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傭兵より殺意を込めて  作者: やっぴー
1/17

1−1−1「 」

よくぼうのままに。

 その日、少女は傭兵になった。



 相手の都合など一切関係ない。自らあるいは他者の信念、欲望を暴力に変えて壊し合う。そこに慈悲など存在しない。力こそが全ての世界があった。



 開戦の挨拶代わりに放たれた牽制の射撃が遅れて少女の耳に反響した。



 慌ただしく繰り返される振動が足を伝わり、視線の先は高々と舞い上がる砂煙に覆われた。



 時折聞こえる何かが激しく接触する音、爆発音が少女の培ってきた世界観を粉々に砕いた。



 離れた丘の上に佇んで戦況を見守る少女の顔は険しい。微かに膝が笑っていて、身を強張らせている。袖からのぞく小さな拳を強く握り込み、もう片方の手で包んで祈るような仕草で動かない。



 隣に寄り添う男が心配になって堪らず少女に声を掛けた。大丈夫です——少女は戦場を見据えたまま静かに言った。



 違う、そうではない。



 発砲や跳躍、着地、爆発。戦場の全てが衝撃波となって少女にぶち当たった。初めて見た生の戦場、映像とは何もかもが違う空気。体は尋常でないほど張り詰めている。しかし、それと同時に少女はかつてない感情の昂りを感じていた。



 これは、どうして。



 思ったとおりに戦況が動き、少女の立てた作戦は順調に進行する。その度に敵が一機、また一機と無残に壊されていく。やがて、指揮していた(かしら)がやられたのだろう、明らかに混乱している敵の姿が確認できた。



 私の作り上げたものが、相手を圧倒している。



 フフッ——思わず少女の口から笑いがこぼれた。男は渋い表情を浮かべるが、その顔から心情を察することはできない。



 少女は気付いた。戦場から醸される痛いほどの緊張感。そんな環境の中、自分の指示一つで戦況が傾いてしまう。他者の命を預かる責任ある立場にも関わらず、内からやってくる悦楽をどうすることもできない。ただただ溢れ出していく。しばらくして敵は負けを悟り、散り散りになって撤退していった。



 勝った。終わった。



 緊張の糸が切れた少女から力が抜け、倒れゆく体を男が受け止める。敗走する敵を尻目に少女はもう一度、今度は大きな声を上げて笑った。


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