1−1−3「首を洗って待っていろ」
『こちらA1番! 押されてる! もうダメです!』
『B2番! た、隊長機が大破! 戦線の維持は不可能!』
『――――』
しばらくしてノイズ交じりに次々と守備部隊の不穏な通信が流れ始めた。守備部隊は戦法を理解しているものの、技量の面から綻びが生まれていた。そこからできた隙は次第に広がっていき、徐々に押し込まれている。
「チッ、雑魚しかおらんのか」
「訓練しているのか怪しいレベルですねぇ。これ以上被害が出る前に、先にこちらから下がると言いますか?」
「ん、仕方ない。通信の用意だ。まさか初陣というわけでもないだろう」
「場所が場所だけに、わかりませんよ」
なおも両翼の部隊から機体の損傷を伝える報告は止まらない。それでも本部から撤退の指示が出る気配は一向に感じられなかった。本部には違った戦局でも見えているというのか。なんにせよ、役に立たないどころか邪魔な存在である。
「はいメイカ様、準備できました」
「よし、繋げ」
指示を出すと、ガヤガヤ騒がしかった通信が荒い鼻息に切り替わった。
『どうした? 油を売っている暇があるならさっさと敵を追い払わんか!』
「あいにく私たちは撤退するところだ。お前の部隊もさっさと下がらせろ、負けるぞ。それと待機している部隊も前にもってこい、いないよりはマシだ」
『ごちゃごちゃうるさいわ! 撤退だと!? 貴様らこの町を盾にするつもりか。己の被害を抑えようと手を抜いたな! 傭兵はすぐ下衆な事を考える』
「塀やら門が壊されれれば報酬から引かれる契約だというのに、手など抜くかクソが。お前のとこの作戦本部が話にならんせいだ。守備部隊の管理もできんのか。組織を腐らせるならさっさと身を引け、それか死ねバカ!」
『うるさい、こちらのせいにする気か! 貴様らの実力が至らんだけだろうが! いいか、我らが守備部隊が命を賭してまでここを守っているのだ。貴様らも御託を言う前にそれくらいせんか!』
怒鳴り散らした後に荒い鼻息はなく、通信は切断されていた。
「通信切れましたねぇ」
「クソがッ!」
メイカは衝動の赴くままに、前の壁を思いっきり蹴った。接触したところから徐々にじんわりと熱を帯びる。
これだから腐った企業は信用ならん。あと、滅茶苦茶痛い。
組織の守備部隊などは長期にわたって駆人を勤めるので、閉鎖的な訓練によって技量が衰えてしまう傾向にある。敵の襲来などによって出撃すると訓練を見直す良い機会になるのだが、死んでしまえばそれまでである。守備部隊の質の低下は訓練方針であったり、管理側が何らかの対策をとれば容易に改善できることだ。
この程度の実力ならば、初めから籠城戦をすれば良かったのである。しかし、守備部隊長がそれを進言したところで作戦の方針が変わることはないだろう。部隊の実情も知らない素人が指揮を取る企業は愚かとしか言いようがない。
とはいえ、そのような事情は当然織り込み済みである。今の戦況もメイカの想定の範囲内、むしろ予定通りであるが、実際を目の当たりにすると怒りが込み上げてくるのだから仕方がない。無意味な結果に終わると分かっていても、八つ当たりをせずにはいられなかった。
『本部より全部隊に通達、直ちに戦線を放棄して撤退せよ。これよりは塀を用いて敵を迎え撃つ。繰り返す——』
「バカが。全部引いたら追い打ちを食らうだけだ」
「本部もだいぶテンパってますねぇ」
「どっちが敵だかわからん」
これ以上守備部隊の数を減らされてもかなわないので、仕方なく殿を務める。アイゼンとリムもそれを分かっていて退く素振りを見せなかった。
2機目を仕留めたアイゼン機が、停止してから一度も動きを見せていない敵の隊長機を狙った。アイゼン機を阻むものは何もない。がら空きの隊長機へと一直線に向かっていく。高みの見物を決め込んでいるのか、なおも隊長機は動こうとしない。
