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第二幕 第三場

 いまわたしは愕然としながら、床に倒れている眼鏡の女の死体を見おろしていた。眼鏡の女は胸部から大量の出血があり、おそらく心臓を打ち抜かれたとものだと予想される。眼鏡のレンズ越しに見つめてくるその目に生気はなく、瞳孔が開いていた。


「……殺されたんだ。殺人鬼に」


 これで残りの生存者は、傷の男、長髪の男、痩身の男、入れ墨の女、金髪の女、それに少年アキラを加えて計六名だ。このなかに殺人鬼がいる。早く特定しなければ、わたしもこの眼鏡の女のように殺されてしまうかもしれない。


 わたしは床に落ちていたビデオカメラへと目を向ける。髭の男である田中リョウマが撮影していた映像に、眼鏡の女がビデオカメラをまわしているシーンがあった。おそらくこのビデオカメラにも、映像が残されていることはまちがいない。それに加え、内部犯の犯行を疑っていたリョウマは、証拠を残すために何かがあるごとに映像を記録しろと、みなに忠告していた。


 もしかすると、このビデオカメラに犯人の手かがりになるような映像が残されているかもしれない。そうでなければ、死体のすぐそばにビデオカメラが落ちていることが不自然だ。おそらくリョウマの忠告に従い、眼鏡の女は犯行時にビデオカメラで映像を記録していたはずだ。


 わたしはビデオカメラを拾いあげるとそれを操作をし、ビデオカメラに記録されている映像データーを調べた。いくつかの動画ファイルが日付順に並んでいる。こんどはちゃんと時系列順に最初から観ていくことに決めた。


 わたしはいちばん古い動画ファイルを選択した。日付は二日前、つまりは彼らが島に来た日のものだ。

 動画ファイルを再生すると、ビデオカメラの液晶ディスプレイ画面に眼鏡の女の姿が映り込んだ。どうやら鏡に映っている自分を撮影しているらしい。眼鏡の女は胸のあたりまで髪を伸ばしており、その毛先を緩やかに波立たせるような髪型をしていた。見開かれた大きな目に、真円の眼鏡フレームがよく似合っており、知的な印象をもたらしていた。


 画面がゆっくりとまわりだす。すると画面には小柄な女が登場した。どうやら場所は二階の広間らしく、そこに設置された木製のベンチに小柄な女は腰かけている。周囲には絵画や花瓶が飾られ、天井からはシャンデリアが吊りさがっていた。


「ねえ、何をしているの」小柄な女が訊いてきた。


「撮影よ」眼鏡の女の声が聞こえた。「せっかく来たんだから、思い出にと思ってね」


「そうなんだ」


「こんな素敵な場所、なかなかこれないでしょう」


「たしかにそうだけど……」小柄な女はそう言うと、いぶかしげな表情になる。「でもどうしてわたしたちは、この島に集められたんだろう。その理由を知ってる?」


「さあ、どうだろう」眼鏡の女は含みのある言い方だ。「実はわたしもよく知らないんだよね」


「やっぱりそうなの。だれに訊いても、よくわからないって答えられるのよね。でもナツキとマコトのふたりが、意味深なことを言っていたな?」


「えっ、あいつらに何を言われたの?」


 小柄な女は肩をすくめた。「なんかよくわかんないけど、楽しみにしとけよって言われた。いったいなんなのかな?」


 眼鏡の女は小さな舌打ちするとつぶやく。「あのばかども」


「えっ、何か言った?」


「あっ、ううん。なんでもないわよ」眼鏡の女はごまかすかのように明るく言った。「それよりもあのふたり遅いわね。まだこの島に着かないのかしら」


「なんか怪しい」小柄な女は眉根にしわを作る。「何か知っているでしょう」

 画面が左右に何度か揺れた。

「ほんとに?」

 こんどは画面が縦に揺れる。


 小柄な女の眉間のしわが深くなる。「いまあなたは嘘をつきましたか?」

 またしても画面が縦に揺れる。すると小柄な女が立ちあがり、画面に詰め寄ってきた。

「やっぱり知っているんじゃないのよ。教えてよ」


 眼鏡の女が笑いまじりに言う。「だめよ。わたしが怒られる」


「怒られるってどういうことなの。ちゃんと——」


「おーい、ふたりとも」金髪の女が聞こえた。「泳ぎに行くわよ」


 画面が動きだすと、こちらに向かってくる金髪の女の姿をとらえた。すでにビキニ姿でパーカーを羽織っている。

「おい眼鏡」金髪の女が言った。「撮影なんてしてないで、早く着替えてきなさいよ」


「眼鏡って言うな。ちゃんと名前で——」


「ねえ、教えてよ!」小柄な女が声を大にする。「説明して!」


 女三人で騒々しいなか、動画はそこで終了した。

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