1話目 何時もと変わらない日々
何時もと変わらない道を歩く。
まだ8歳の頃両親が死んだ。僕が林間学校に行ってる間両親は結婚記念の旅行に出ていた。帰りの飛行機が落ちそのまま二人とも帰らぬ人となった。
僕はそのまま父の弟夫婦に引き取られた。
父の弟は、本当に父の弟なのかと疑うほど駄目な男だった。
両親の残してくれた遺産を酒、女、ギャンブルに使うクズ野郎だった。
だかその妻である美雪はいい人であった。
僕は美雪にすぐに懐いた。買い出しに二人で行き。二人で料理をして。二人でご飯を食べて。二人で眠る。とても楽しかった。
両親が死んで落ち込んでいたが美雪と暮らしてくうちに悲しみも薄れていった。
だがまた死別の時がくる。
僕が16になった時だ今まで両親の遺産で中古の家を買ったっきり美雪と僕を残し遊んでいたあいつが帰って来たのだ。
外で女を作り一緒に暮らしていたが、別れて帰って来たらしい。
学校から帰るとあいつの怒鳴り声が聞こえた。久しぶり過ぎて誰の声か判断つかなかった僕は声のするリビングまで走った。
扉を開けると昼間から酔っ払い顔を赤らめたあいつが生まれたままの姿の美雪を床に転がし踏みつけていた。
僕は頭に血が登るのが分かった。
声にならない叫びを上げあいつを殴る。更に殴ろうとしてあいつに近寄ると美雪が「辞めて」と叫ぶ僕は美雪の方を向いた。美雪は首を振りながら「駄目よ、あの人と同じになってしまう辞めて」と涙を流して僕に言った。
僕はその言葉で落ち着き美雪に上着をかけようと足を踏み出すと頭に衝撃があり視界が暗転する。美雪の悲鳴が聞こえた気がした。
次に目を覚ますと見慣れない白い天井が見えた。どうやらベットに寝ているらしい。身体を起こそうとして頭に痛みが走る。痛みに声を漏らし起き上がるのを止めて寝たまま周りを見る。ナースコールを見つけた。どうやらここは病院らしい。とりあえずナースコールを鳴らすとすぐに医者とナースがやって来て体調の確認をされた。動こうとすると頭が痛くなる事を告げると医者はカルテらしきものに何か書き込むと会話出来そうか訪ねて来たので大丈夫と答えると少し待っていてくれと言って病室を出て行った。
暫くしてスーツを着た二人の男が病室に現れた。刑事らしい。
刑事から美雪が死にあいつが捕まったと聞いた。僕が倒れた後あいつは美雪の事も殴ったらしい。凶器はビール瓶だった。美雪の悲鳴が聞こえたので近所の人が通報してくれたらしく駆けつけた警察にあいつは捕まり救急車で僕と美雪は病院に運ばれた。美雪は既に死んでしまっていたらしい。
僕は刑事さんに事件の事を聞かれたが美雪が殴られる前に気絶していたのでわからないと答えた。
僕は刑事さんに美雪に会いたいと言うと美雪の遺体がある部屋に案内された。
その部屋の中央にある台の上に美雪の遺体であろうものが白い布をかけられ寝かされていた。
ゴクリと喉がなる。口が乾く。目眩がする。
倒れそうになった僕を刑事さんが支えてくれた。「大丈夫か」との声に大丈夫です。と返し僕は台の前まで歩く。顔にかかった白い布に手をかけた。手が震える。覚悟を決めて布を取ると優しい顔で微笑む何時もの美雪の顔があった。
「なんで笑ってんだよ美雪」
その呟きが聞こえたのか後ろにいる刑事が説明してくれた。
「彼女は君を庇うように君に覆い被さり死んでいたそうだよ」
頬に暖かいものが伝う。涙だ。そう気がついた僕は声を出して泣いた。美雪が呼んでと言っていた。お母さんと何度も叫んだ何度も何度も目を開けてくれとすがるように。
どれだけ泣いたか分からない。ずっとここに居たかったがそうゆう訳にもいかないので美雪の顔に白い布を掛け直し部屋をでる。
部屋の外には刑事さんが居た。どうやら待って居てくれたらしい僕を部屋まで送ると帰ると言ったので僕は刑事さん達にありがとうございました。と言った。刑事さん達は元気でなと言って帰って行った。
頬に涙が伝う。8年前の事を思い出すと今でも涙が流れる。あれからただ働き、ただ食べて、ただ寝る。そんな生活をして来た。
バイト先の人とも最低限にしか関わらない。友達もいない。恋人もいない。何もない毎日を過ごす。
住んでいるアパートに帰る。六畳一間の部屋で家賃は二万円ほど晩御飯のコンビニおにぎりを食べて銭湯に行き帰って来て寝る。
何時もと変わらない日々だ。