「アイゼン、左右から1機づつ上がって来た。挟まれるぞ」
『むっ!』
直後、アイゼン機が後ろに跳んだ地点から爆発が起きた。左翼から上がって来た敵機のグレネードランチャーだ。
「チッ、いいとこ狙ってくる」
そこへ右翼からも1機合流して、2機のYOROIが隊長機の守りを固めた。
『お嬢、続けてもいいがハイリスクだ。大将の首を取れる可能性も低い』
DEC-1は防御力よりも機動力を重視している。そこにグレネードランチャーが直撃すれば、一撃で落ちることは間違いない。直撃せずとも、爆発の衝撃で跳躍機関が壊れてしまうことも十分にあり得る。戦場で脚を失った跳甲機などまさにただの棺だ。
守備部隊の方に目を向けると、左右の部隊が合流して長い列を成していた。
「頃合いだ。お前達もそろそろ退け」
『承知』
『はいはーい』
道に沿って撤退していく守備部隊の跳甲機群。戦闘前は24機だった守備部隊は18機まで減ってしまった。残っている機体も損傷を負っている数の方が多い。対する敵はアイゼンが2機撃破のみで残り13機。守備部隊が早々に引き上げたので、メイカの想定より被害は大きくならなかった。意外と先ほどの通信が功を奏したのかもしれない。
アイゼン機とリム機も撤退する守備部隊の最後尾に付いて様子を伺った。敵は追いつけないと判断したのか追撃を行わず、隊列の組み直しをしてから進行を始めた。
「結局、もったのは15分か。戻るぞ」
「足元にお気をつけください」
ひとりで勝手に階段を下りていくメイカを後片付けを済ませた秋山が追った。
「アイゼンさんがあのまま隊長を喰えれば良かったんですが、そう旨くは行きませんでしたねぇ」
『あの3機は別格だと思った方がいい』
『ランチャー3兄弟ねー。相当金積まれたらしいし、エースでも連れてきたんじゃない?』
『1対1なら負けんさ』
『すごーい、アイゼンさんパないっすねー』
アイゼンとリムはお互いまだ余裕かあることを主張するように軽口を交わした。
この撤退によって、最も報酬の望める勝ち方が潰えただけのこと。まだ状況はこちらの方が有利だ。退くタイミングさえ見誤らなければ多少の強引さは許容できる。初めから可能性のあった事態だけあって、精神的な余裕は十分残されていた。
しばらくして撤退が完了し、守備部隊の機体は全て塀の中に入った。メイカと秋山は指揮車両に戻り、輸送車両を含めて3台を正門近くから右面の門の前まで移動させた。アイゼン機は正門の前、リム機はライフルを放棄してキャノンを展開し、その後方の門内で待機中である。
『おーし、じゃあ第2ラウンドも張り切っていきますかぁ!』
「リム、お前は何もしてないだろう……ん、どうした?」
アイゼン機のメインカメラ映像を映しているモニターを秋山が訝しげに見ている。メイカも覗いてみると、確かに敵の一団が停止したところだった。まだ距離は離れている。機体のトラブルでも起きたのだろうか。
『初めて会ったのぉ、お嬢ちゃん』
「あぁ?」
通信から初めて聞く低い声がメイカの耳に届いた。穏やかな口調の中にもどこか凄みを感じる。第一声を聞いただけで、そこらの傭兵とは年季の入りが違うことがわかった。
『ワシは鋼鉄の棺を率いておるリーというもんじゃ』
「ん、まさか本物の大将が出て来ていたとはな」
それなりに腕の立つ奴を引っ張ってくるとは思っていたが、団長自らが部隊を率いているのには驚いた。そして先陣を切っていることに多少の感心と憧れを覚える。
「“お嬢ちゃん”ということは、私のことも多少は知っているのか」
『そりゃそうじゃ。西で好き勝手やっとる噂は聞いとるよ。ワシんとこのもんも世話になったようじゃしのぉ、えぇ?』
「それで? 話は何だ」
『はぁー、連れんのぉ。爺婆のつまらん話には最後まで付きおうてやれと教わらんかったか?』
