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帰り道のこと

遅くなりました。


申し訳ないです。


あの二人をずっと放置していてさすがにかわいそうな気がして、急いで書きました。


最近、ヒロイン出てこねーなと思っていらっしゃる方すいません。


次話には出てくる予定です。(あくまで予定…)

何を話せばいいか分からず悶々と悩んでいたが、いざ話してみると米田はとても気さくで話しやすいやつだった。


「みんな目の色変わっちゃってさ、受験が近づきつつあるから仕方がないけど、あんな空気でよくもつよな。オレは堪えられねえよ」


気さくな米田に少し心を許し、僕はとりとめもない愚痴をこぼしていた。


一年前は授業なんかほとんど睡眠学習で過ごし(まあ、僕の周りの奴らに関してだが)、体育の授業と昼休みにその日の体力を使いきっていた。

自習の時間は友達と勝手に外でサッカーしに行ったりして、教頭によく怒られてた。その後担任にも呼び出しされ、膨大な宿題をくらったけど。


それが今では、模試だの、面談だの、受験だのに追われる日々になってしまった。割と仲の良かった友達もあんなに勉強嫌いだったのに、今では昼間の休み時間ですら勉強している。

本当はそれが受験というものであり、受験生である僕にとってはそういう姿であるべきなのだが、どうしようもなくつまらなかった。


本当につまらなかった。


米田は僕の愚痴にうんうんと、相槌を打ちつつ答えた。


「まあ、スポーツや芸術と違って学力はやったら、やった分だけ伸びるもんだからな。うちの学校には受験をこれからの人生を決める重要なものとして、考えるやつも多そうだしね。まあ、それでも休憩時間も勉強はまいっちゃうよな」


