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ただの幼なじみ

これは不定期連載にしようと思うので、気づいた時にみてもらえるとうれしいです。



「最近さー、忙しくてなかなか会えないんだよね」


帰り道の途中、彼女は深いため息をついた。


「もうすぐ受験だし、お互いに足を引っ張らないように、会う機会減らしているんだけどね。やっぱり、不安になるのよね…私達ちゃんとつき合えてるのかなって」


吐く息は白く、風の冷たさがコート越しからも伝わる。昼間は日差しもあってか、冬にしては暖かかったが、夕方になると気温はぐっと下がった。

僕はコートのポッケに突っ込んでいた手を外にだし、マフラーを少し上にあげ直した。


「向こうもきっと同じこと考えてるよ。待つことも一つの恋愛だと思えばいいじゃん。受験が終われば、いつでも会えるんだしさ」


最近の僕はいつも彼女の相談役だ。相談役とは言ってもただ彼女の愚痴をひたすら聞いて、なだめるだけなのだが。


「修は平気?もし自分が好きな女の子とつき合ってるのに、メールは来ないし、あまり会えないしっていう状況だったら我慢できる?」


横目でじーっと僕を見て口を尖らせる。やってることは子供だなと思いつつも、それを口にすると面倒なので、黙っておく。


「付き合ってるからこそ、助けてあげたいって気持ちもあるの」


彼女は僕が言うことにあまり納得できないようだ。まあ、僕の意見に最初から納得したことなんてほとんどないけど。

たしかに彼女が言うことは理解できる。多分、僕だって好きな子とつき合えたら、毎日会いたいし、メールだってしたい。

受験があろうが、お互い励ましあって、二人で合格できるように必死に頑張るだろう。

けど、僕の口から出てくる言葉は、全く別の物だった。


「我慢するさ。もし、オレが好きな人にメールとかしたせいで、むこうが受験に失敗でもしたら、絶対後悔するからな。てか、綾も彼とそういう結論になったから、メールしてないんだろ?」


何故か、言い訳でもするかのように早口に言ってしまった。


「…そうだけどさ」


彼女はばつが悪そうに目をそらした。口は尖らせたままだが。


「じゃあちょっと彼氏と距離を感じるくらいで、そんなくよくよすんなよ。お前のキャラじゃないだろ」


「んー…」


キャラじゃないと言われたことを気にしたせいか、彼女は納得したような、してないようなよく分からない返事をした。


「まあ、彼氏だってお前と同じくらい悩んで決めたことなんだから、そこを尊重してやんないとかわいそうだぞ」


ちょっと強引に話を切り上げて、僕は立ち止まった。


「じゃあ、オレこっちだから。またな」


僕の家はここから右に曲がって少し行ったところにある。

この辺は同じような家が並んでいて、同じような十字路が多い。初めてここに来た人は迷子になってもおかしくはないだろう。

だけど、18年もこの地域に住んでる人にとっては、どこの十字路を曲がればいいかくらい、嫌でも覚える。ここの十字路で立ち止まったのも無意識だ。

この先を少し行くと、もうずっと閉まっているタバコ屋がある。小さい頃に父親のお使いで何度か行ったことがあるが、数年前にお店のおばあちゃんが亡くなってから、お店が開いた所を見たことがない。


それだけ長くここで暮らしてきた。飽きるくらいに。


ちなみに、彼女の家はこのまま真っ直ぐ進んだ先にある、クリーニング屋の隣だ。うちから7、8分で着く。


「あ、うん。話聞いてくれてありがと」


彼女は曖昧な表情で手をふった。

僕はその表情に気づかないふりをした。


彼女なりの葛藤があるのだろう。

僕は彼女の悩みを聞くことは多いが、深く干渉しようとは思わない。

結局、決めるのは彼女自身だ。僕がどうこうできる権利は全くない。

手を振り、彼女が自分の家の方へ向かうのを見届けたあと、自分の家に向かった。


「もし自分が好きな女の子とつき合ってるのに、メールは来ないし、あまり会えないしっていう状況だったら我慢できる?」


一人になった後、彼女の言葉を繰り返した。


彼女はこれがただのわがままでしかないことを分かっていた。

そして、これを僕に言ったところでどうしようもないことも分かっていた。


最近の彼女は珍しいことにすっかり気弱になっている。これも恋の病というやつだろうか。

僕は彼女の相談役となってはいるが、実際彼女のことをあまり理解していないのかもしれない。


まず僕は好きな女の子と付き合ったことがない。そもそもお互い相思相愛で付き合っている人ってほとんどいないんじゃないか。一方向の恋に付き合っているか、恋をしている自分に酔っているだけか、人それぞれだと思うけど、相手を知れば知るほどに嫌なところに目がいってしまう。


中学の時に一度付き合った子がいた。別に好きとかそういう感情はなかった。ただなんとなく「恋愛」をするということに憧れを抱いていたのだと思う。相手もきっと同じ気持ちだったのだろう。

ずっと好きでした、なんて言われたけど結局はずっと好きと言える自分に酔っていたのだと思う。

たまたま僕がその言葉に釣り合いそうな男だったから、告白したんだろう。

僕は断る理由もなかったし、あっさり承諾した。


そして、あっさりふられた。

他に好きな子ができたと言われた。


泣きながら、何度もごめんなさいと謝られたけど、正直なんの感情もわかなかった。

嫉妬すら起きないほど、なんとも思っていなかった。


付き合うっていうことと、好きっていう感情を両立するのってすごく難しい。

だけど、彼女はそれを両立することをあたり前だと思っている。


好きだから付き合う。言うのは簡単だけど、実際はとっても難しい。

彼女はそれを簡単と思えるほどに純粋だった。

そしてそれを実現できるほどに綺麗だった。


僕は簡単と思えるほど純粋ではなかった。

前書きでも書いたように、これは不定期連載です。


そのうち、第二話も投稿するので、長くお付き合いしてもらえたらと思います。




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