少し面倒になってきたメイカは、門を潜らせてリム機のキャノンをぶつけられないか試みさせた。
『まぁいい、ワシはお前さんらのことを話に聞いておって、そんでえらく気に入ってしもうてなぁ』
相手もメイカの考えを読んでいたのか、移動できる位置でキャノンの射線を通すことはできなかった。
『アホたれ企業の尻拭いっちゅう浪漫の欠片も漂わぬ下らん戦場で死ぬこともなかろう。どうじゃ、ワシらの下に来んか?』
なるほど、勧誘ときたか。
こんなところで死ぬ気は更々ないが、確かにロマン云々については同意見である。しかし、メイカに誰かの下につくという考えは一切無いし、するつもりも無い。答えは初めから決まっている。
「断る」
『ほう、潔し』
「言いたいことはそれだけか」
『そうじゃ』
籠城となれば攻める方も面倒であり、少なからず損害を被ることになる。侵攻が少しでも楽になるように、金と引き換えにアザーから手を引けという申し出であったのならば、その金額次第で快く応じていたことだろう。残念ながらその提案はなかった。
「なら続けるぞ。今からお前をぶっ潰す」
『それはそれは。まぁ、フられてしもうたからには――』
敵の一団が再び動き出す。
『死合いを楽しませてもらおうかのぉ!』
団長のリーを先頭にして、後ろにアイゼンが別格と言っていた2機が続く。他の機体がその後ろを追い、これまでよりもさらに速く突っ込んできた。
『今度は近い! いけるぞ、撃て撃て撃てぇぇぇい!』
塀の内側で控えていた守備部隊が機体の半身を覗かせ、敵の一団を一方的に攻撃した。永続的なライフルの集中砲火が、砲台からの攻撃も合わせて敵を襲った。先ほどの攻撃とは違って今度はそれなりに命中している。銃弾が左右上方から放たれ、激しい火の雨が降り注ぐかのごとく、機体の全身から火花を散らした。
『ガッハッハッハッ! やっとこさ戦場らしくなってきおったわ!』
全くと言っていいほど迷いがない。1機、2機と胸部や跳躍機関から黒い煙が上がり、機体の制御を失って倒れていく。それでも敵の一団は攻撃や回避を一切行わず、守備隊に構うことなく駆けるのを止めない。門の前でじゃれ合うつもりは無いらしい。
あの重装甲では塀を飛び越えることは不可能だ。敵はとにかく門の中に入ることを優先している。敵の懐に一点集中突破、大胆でリスクを伴うが強力な戦法だ。実力差を考えると、抜かれる機数によっては敗北の可能性もある。
「グレネード、くるぞ」
リー機と後ろの2機が門前で立ちはだかるアイゼン機に向かってグレネードランチャーを構えた。
「いいか、絶対に貰うな」
『この距離ならまだ見切れる』
右の1機が先制して仕掛けた。重量のある武器、しかも駆けながらの射撃にも関わらず、グレネードの軌道はアイゼン機を正確に捉えている。爆音と共にアイゼン機のメインカメラが砂煙に覆われ、メイカ達からは何も見えなくなった。
「機体に異常はありません」
「そうか」
アイゼン機の計器類を確認した秋山が告げた。それを聞いてメイカが不敵な笑みを浮かべる。後は演技力勝負だ。
砂煙が晴れた。アイゼン機は門の真下、立膝をついた状態で健在していた。両手に装備していたライフルは足元に放り出され、跳躍機関からは不規則に光が弾けて煙を上げている。
『決められなんだか。弾代も馬鹿にならんじゃろうて、確実に屠る』
サブ武装として脚部横にハンドガンとナイフがつけられているが、機体の急所をピンポントでつかなければ効果は薄い。それを確認したリーは武器を構えたままアイゼン機へと迫った。
「釣れるぞ」
メイカが興奮気味に唸った。言ってみれば子供だましに過ぎないが、それで相手をやれるのならば立派な策である。
