表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/11

僕の秘め事

3年ぶりくらいに書きました。

ちょこちょこ読みやすいように訂正もしていくので、今後もお願いします。

昔話をしよう。

まだ、綾が僕と同じくらいの背だった頃だから、小学校の中学年位だったと思う。


普段家で食べれるものでも、給食で出てくると何故か途端に希少価値が跳ね上がる。その最たるものがデザート類であり、ゼリーやみかんは常に争奪戦の対象だ。


今から考えると、なぜあんなものにそこまで必死になるのかと疑問に思うが、恐らく単純に争奪戦という一種のお祭り騒ぎをしたいのだろうと悟ったのは随分経ってからである。


その日の給食ではデザートにプリンがでた。当然争奪戦の対象である。そして綾の好物である。

今からは想像もつかないが、あの頃の綾は少し引っ込み事案なところもあって、あまりそういうのには参加しなかった。それがなぜこんな風に成長してしまったのかは僕の中の三大怪奇の一つであるが、本人にそれを言おうもんなら何されるか分からないので、このまま解決することはないだろう。


とにかく、今より少し(?)大人しかった綾はそういうのには参加しなかった。けれど本当は参加したがっていることも僕は知っていた。

だから、特別好きというわけではなかったから自分の分を綾にあげることにした。


別に大したことでもないけどさ。プリンも大好きな人に食べられる方が幸せだろ?


本当はすぐに渡しに行きたかったけど、あることないことからかわれるのが嫌で、僕は躊躇してしまっていた。


面倒なんだ。この頃の男女関係というのは何故か対立していて、女の子と仲良くする男子はその女の子のことが好きだと認識されて、しばらくの間からかいの的にされる。


いつも一緒に遊んでいる綾とも、学校がある間はそれぞれ別々のグループで過ごしている。男子と女子は話すことすら禁止されているみたいだった。

そんな目に見えないルールがいくつもあった。


変とは思ってもそのルールを破ることはできない。

皆、ルールに束縛されながらも監視する立場でもあった。


そういう訳で、誰にもバレないように渡すタイミングを伺っていた。けど、中々いい機会が訪れず、迷っているうちに友達に外に遊びに行こうと誘われた。

断る理由も見つからず、早く早くと急かされた僕は、仕方なくプリンを机に放りだして外へ遊びに行ってしまった。

当然、机に放り出していたプリンは帰ってきた時にはなくっていた。


まあ何がいけないのかっていうと、忘れて放置した僕がいけないのだが、プリンを盗られたこととか、綾に渡せなかったことにイライラしていた。

帰り道で僕は盛大に綾に愚痴った。


「ありえないよなー、人のもの勝手に盗るなんてさ」


大袈裟だよーとか、置きっぱなしにした修がいけないよーとか言ってくれることを期待したけど、その日の綾はいやに大人しかった。曖昧な相づちをうつだけで話を続けようとしなかった。

そのことにもっとイライラした。


「人としてさいてーだよ、たとえプリンでもオレのだぜ」


大げさに言って綾の気を引こうとしたけど、相づちは変わらなかった。

苛立ちが募って、僕は黙って歩いた。歩調を早めてずんずん前に進んだ。


前の日に大雨が降ったせいで、所々水たまりが残っていた。その一つに気づかずに思いっきり踏みそうになった。寸前で避けたから、変な着地をしてしまった。そんなことにもイライラして更に歩調を速めた。


綾は歩調を変えなかったから、僕は綾を置いてくように前を歩いていた。

チラチラ後ろを確認するけど、追いつこうとしなかった。


置いてっているのは僕の方なのに何故か僕が置いてかれたような感じがした。見放されたような感じ。

子供っぽい自分に愛想を尽かされたのではないかと不安な気持ちでいっぱいになる。


置いてかれる寂しさと追いつこうとしてくれない苛立ちが混ざり合って、僕はどうすればいいか分からなくなった。後ろにいる綾と距離を保つ程度に歩調を緩めるしかできなかった。チラチラ確認して少し距離を空けて歩いた。


不意に綾が立ち止まったのを目の端で確認した。僕は綾の方に向き直って立ち尽くした。


空いた距離がひどく長く感じた。数歩で近づけるはずなのに、足は前に出なかった。


雨上がりの土の匂いがした。懐かしいような、寂しいような。

なんでこんな気持ちになるんだろう?


「綾…?」


綾は泣きそうな顔をしていた。こちらをじっと見つめてこらえるように口をつぐんでいた。

もう一度綾の名を呼ぶと堰を切ったようにわんわん泣き始めた。


「なんで泣くんだよ!?」


僕は訳が分からなくなり、おろおろと戸惑った。

長く感じた距離を一気に駆け抜けて、綾の側に寄る。


「綾、どうしたの?」


綾に泣いている理由を訊いたが、綾は泣きじゃくるばかりで埒が明かない。

どこか痛いのとか、学校で嫌なことあった?とか、色々訊いてみるけど、綾は違うと頭を横に振り続けた。


「ゆっくりでいいから、何があったのか教えてよ。」


宥めるように言った。もっと気のきいたことが言えれば良かったけど、僕は綾が落ち着くまで静かに待つしかなかった。


隣で女の子が泣いている状況というのは中々厳しいもので、僕は周りの目を気にしつつ、なるべく綾が泣いているのを隠そうとした。女の子を泣かしたと思われたくなかったのもあるけど、何故か綾が泣いているところを誰かに見られたくなかった。


