空白の時
「健!健!健!」と叫びながら、志歩は地にぽつり、ぽつりと涙を流した。
地面には、北山志歩の恋人である山中健が倒れていた。
そして、健の隣には見ず知らずの女が倒れている。
この女はいったい‥‥‥‥。
―さかのぼること、8ヶ月前―
去年の夏休みが初まる前、志歩達にとっては、高校生活最後の夏休みとなる。
「あーもうすぐ夏休みだなぁ」
と健が下校中にはっと思いついたかのように言った。
「あーーっでも、受験生だしーーーどーせ勉強ばっかーあーあーだりぃだりぃ」
「アハハハハハハ」
「何で笑うんだよー!!」
「ごめんーでもさー健!あんたどーせ勉強なんか真面目にしないんだから受験生でなくてもあっても一緒でしょっ!!それにあたしも健も大学エスカレーター組だから関係ないしねー」
志歩は呆れた様子で言った。
「そっかー。それもそうだなーアハハハハハ。」
「あっでも夏休み明けにはテストあるよ~!あっでも健はどーせ勉強しないかー。」
「はーーーーっ俺だって色々大変なんだかんなーーっ。」
「色々って何よ~!?どーせ何もないくせに~!アハハハハハ」
「バカにすんなよ~!まーとにかくオレにだって色々あんだよっ」
「ふーん」
志歩は、媚びた様子で健を見た。
志歩と健はいつも一緒に登下校し、このようなたわいもない話をしていた。
きゃっきゃっきゃっきゃっと笑い合う二人はまるで小学生のようだった。
こうやってずっとずっとずーーーっと健といられたらいいのに。志歩は、毎日のように思っていた‥‥‥。
いつも見えてた健の笑顔が一瞬にして消えてしまうなんて。この時の志歩には考えられなかった。
夏休みも終わり、夏休み明けのテストも終わった。
そんなある日の
「志歩、志歩志歩ちょっとちょっとー」
いきなり元気系の千華が焦った様子で話しかけてきた。千華は志歩の小さい頃からの大親友である。」
「なっなに?」
しか
「なんかさっき担任と健が話してるの聞いちゃったんだけど、健って東京で就職先決まったって言ってたんだけど志歩知ってた?」
「えっ何それ?そんなの聞いてないんだけど‥‥‥」
志歩はいきなり頭の中が真っ白になって
「だっ大丈夫?ちょっと志歩、志歩しっかりして。」
「あっごめん」
千華の言葉で志歩は我にかえった。
「とりあえず健に聞いてみたら?一人じゃ不安だったらあたしもついてくよ?」
「うん。ありがと。」