まず敵の攻撃で跳躍機関が逝った振りをしたアイゼン機から武器を捨てさせて交戦力を無くす。無論、跳躍機関が壊れたように見える細工は常時仕込んである。アイゼン機は油断した先頭のリー機をできるだけ引き付けてから門の中に跳び退き、その奥に低い射撃姿勢で隠れていたリム機の一撃で風穴を開ける。グローカス社製の装甲カスタムだろうが、キャノンの直撃を防げる機体はない。
行動が制限される門の通過時に高火力な攻撃を合わせるのは安直な手である。しかし、その直前で不意をつくことができれは、一瞬の隙ぐらいは晒してくれるだろう。キャノンの射線上には門があるが、門との距離が近くなるほど射線が通りやすく、命中する可能性は高くなる。故にアイゼンは敵をなるべく引き付ける必要がある。
『リム、合図は任せた』
『はいはーい、任されました』
守備部隊の猛攻によって9機にまで数を減らした敵の一団がアイゼン機に迫った。
『あとちょい待ってよー、まだ肩しか見えてないから』
既に現在の距離では敵の射撃に反応しての回避はできない。通信を通じて緊張感が伝わってくる。リー機の得物は確実にアイゼン機に向けられている。今撃たれれば機体諸共確実にお陀仏だ。
『もうちょいー、もうちょいー、……今ッ!!』
合図と同時に、アイゼン機が膝立ちの姿勢からそのまま斜め後ろに跳んだ。
『仕込みじゃとッ!?』
アイゼン機が退いたことで射線が通り、リム機のサイトがリー機の胸部を捉える。
『ロックッ! いっけぇぇっぇぇ!!』
リムの気合のこもった砲弾が空気を震わす轟音と共に発射された。地面に打ち付けられたバンカーが射撃の反動を確実に吸収し、照準地点から寸分の狂いもない射線を描く。瞬間、もの凄い金属音を響かせて遥か後方の地面が弾けた。
『は? うそ……でしょ?』
『ガッハッハッハッ! これは堪らん! あの世が見えたわぁ!』
リー機は左の肩部にひどく損傷を負っている。しかし何事もなかったかのように進行を続けた。それ以外に損傷は見られない。
一体何が起こった!?
理解の範疇を超えた事態に、メイカはリム機の映像を通してリー機を睨みつけた。
『最近のシステムは性能が良いからのぉ、姿勢を整えて撃てばしっかりワシ本体のところへ飛んでくるんじゃ。そうと分かっておれば、丈夫な肩部を盾代わりにして受け流すっちゅうことはできる』
できるはずがない、無理だ。こいつは何を言っている。
キャノンの弾速は速く、砲口が光ったのを確認する頃には既に大破している。クスリで反応を強化して何とかなる話ではない。仮に着弾点がわかっていたとして、防ぐには砲撃のタイミングを察して合わせることが必要だ。ロックオンまでの完了時間はシステムの性能によって大きく差が出るし、そもそもロックオン完了後すぐに撃つとも限らない。
『ガオウや、お前さんの考えた対処法、ワシが証明したわ! ガッハッハッ、ちゃんと空で見ておったか?』
「チッ、人間じゃない……」
ついに鋼鉄の棺は門を抜けた。中に入った敵機がこれまでのお返しとばかりに、次々と守備部隊に襲い掛かる。
『くッ、怯むな! さっきのように集中して撃ち込めば抜けるぞ!』
『おぉぉぉぉ! 来るな! 来るなぁぁぁ!』
近距離で陣形もなにもない乱戦となっ城内の戦闘は完全に敵側のペースだ。守備部隊は大した損傷を与えることもできないまま壊されていく。同時に敵機はリム機を狙った。スパイクまで打ち込んで万全な狙撃体勢の機体は、固定砲台に等しく格好の的だ。咄嗟にアイゼン機が肩部を突き出すような姿勢で盾になった。
『あっぶな、アイゼン大丈夫?』
『問題ない』
「一番機、左肩部大破。他、損傷多数。少々まずいですねぇ」
「問題大ありだバカ!」
メイカは声を荒げる一方で、努めて冷静に現状を分析する。最終的に門を突破した敵機は8機。これは想定する戦闘継続ラインを上回る。アイゼン機がこの状態では暴れさせたところで博打にもならない。もはやこれまでである。
