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昼休みの二人

大分間が空きました。


こんなスローペースですが、これからもよろしくお願いします。

肌寒い秋の風もゆっくり季節を巡って、冬独特の冷たい風に変わっていった。

黄色や赤に色づいていた木もすっかりその葉を落とし、残ったのは枝だけになってしまった。


4限目の授業(現代文)を寝ずに過ごし、というか授業中に毎日の課題(強制的)を解ききって、授業終了とともにすぐさま教室を飛び出した。


急がなきゃ!


渡り廊下を全力疾走し、屋上へと繋がる階段を一段とばしで駆け上がり、バンッと勢いよく、屋上の扉を開けた。


外の冷たい風が一気に僕を通り抜け、熱くなった身体を冷やしていった。

僕は肩で息をして、呼吸を整えた。

辺りを見渡し、あいつがいないことを確認した。


勝った…?


僕はもう一度辺りを見回して、あいつがいないことを確認した。


勝った…やっと勝った。


「いよっしゃー!」


僕は大きくガッツポーズをし、いつも座っている手すり近くに行こうとした時、


「ふふふ、はい、お疲れ様」


真上から声が聞こえた。

振り返って見上げると、奴は仁王立ちでククッと笑って僕を見下げた。


「綾!お前何やってんだよ」


さっきまでの高揚感は嘘のようになくなり、全力疾走の疲れと恥ずかしさだけが残った。

そのためか、恥ずかしさをごまかすために少し大きな声をだしてしまったが、綾は全く気にとめてないようだ。それどころか、抑えてたらしい笑いがふきだし爆笑し始めた。


「あははは。ただ待ってるの飽きちゃったから、ちょっと隠れてたの。修のリアクションばっちりだったよ!」


彼女はお腹を抱えて笑っていた。目に涙まで見せてる。

綾は屋上の扉の後ろにある丸い給水塔のところに立っていた。一応小さなスペースはあるが、満足に立つことはできない。足元がふらついて危なっかしかった。


「もう俺の負けだからいいよ。危ないから早く降りてこいよ」


僕はもう勝負のことはどうでもよく、綾が落ちないかの不安でいっぱいになった。


「はいはい、ちょっと待ってて。登るのは平気だったけど、降りるのは恐いよね。風も強いし落ちそうになっちゃう」


「お前が落ちても、オレは受け止めないぞ」


「あー、ひどい。私それで大怪我したらどうするのよ」


「大丈夫。救急車くらいは呼んでやるよ。ちゃんと事情説明しろよ、かくれんぼの途中、馬鹿みたいに高い所登って落ちましたって」


「救急車来たら絶対、修のせいにしてやるんだからね。あの、恐い人に落とされましたって。そしたら修、そのまま警察署行きだね」


「…冗談に聞こえないわ」


僕は大げさにため息をつき、やれやれと頭をふった。


「本当に平気か?危ないからマジで気をつけろよ」


「大丈夫。平気だよ、あとちょっとだし」


そういう綾はすごく危なっかしい。

口ばかりが動いて、手足がそれに合わせて動いていない。一歩ずつ慎重に足場を確認しながら、降りてくる。


足をとめて、綾は下を見下ろした。

不意に目が合った僕は少し恥ずかしくて、目をそらしたが


「てや!」


綾はそこから飛び降りた。

何の躊躇もなく。


「はあ!?」


僕は突然のことに混乱しながら、飛び降りてきた綾を正面からなんとか抱きかかえながら後ろ向きに倒れた。抱きかかえた綾の腰は細くて、一瞬ドキッとしたがそんな感情に浸る余裕はなかった。


「…お前なあ!」


綾をおろして、僕はちょっと本気で怒鳴ろうとした。


「あはは、気持ち良かった。一瞬だけ空を飛んでる気分になったよ」


「怪我したらどうするんだ!あんな高いところから飛び降りやがって」


「だからちゃんと修がいるところに向かって跳んだじゃん」


「もし、オレが受け止めなかったらどうするんだよ?」


「修がそんなことするわけないじゃん。何言ってるの?」


彼女はあっけらかんと言った。

当然でしょ、とでも言うように。


「……」


こいつは僕のことなめてるのか。


多分なめてるな。


いや、絶対なめてるな。


さっきまでの怒りはすっかり萎えてしまった。


「頼むからあんまり心配かけさせるな。見守るこっちがつらい」


代わりに綾の頭にポンッと手をおいて、静かに言った。

綾は最初きょとんとしてたが、


「うん、分かった。次はもうちょい気をつける」


少し反省したのかへへへと苦笑いして答えた。


「よし、じゃあ昼飯にしようぜ。早くしないと昼休み終わっちまう」


「うん。それでさ、修頑張って屋上に走って来たけど、結局私の勝ちよね?」


「あんなことしといて、よくそんなこと言えるな」


僕は呆れて言った。

本当にこいつ反省したのか?