言い方は優しかった。

けど、言葉の端端に少しチクって刺さるものがあった。自分の主張っていうか、曲げらんない信念みたいなものが垣間見える。


刺さった針は中々に痛かった。


「まあ、オレみたいな人間がおかしいだけかな」


冗談っぽく笑いながら言った。半分は冗談、半分は本気。

彼は何かを言おうとしたが僕はそれを遮り、矢継ぎ早に先ほどから気になっていたことを訊ねた。


「そういえば、お前はなんでこんな時間までいたんだよ?」


僕は課題があったから、あの時間まで学校にいたが、米田は部活をもう引退したはずであの時間まで学校にいる理由はない。


「ああ、ちょっと部活に顔だしたんだ。後輩達真面目に練習してるかなって。たるんでたら、ちょっと絞ってやろうと思ったけど、大丈夫そうで安心したよ」


少し不思議そうな顔をしたが、すぐに先ほどと同様に冗談っぽく笑って答えた。


そういえば、こいつこの前までテニス部部長だった。

さすが、部長だけあって後輩の面倒もしっかりするんだな。

もしくは、引退が名残惜しいのかな。


「その後、ちょっと進路のことについて調べものしててな、調べ終わって帰ろうとしていた時に、一つだけ教室の電気ついてたから、入ったら神村がいたんだよ」


「ああ、そういうことか。それで進路って、お前どこ行くつもりなの?」


実は米田が東大を受験するだろうということは学校中で噂されている。僕の学校は中途半端に進学校なだけに、大学の進学先のネームバリューを気にする。


ここ数年で一番の成績を誇っている米田は先生達からの期待は絶大なものだった。


「結構迷ったんだけどな。オレ、海外に行くんだ」


彼がそう言った瞬間、心がスーッと冷えていくのが分かった。体が自分のものでないように感じる。彼の優しい声もひどく無機質なものになった。


ダメだ。絶対にダメだ。


心の中で叫んだ。

別に他人がどこの大学受けようと僕には関係ない。まして米田の進路に口出しする権利は僕には無い。


だが、綾はどうする?綾は来年から遠距離恋愛になってしまう。今でも会う機会は少ないのに、これ以上少なくなることに綾は堪えられるのか。


「どうしたんだよ?変な顔して」


「え、ああ…何でもないよ」


「やっぱり驚いたか?海外なんて行こうと無茶する奴いないもんなー」


米田は照れたように笑った。けど、その目は何かを追い求めるようなギラギラとした野心が宿っていた。


本当は今思っていることを言葉にしたかった。

綾のことはどうするんだと問い詰めたかった。だけど、僕は綾の彼でもないし、保護者でもない。僕は米田に綾とのことについて、何かを言う資格は何もなかった。


米田と対照的に僕はふてくされた子供のように急に黙り込んだ。


「神村はどこ行くつもりなの?」


「え?」


「どこの大学受けるの?」


「えっと…」


笑顔を残しつつ、米田は訊いてきた。親しみを込めたような笑顔だった。


言葉に詰まった。

志望校をまだ決めてないわけじゃない。

一応決まっている。ただ、米田にその大学名を言うことはできなかった。


「正直まだ決めてないんだよな。そろそろ、本格的に志望校絞んなきゃいけないんだけど、なかなか難しくてさ」


「そうか。確かに志望校決めんのは苦労するよな。オレもすごく悩んだもん。まあ、ゆっくり考えて決めるのはもう難しいけど、しっかり考えて決めなさい」


米田はわざとちょっと教師っぽい言い方で言い、僕の肩をぽんぽんと叩いた。真面目なことをおどけた調子で言うところが、彼の人気の理由の一つだ。


「じゃ、ここら辺でお別れかな。また明日。じゃあな」


郵便局を少し越えた十字路に差し掛かったところで、米田はニカッて笑顔を見せて、手をふった。

そう言えば、僕は米田の家がどこか知らない。米田も僕の家に来たことないので知らないはずだ。なのになんでここで別れるって知ってるんだろう。


「おう、また明日」


少し気になったが、それを訊く気にはなれず、僕は手を小さくあげ彼に応えた。彼のように笑うことはできなかった。


米田と別れたあと、家路を歩きながら先ほどの言葉を思い返した。


「どこの大学受けるの?」


米田にとってそれは話題作りのためかもしれないし、深い意味なんてないだろう。それこそ、今日の晩御飯なに?ってレベルの問いかもしれない。

だから僕が何て言おうと、多分彼は気にしないと思う。


ただ、僕は彼に本当のことは伝えられなかった。

本当のことを言ったら、何かが壊れるような気がした。自分が大事にしてきた何かが崩れていくような気がした。


その何かっていうのは何なのかって聞かれると答えられないし、そんなものはただの幻想に過ぎないと分かってはいるが、僕はその何かを守るのに固執してた。




3年生に進級したばかりの頃だ。

その日は例年より寒く、やっと訪れた春から冬に逆戻りしたようだった。

僕は面談が終わった後、偶然会った綾と一緒に帰っていた。


僕の学校では毎年その時期に進路についての簡単な面談がある。一応進学校らしく、大体のやつは大学に進学するので、進路面談といっても志望校に向けて、何の教科を重点的に勉強すれば良いのか、今の成績でどのレベルの大学に進学できるのか等、いわゆる学習面談みたいなものだ。


「修、今日の面談どうだった?」


「別に、普通だった」


「普通って?進路とかの話はしなかったの?」


「まだ行きたいとことかなんも決まっていないからな」


「修、何か将来やりたいこととか、なりたいものってないの?」


綾は大きくため息をつき、やれやれと頭に手を置いた。

ちなみに、今日の綾は学校指定のコートを羽織ってる。学校指定のコートはブランド物のように軽くて薄いわけではないため、小柄な綾が着るとブカブカでコートに羽織られてるように見える。


「別にいいだろ、まだ決まんねえよ」


僕は仕草にムッとしてふてくされたように答えた。


将来の夢とか考えたこともなかった。

中学校は選択なんてなかったし、高校のときは学校の先生の言われるがままに志望校を決め、進学した。

高3に上がる直前の文理選択も英語が嫌いという理由で理系に決めた。結局英語は文理に関係なく必要だと知ったのはもう少し後になってからだ。

ただ僕は都会に出れればよかった。


今回の面談で先生にそんなことを伝えた所、


「そろそろ、本腰をいれて考えた方がいいねえ」


面談というより、ボヤキに近かったと思う。

当然だ。志望校が決まらなければ、相談も何もない。

一応、今の成績で行けそうな大学をいくつかリストアップされたが、家帰ってから考えてみますとテンプレのように答え、その場を乗り切った。


面談が終わって帰る支度をしてる途中に担任は資料を片付けながら、呆れたように言った。


「ヘラヘラせずに受験生の自覚を持ったほうがいいぞ」


大きなお世話だ。そもそも受験生の自覚ってなんだ。志望校を考えていなかったら、受験生として失格なのか。担任は恐らく心配して言ってくれているのだろうが、僕にはただの嫌味にしか聞こえなかった。


