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 貴重な一ヶ月は、瞬く間に過ぎた。ロザリーは中級の魔法を四つ使えるようになった。

 一つは火の魔法「ファイヤーボール」、初級の「フレイムアロー」のパワーアップ版だ。必要な魔力は二倍になったが、威力は三倍になった。

 次は土の魔法「クレイバリア」、土の壁を作る魔法だ。敵の攻撃を防ぐことができるが、壁は頑丈ではないので、威力が高い攻撃には耐えられない。特に反対属性の風の魔法には弱い。だがそれ以外に多くの使い道がある。敵の視線を遮ったり、敵の移動を妨害することができる。

 その次は無属性の「アブスオプション」、相手が持っている魔力を奪う魔法だ。ロザリーは元々魔力(MP)が多い。最初は必要ないと思っていたが、精霊(エレメント)に手こずることが結構多い。反対属性の魔法で対抗していたが、魔力の塊みたいな精霊は、吸収する方が効率がよいと思った。精霊以外でも、魔力を使う敵にも効果が期待できる。

 最後は「ホーリーランス」、初級にはない神聖魔法だ。悪魔系や不死者系(アンデット)に効果がある攻撃魔法だ。ロザリーが遭遇したのは、ミイラだけだった。ミイラには火の魔法でも効果があった。だがロザリーは迷宮(ダンジョン)の半分しか行ったことがない。その先には他の魔物がいるかもしない。いや、おそらくいるだろう。

 十七歳の誕生日の二日前、ロザリーは迷宮(ダンジョン)に挑んだ。前日は予備日としてとって置いた。

 通いなれた四階までは順調に制覇(クリア)できた。四つの新しい魔法も試すことができた。今までより楽に制覇(クリア)できた。これならもっと早く中級魔法を覚えておけばよかったと思った。

 五階に行く階段を降りようとしたとき、異変が起きた。階段に行く途中で、足元が崩れた。ロザリーは落とし穴にはまった。


「イタタタタ」


 ロザリーは落とし穴の底で立ち上がった。体を少し動かしたが、痛みは感じなかった。怪我はしなかったようだ。


「なぜ落とし穴があるのよ? 今までは無かったのに」


 ロザリーは疑問を感じながら、落とし穴から出ようとしたとき、地面に毛が落ちていることに気づいた。その毛を拾い上げた。赤い毛だった。


「赤い毛が生えた魔物なんかいなかった。人間? 長い。男性じゃなくて女性の髪の毛みたい」


 ロザリーの脳裏を一つの疑惑がよぎった。


「まさか、そんな訳ないわよね」


 ロザリーは口に出して、否定した。そして緊張感を取り戻して、階段を降りた。

 五階には中ボスが待っていた。今まで一度も倒せなかった相手だ。ロザリーを見た中ボスは、雄叫びをあげた。あからさまに敵意をむき出した。ロザリーは、アンジェリカの言葉を思い出した。強い敵こそ速攻で倒す。


「ファイヤーボール!」


 ロザリーは自分が使える最強の攻撃魔法の呪文を唱えた。魔方陣から大きな火球が放たれた。火球は中ボスに命中した。中ボスは大きな声を出した。それは雄叫びではなく、断末魔の悲鳴だった。中ボスは倒れて動かなくなった。

 ロザリーはあっけにとられた。今まで苦戦していたのが嘘のようだった。ロザリーは慎重に中ボスに近づき、杖で突いてみた。全く動かなかった。


「嘘、本当に倒しちゃった」


 ロザリーは簡単に倒せたことをおかしいと思ったが、嬉しさがそれをはるかに上回った。


「やった! とうとう勝ったんだ!」


 ロザリーは意気揚々と六階へ降りた。

 六階にはボスがいず、雑魚だけだった。それまでの雑魚より強かったが、数が少なかったおかげで、制覇(クリア)できた。

 七階は他の階より奥行きが狭かった。その奥には狭い入り口が開いていた。魔物はいない。


(トラップ)の階?」


 不思議に思いながら、ロザリーは七階を歩き始めた。七階の真ん中まで歩いたとき、ロザリーの目の前の土の中から魔物が現れた。


動く死体(ゾンビ)!」


 ロザリーはとっさに飛びのいた。杖を敵に向け、呪文を唱えた。


「ホーリーランス!」


 光の槍がゾンビを貫いた。ゾンビは一撃で消滅した。ロザリーは冷や汗をかいた。


「驚いた! まさか土の中に隠れていたなんて。囲まれたら危なかったわ」


 ロザリーは自分の言葉で気がついた。敵は一体だけ現れた。ということは、今の敵はこの階の中ボスということになる。それにしては弱すぎる。まだ罠が待っているかもしれない。

 ロザリーは奥の狭い入り口に入った。中は迷路だった。要領が悪いロザリーは迷路の中で迷った。しばらく迷路の中を右往左往したあげく、転んだ。


「きゃあ!」


 壁にぶつかると思ったロザリーは、両手で顔をかばった。だが壁にはぶつからなかった。もっと悪いことに、地面にぶつかった。ロザリーは顔を上げて周囲を見た。自分の体が壁の中を貫いていた。そのときようやく気づいた。地面に何かが描かれている。ロザリーはそれを消してみた。迷路は消え、不完全になった魔法陣が現れた。

 ロザリーは立ち上がって魔法陣を見た。


「光魔法の『イリュージョン』! 迷路は幻想だったんだ。でもこんなに複雑な幻想を創るなんて、すごいわね」


 ロザリーはそこから後は、頭の中で考えた。魔方陣の効果は、せいぜい二時間しか続かない。つまり二時間以内に作られたことになる。自分が挑戦を始めてから、三時間ほど経っている。そして誰とも出会っていない。


「私以外に誰かいる。私より先の階にいる。私を妨害している。その相手は、たぶん、私より強い」


 ロザリーはそう言いながら、一歩歩こうとした。そのとき何かを踏んだことに気づいた。ロザリーはそれを拾い上げた。


「イヤリング? 赤いイヤリング?」


 ロザリーはそのイヤリングに見覚えがあった。

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