他人に綾の涙を見せたくなかった。

綾を隠すように寄り添って、僕はじっと待った。


やがて、綾は少しずつ落ち着きを取り戻し、泣き声も収まりつつあった。ぽつりぽつりと合間に何かを言っているのが聞こえた。


「どうしたの?綾」


「ひっく…わたしね…」


綾はわたしね、わたしね、と言うばかりでその後が中々続かなかった。


「ちゃんと聞くからさ、そんな思い詰めなくていいよ」


なるべく優しい声で、僕は言った。

まるで、少しでも乱暴したら割れてしまうようなガラスを扱うように。


「…の……、…ったの…」


綾の声は周りの喧騒にかき消されて僕の耳に届かなかった。


「ごめん、もう一回言って」


綾は少し躊躇うように口を噤んだが、意を決したようにさっきより少し大きい声で言った。


「わたし、修のプリン盗ったの」


そして、綾は堪えられなくなったのか、スカートの端をぎゅっと掴んでまたボロボロと涙をこぼした。


愕然とした。綾が盗ったことにではなく、そんなことで泣いていることにだ。

綾が盗ったとは思わなかったけれど、大した問題じゃない。元々そこまで好きじゃないし、綾にあげるつもりだった。綾が喜ぶ顔が見たかった。


それなのに、僕は綾を追い詰めていた。

無自覚だからこそ、より残酷に。


「ごめんなさい…」


消え入りそうな声で呟く。


何度も。何度も。


何かに怯えるように。


たかが、給食のプリンである。そんなことで、僕が怒るはずないのに。何にそんなに怯えているのだろう。

綾を慰めたかったけど、気にすんなよとか、怒ってないよとか、そういう言葉をかけても意味がない気がした。

そんな上っ面の言葉じゃダメだと思った。


「えーと…」


僕は頭を掻きつつ、もう一方の手を所在なさげにウロウロさせた。

そして戸惑いつつも、そっと綾の頭の上に下ろした。何でそうしたかは、もう覚えていない。

綾は不安そうに僕を見た。その目にはまだ涙が溜まっていた。


「綾がちゃんと話してくれて良かった。だから、もう泣くなよ」


そう言って、髪をくしゃと軽く撫でた。綾は嫌がらずに、じっと僕を見つめた。涙に濡れた瞳が僕を映し出した。僕はなんだか心がむずかゆくなって視線を綾から少し横に逸した。


「この件はもう終わり!行こうぜ、綾」


ぽんぽんと軽く頭を叩いてニッと笑ってみる。ちょっとキザな感じがして、恥ずかしかった。

そんな僕を見て綾はうんと頷いた。一瞬俯いたがすぐに顔を上げ、残った涙を指ですくった。そしてぎこちないながらも笑い返した。


その後、僕たちは並んで歩いた。いつものように、とまではいかないけど、それなりに色々くだらないことも話したし、笑いあった。


あっという間にいつもの別れる所に着いてしまい、僕はいつものように綾にじゃあなと、手を振って帰ろうとした。


「ねえ、修?」


綾は僕を引き留め、不安そうにこちらを見てきた。


「どうした?もうプリンの件なら…」


「違うの。そうじゃなくて…」


綾は一旦躊躇うように口をつむぎ、やがて意を決したように僕を見た。


「私と一緒にいて嫌じゃない?」


「え?」


僕は意外すぎる質問に呆けたような返事しかできなかった。


「私、修には色々迷惑かけてるなーって。いつもいつも頼ってばっかだし」


乾いたように、はははと笑った。寂しそうに笑った。

土の湿った匂いがした。綾もこの匂いのせいで寂しく感じるのだろうか。


早く乾いてくれればいいのに。

匂いも寂しさも一緒に消してくれればいいのに。


綾はじっと待っていた。乾いた風が僕たちを通り過ぎていった。カサカサと木の葉が揺れる音がした。


「オレは綾を嫌いにならないよ」


きっぱりそう言った。何かを決意するように。


「まあ、面倒なこともあるけどな。そんなの、いちいち気にしてないよ。男だぜ、オレ。だから、綾と一緒にいて嫌になることなんてないよ」


冗談っぽく笑って、ビシッと親指を自分に向けた。

綾はびっくりしたような顔をした後、くすりと笑って、ありがと、と小さく呟いた。そしていつものようにまたねと手を振って、今度こそ僕たちは別れた。


僕は一人で歩きながら、心の中で言葉を繰り返した。


嫌いにならないよ。


あの時、なんでそんな風に言っただろう。答え方としては不自然だ。

綾は別に好きか嫌いかなんて聞いていなかった。


そもそも嫌いにならないってどういうことなんだろう。

自分で言ったくせに、その曖昧さに腹が立った。だが同時にその曖昧さに僕は助けられていた。

僕もなかなか、隠し事が下手なようだ。


初めから嫌いじゃないよ、と言えばよかった。


今度はいつになるのかな。

文才がなくてごめんなさい。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