そう思いつつも、口では頑張りますとヘラヘラ笑って答え、僕は面談室を出た。去り際に担任が大きくため息をついているのが目に入った。


「せっかく成績いいのにもったいないなあ」


綾は大きく前に蹴り上げながら歩いていた。小柄であるのと相まってさながら拗ねた子供の様だ。


「成績とそれは関係ないだろ」


僕は苦し紛れに言った。


物事をコツコツ行うことは得意だった。小さい頃から、修くんは勉強ができて偉いねえ、うちの子も修くんみたいに賢かったらねえ、なんて言われていたが、それは裏を返せば必死に何かをすることができないことの表れだった。

周りに置いていかれない様に先にコツコツ進めておく。それを積み重ねるうちに、授業は寝てばかりいたが、一応所謂勉強ができるやつの部類に入ることはできた。

ただ、ほかの勉強ができる奴と違って、なんも目標がなかった。だから、何に向かってとかそういうのからは避けていた。


「あまり現実から背けていると、手遅れになるよ」


綾は時々真実に近い事を言う。それは気取って言ってるようには見えず、今の僕を的確に表しているだけに、なんの反抗もできなかった。

僕は黙ってしまったが、綾もそう言った後、なぜか黙ってしまった。僕達は黙々と、ひたすら歩き続けた。


沈黙が二人を包む。風が通り過ぎる音が嫌に耳に入った。遠くからカンカンと踏切がしまる音が聞こえる。向こうから走ってくる子供達の甲高い声が聞こえる。明日お前んちでゲームしようぜ、お前コントローラー持ってこいよ、学校終わってすぐに集合な、すれ違いざまに聞こえたのはそんな会話だった。


沈黙が段々僕を寂しくさせた。夕暮れ時が相まって、その寂しさが僕の中で積もっていった。どこか知らないところに独り置いてかれたような感じだ。


「綾は志望校とかあるの?」


寂しさに耐えられなくなり、僕は沈黙を破った。綾がどこかを目指していることは明白だったが、他に思いつかなかった。

綾は真っ直ぐ前を見つめた瞳を僕の方に向けた。覗き込むように見つめた瞳は闇のように黒く、引き込まれるような感覚に陥った。


「私、学校の先生になりたいの」


綾は静かに答えた。そこにはいつもの綾の明るさはなく、大人びて見えた。


「学校の先生?」


「そう、小学校の先生。小林先生の事覚えている?」


「ああ、あの先生か」


小林先生は小学5年の時の僕と綾の担任の先生だ。国語の先生でほんわかしていて、少し頼りなかったけど、生徒に対して優しく接してくれた。


「私、小林先生のこと大好きだった。小林先生みたいな先生になりたいの」


少し意外だった。小林先生は生徒に優しかっただけに、叱ることができなかった。授業中にうるさくしてたり、先生に対して生意気なことを言っても、困ったように笑っているだけだった。

そんな小林先生は綾とお世辞にも似てるとは言えなかった。


「綾が先生か-」


「おかしいでしょ?あんなに先生に迷惑ばかりかけていたのに」


綾は冗談っぽく笑った。


「いや、全然おかしくねえよ」


「嘘。あってないと思ってるでしょ?」


「んなわけねえだろ。てか、合う合わないの問題じゃないだろ」


無意識に少し強い口調になっていた。その強さに若干自分でも驚いた。

僕は理由を探した。


焦り?


苛立ち?


何に対して?