「即時撤退。急げ」
『承知』
『……はーい』
結局、本陣前の部隊が動くことはなかった。ゼンツクの2機は門外からアザー本社まで一直線に続く道を通り、突き当たりを左折して右面の門を目指す。
『お、おい傭兵! どこへ行くつもりだ! これ以上の逃走は許されない、最後まで戦え!』
町の中心へ駆けていく2機に本部から怒号が飛んだ。声が震えており、焦っているのが丸分かりだ。ここで防衛している跳甲機が全滅すれば、次は住人、最後には自分たちが殺されるとでも思っているに違いない。
「おい、ひとついいことを教えてやる。敵の大将は金にならん破壊は好まんそうだ。死にたくないのなら、目標である本社を放棄して町中にでも逃げておくんだな」
本当かどうかは定かでないし、メイカの言うことを信じてどうなろうが、知ったことではない。思惑通り、しばらくして通信の向こうが騒がしくなった。今頃本部では逃げる逃げないで楽しい議論が行われていることだろう。もうメイカに構うこともなくなった。
「はぁー、クソ……」
今回の作戦を振り返ってため息が出た。敵の技量がメイカの策を上回り、そして負けた。
門を閉めて完全に篭城という手もあったが、門を破られるまでの時間を稼いだとして、下っ端の残骸が多少増えただけだ。さらにリーをやる絶好の機会も失うことになる。
アイゼンとリムの撤退が完了するまでの間、頭の中で戦術を練り直してシミュレーションを繰り返した。しかし、あの衝撃の光景が当然の実力であることを想定すると、何を仕掛けてもリーに豪快な笑い声を上げられてしまう。
「メイカ様、二人が到着いたしました」
「ん、これより作戦エリアを離脱。車両を護衛しながら安全圏まで移動した後、機体を格納だ。それから基地に戻る」
『うーん。依頼は達成ならず、だねー』
『そんな時もある』
秋山とアイゼンは年の功か、作戦が失敗に終わっても淡々としている。リムは普通に悔しがると思ったが、どうも今回はそういうレベルの話ではないらしい。
損害を強いられることになろうとも、最終的には作戦を達成する。そうしてゼンツクは高い依頼成功率と共に成長してきた。しかしアイゼン機が中破、同じ戦場に出た守備部隊が壊滅、防衛目標も順調に破壊される予定という大敗を喫した本作戦は、ゼンツク史上初めての完全敗北といっていい。
クソが。
全てのことが終わり、負けた事実に純粋な悔しさを募らせる。
『実に見事な引き際じゃったのぉ』
そんなメイカに別れの挨拶のつもりか、リーからの通信が入った。
「お前、わざと私達を見逃しただろう」
『はて、なんのことじゃ?』
白々しくとぼけた声を出すリー。こんな老いぼれにしてやられたのだと思うと余計に腹が立った。
「どこまでもふざけたやつだ」
『ほぅ、これだけこてんぱんにされてもワシを恐れんか』
「お前のような声を聞いただけでわかる老いぼれジジイに、ビビる道理がどこにある。次に会った時がお前の最後だ」
『ガッハッハ、よく吠えおるわ。して、また向かってきてくれるのか。今度お前さんらと戦える日を心待ちにしとるでのぉ』
「クソが。さっさとくたばれバケモノ」
『あいにく様、生きる楽しみがあるうちはなかなかくたばれんもんじゃ。まぁ、殺されん限りはじゃが』
この男は待っている、自分を解放してくれる存在を。スリル溢れる最高の戦いを終えたついでに死にたいのだ。それが戦場に魅せられた亡者の願い。メイカにはそんなふうに聞こえた。
面白い。なら望み通りにしてやる。
「リー、首を洗って待っていろ」
次は必ず勝つ。そして奴を殺す。
『よかろう小娘、それまで死なんようにのぉ。ガーハッハッ——』
最後の勝ち誇ったような笑いが限界であった。メイカはインカムを乱暴に取ると、車内の床に思いっきり叩きつけた。