「勝ちは勝ちでしょ。文句は聞かない」


「初めはオレ一人だったのに…」


最初は僕一人しかいなかったのだ。


僕が初めて屋上に行ったのは夏休みの終わり、学校が始まってすぐである。


それまで、昼休みの間は友達とサッカーやバスケに全力を注いでいたが、夏休みが終わると少しずつ人数が減っていき、勉強や睡眠してる奴がほとんどになった。

遊ぶ相手もいなくなって、僕はとてもつまらなかった。昼休みの間くらいいいだろ、って誘っても曖昧に返事されて流された。


そんな時、屋上の存在を知った。


「うちの学校にも屋上ってあるんだけどさ…」


「へえ、あったんだ。誰も使ってる話を聞いたことないけど、どこにあるんだ?」


僕はちょっと気になって聞いてみた。


「知らなくても仕方がないよな。今閉鎖してるからな。ただ屋上に行くのはやめとけ。あそこちょっとした怪談話があってな、昔いじめで自分から命を絶った生徒がいたんだよ。そいつ首にロープまいて、もう片方を屋上の手すりに結んで飛んだんだよ。それ以来、屋上閉鎖されちゃってな、今でもさまよってるらしいぜ、その亡くなった生徒の霊が」


「へえ、よく知ってるな。けどなんか胡散臭いな…そんなことどっから知ったんだ?」


「いろいろだよ。まあ、情報網が広いってことで」


友達はもったいぶって、教えてはくれなかった。

ちなみにその友達は片っ端から女の子に手を出すことで有名だった。

顔もそこそこのイケメンでトークも上手いからそれなりにモテる。

ただ、根っからの女たらしなので一度も1ヶ月以上同じ女の子と付き合ったことはない。

こいつの30分の恋の話は割と有名ではある。付き合ってから振られるまで最短30分だったという話だ。


まあそんなことはどうでもよくて、行くなと言われて素直に聞くやつなんてこの世に一握りしかいない。

僕は屋上へ行ってみることにした。


次の日の昼休み、僕は学校を歩き回り屋上への階段を見つけた。校舎の一番端のそれも3階部分からしか階段がつながっていないため、普段は全く目立っていない。

屋上への階段は昼でも少し薄暗く、雰囲気があった。

行くのを少しためらったが、結局興味が怖さを上回り、その階段を上った。


屋上の扉は所々錆びてた。

鍵がかかってるのかもと思ったのは階段を上りきった後で、無駄だと思いつつもせっかくなので、扉をおすと、


ガチャリ


あっけなく、扉は開いた。


意外に思いながらも外に出ると、風が強く僕を吹きつけた。


グラウンドにいるときより強い風だった。


何も遮るものがないのだ。


自由な風だった。


空が近く感じた。手を伸ばせば届きそうなくらい。


蒼の天井はどこまでも続いていた。


屋上から見る景色はいつも僕が住んで行る町をちっぽけに見せた。


きれいに区画整備された家。


まっすぐに進む道路。


この屋上より高い建物は近くに見あたらなかった。低く地面に貼り付くように建物が並んでいた。


いつも綾と別れる十字路が見える。この先を真っ直ぐ行った先に綾の家が見えた。もうずっと開かないタバコ屋も見えた。

ここから大抵のものは見えた。駅も、コンビニも、スーパーも。


ここから見える風景は僕の人生の縮図だった。こんなちっぽけなところを僕は18年も行き来して暮らしていた。ここから見えないところはもう僕が知らない世界だ。鳥かごの中の鳥のようだった。


その現実に愕然とした。僕は18年かけて、ここから見えるところしか知らなかった。そしてこのままここに居続けることだってあるのだ。


この先何十年も。

知らぬ間に朽ち果てていく。


我慢ならならなかった。一刻も早く外に出たかった。

まだ僕が見たことがないところへ。


今まで漠然と都会に出たいという思いはあったが、その思いはこの日を境に強くなった。


どうしても都会に出たかった。


そういうもんだ。

暑い時期になりましたね。今日は涼しいですけど…


これから海もにぎやかになるんだろうな~


京都とか広島に行きたいな~

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