第二幕 第一場
わたしはビデオカメラを手に、髭の男である田中リョウマを呆然と見おろしていた。先ほどまで見ていた映像が脳裏を離れない。
「この島には……殺人鬼がいる」
冷静になれ、と自分に言い聞かせた。まずは自分の置かれた状況を整理しなければ。
まずこの島には自分をのぞいて十人の人間がいる。そのうち顔と名前がわかっているのが西村親子のユイとアキラ、そしてわたしの目の前で死んでいる田中リョウマ、この三人だけだ。あとの七人の名前はわからない。
男は残り三人。傷の男に長髪の男、そして痩身の男。
女は残り四人。入れ墨の女に金髪の女、小柄な女、眼鏡の女。
わかっている名前は七人分、ちょうど人数分とぴったりだ。
ヒナコ、マコト、ナツキ、カオル、サクラ、スミレ、ジュン。
この七人は顔と名前が一致しないが、彼らの名前を特定しなければいけない状況でもないので、特に問題でもないし、必要性もないだろう。
いちばんの問題なのは、この島に集った十人の中に殺人鬼がいるということだ。ビデオカメラの映像から、西村ユイ、石川ヒナコ、田中リョウマが死亡したのが確認できる。そしてわたしが最初に発見したベッドで横たわっていた小柄な女の死体、彼女を加えると四人死亡している。もしも小柄な女の名前が石川ヒナコならば、残りの生存者は七人、そうでなければ六人となる。状況から見て、小柄な女の名前は石川ヒナコの可能性が高いが、必ずしもそうだとは断定できない。
いま現在この島は通信手段が遮断されており、あすのあさにしか迎えはこない。そしてリョウマが語っていたとおり、犯行動機が殺人衝動だとしたら、それまでに残りの生存者を殺そうとするはずだ。もしも殺人鬼にわたしが見つかったら、殺される可能性が高い。
「生存者に助けを求めないと……いや、待てよ」
生存者と口にしてアキラと出会った場面が脳裏をよぎる。アキラはわたしを見て逃げ出した。それはつまり……。
「リョウマ以外は、みな外部犯を疑っていた。もしわたしが生存者に出会えば犯人扱いされて逃げ出すのでは。いや、逃げ出すならそれでいい。もしも生存者たちが犯人を返り討ちにしようと、わたしに襲いかかってくるかもしれない。へたしたら殺されるかも……」
殺人鬼と生存者、両者から命を狙われかねない状況だと悟り、わたしは深く絶望していく。




