柄な女はとまどっている。「みんなどこにいるの?」

 その呼びかけに、なんの反応も起こらない。

「ちょっとだれかいるんでしょう。返事をしてよ」


 小柄な女は不安げな顔つきで、おそるおそる闇のなかへと歩を進める。つぎの瞬間、突然明かりがついたかと思うと、銃声のような音が鳴り響く。


 小柄な女が悲鳴をあげて床へと尻餅をつく。するとバースデイソングの歌声とともに、みんなの姿が画面に現れた。全員がパーティグッツのクラッカーを手にしており、クラッカーの先からは紙テープが飛び出している。どうやら場所は食堂のようだ。


 小柄な女はサプライズバースデーパーティーだと悟ったのか、驚愕した面持ちから、すぐさま相好を崩した。


 金髪の女と入れ墨の女が小柄な女の両脇に立つと、その腕をつかんで彼女を立たせてあげる。すると画面端からバースデイケーキを載せた台車を押す、髭の男である田中リョウマが登場した。


 画面は小柄な女へとズームアップされる。うれしそうに笑っており、少しばかり照れて恥ずかしそうにしていた。

 やがて小柄な女の前にバースデイケーキが到着すると、みんなはバースデイソングにのせて、とある名前を叫んだ。


「ヒナコ!」


 小柄な女こと石川ヒナコはバースデイケーキに突き刺さる、火のついたロウソクを吹き消した。

 一同がヒナコに拍手を送ると、おめでとうの声がかけられる。


「みんなありがとう」ヒナコはそう言って一同を見まわす。


「ヒナコ!」眼鏡の女の叫び声だ。「いくつになった?」


 ヒナコは画面に目線を向けるとピースサインをつくる。「二十歳になりました。これでもう立派な大人の仲間入りです。みんなの仲間入りだよ」


「おめでとうヒナコ!」

 眼鏡の女が祝福のことばを送ると、画面はさらにズームアップされ、しばしのあいだヒナコの満面の笑みが大写しになる。ヒナコは楽しそうにまわりの人々と会話をしている様子だ。


「あっ、サクラさん」少年アキラの声が聞こえた。「そこです」

 画面をアキラが横切って行く。それを皮切りに、つぎつぎと人々が画面を横切りはじめた。


「あーもう、みんな邪魔」

 眼鏡の女がそうぼやくと、画面はズームバックしていく。するといつのまにかテーブルの上に移動されたバースデイケーキが切り分けられており、みなはそれを手にしている。


「おいおいみんな、気が利かないな」傷の男が言った。「まずは主役に持って行けよな」

 傷の男はケーキを皿にのせると、ヒナコのもとへと運んだ。

「ほらヒナコ、誕生日おめでとう」


「ありがとう」

 ヒナコはそう言ってケーキを受けとる、それをおいしそうに食べはじめた。その背後では西村ユイと痩身の男が、何ならこそこそと話をしている。画面はそのふたりにズームアップされるも、痩身の男がうなずくと、すぐにその場から姿を消した。そのため画面はズームバックされた。


「はいはいみんな!」ユイが叫んだ。「このあとバーベキューだから食べすぎないよう気をつけてね」


 一同がはい、と元気よく返事をする。

 画面でにぎやかなバースデイパーティーの様子が流れつづけている。しばらくすると、長髪の男がこちらに向かって歩いてきた。ビデオカメラの前に来ると立ち止まる。


「ケーキ食べないのか?」長髪の男が訊いてきた。


「もちろん食べるわよ。もう少し撮影したらね」


 長髪の男は口元をにやりとさせる。「早くしないとなくなるぞ。ジュンはいま三個目を口にしているところだぜ」


「あのばか!」眼鏡の女は大声をあげる。「わたしの分が残ってなかったらぶっ飛ばすからね」

 動画はそこで終了した。


 動画を見終え、小柄な女が石川ヒナコだと判明した。それはつまり現時点でわたしが知る限り、残りの生存者は六名で確定だ。

 傷の男、長髪の男、痩身の男、入れ墨の女、金髪の女、それに少年のアキラ。

 生存者のなかで名前が判明しているのは西村アキラだけだ。

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