考えても答えは出なかった。けれど僕の中にそういう類の何かがあった。


「ごめん」


綾は少し驚いた顔をした後、バツが悪そうに笑って謝った。


「修の言うとおり、合う合わないの問題じゃないよね。変な質問してごめんね」


綾に謝られて、僕は情けなくなった。別に綾は何も悪いこと言ってない。僕が自分勝手に苛立っていただけだ。


「いや、オレが悪いわ。なんか綾に八つ当たりしてた」


バツが悪く綾の方を見ず謝った。そのことに僕は更に情けなくなった。

謝ることすらまともにできないのか。


「ううん。修の言ったこと、間違いじゃないと思う。」


綾は静かに首を横に振った。


「合わなくったって関係ない。一回なるって決めたんだから。それがどんなにくだらない理由だったとしてもね。」


そのまま綾は続けた。


「本当は怖いんだ。目指している道は合っているのか、道の途中で諦めなきゃいけなくなるんじゃないか、もっと自分に合った道があるんじゃないかって。」


綾は少し照れくさそうにして、そっぽを向いた。


僕はたった十数年しか生きてきていないけど、多少な理不尽は知っている。

機嫌が悪いからってやつ当たりされたり、授業中一緒に騒いでいて何故か僕だけが怒られたり、くだらないことばかりだったけどそれなりに理不尽な事を味わってきた。

テレビを観るともっと大変な理不尽を味わっている人もいる。詐欺で数千万騙し盗られたり、飲酒運転による事故で家族を失ったり、数え上げるとキリがない。


今後そういった理不尽を味わうこともあるのだ。そのせいで自分の夢を諦めなきゃいけないことも。そしたらそれまで歩いてきた道が無駄になってしまう。


多分理不尽だけじゃない。ほかにもっと色々な理由で夢を諦めなきゃいけないこともある。それがなんなのかはまだわからないけれど。


努力が全て報われると信じれるほど、もう子供ではなかった。

だけど、それを知ってて平気でいられるほど、僕達はまだ大人でもなかった。


子供じゃないけど、大人でもない。

中途半端な存在だ。


綾は怯えながらもずっと先を見据えていた。自分の将来にしっかり立ち向かっていた。


僕はそれを面倒くさがった。そういうものを避けていた。

だが、もうそんなことは言えなくなりつつある。

現実は少しずつ近づいていた。


「ねえ、修?」


綾はちょっと前に走り出て、くるりと振り返って僕の前に立った。

夕日が彼女の踊る髪を眩く照らした。彼女の影がアスファルトを切り裂き、真っ直ぐ僕の方に伸びてくる。


「なんだ?」


「修、都会に出たいんでしょ?なら、一緒の大学目指さない?」


綾のその一言で僕の志望校は決まった。

正直くだらないと思っている。舐めていると言われてもおかしくはなかった。

ただ、あの時の綾が冗談じゃなくて本気で言ったのだとしたら、僕は彼女の本気に応えないといけないと思った。

大学情報を調べると、それなりに人気なようでレベルも高かった。軽い気持ちで目指そうとできる大学ではない。


動機は単純だったけど、僕は真剣に立ち向かおうとした。将来を見据えようとした。


だけどそんな中、綾に彼氏ができた。

僕の中で何かがすっぽり抜け、志望校とかどうでもよくなった。だけど今更志望校を変える気もおきず、だらだらと惰性でここまできてしまった。


正直、高をくくっていた。受験が終われば、綾は僕じゃなくて、米田を頼るようになると。綾とのくだらないやり取りも思い出に風化されていくだろうと。

僕と綾の関係も受験が終わるまでと思っていた。


覚悟したんだ。


同じ大学だとしても、今のような関係にはならないと。


ただの元クラスメートとして接しようと。


けど、米田が海外に行くと聞いて、僕の覚悟は揺れた。少し押したら崩れてしまうほどに弱くなってしまっていた。


米田という存在は僕にとってあまりに大きかった。

将来に対して何も怯えてないように見えた。それどころか余裕さえあった。


僕が勝てるところなど何一つなさそうだった。


家に着くまで、いつもより時間がかからなかった。

綾と歩く速さがどれだけゆっくりだったかを実感した。


課題が多いです。


最近自分のしたいことが何もできず、いらいらだけがたまっています(笑)。


ただ、電車の中で、小説を読むときは落ち着きます。


心がほっこりする感じ。


だから、僕は小説が好きです。


これからも書き続けるのでよろしくお願いします。

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