30
シャワーを浴びてすぐに二階へ上がろうとしたら、母さんに呼ばれた。
「まさかこんな腐れ縁だったとはね」
「何の話?」
「知らない方がいいと思って黙っていたんだけど、やっぱり言わないとダメね。こんなこと許されないもの」
「意味わかんないんだけど」
「悠ちゃんも知る権利があるのよね」
「だから何を?」
「妹がいるの。正確には同い年だから妹にはならないのかしらね。誕生月で言えば、悠ちゃんがお兄さんになるわ」
「初耳だな。母さんがもう一人産んでたってこと? なんで隠してたんだよ」
「違うのよ。あなたのお父さんが浮気してできた子。私はもう子どもが産めないの、知ってるでしょ?」
そうだった。俺を出産する時、難産でひどい目に遭ったという話を思い出した。その時に受けた子宮にダメージで第二子は諦めるように医師に言われたらしい。
「当時、あの人には他に付き合っていた女がいたの。浮気相手との間に生まれたのがその妹よ」
「なんで今更そんな話を聞かされなきゃいけないんだよ。妹がいようがいまいがどうでもいいんだけど。そもそもあんな奴、父親だって認めてないし」
「お母さんだってこんな話をする日が来るなんて思いもよらなかった。ずっと忘れていたかった事実だもの」
「じゃあ思い出さなきゃいいんじゃないの? 俺は聞かなかったことにするから」
「だめなの。それじゃだめなのよ!」
母さんは急に興奮した様子で大声をあげた。
「あの子だけはだめなの」
「あの子?」
「美衣さんだけはやめて」
「それってもしかして……」
俺の頭に最悪のシナリオが浮かんだ。
「悠ちゃんの妹なの」
ハンマーで頭を殴られたような感覚に襲われた。美衣が俺の妹だって? そんなこと信じられるわけがない。いくら美衣のことが気に入らないからって、そんなデタラメがよく言えたものだ。
「そんなに気に入らない? 美衣と付き合ってんのがそんなに嫌なのかよ」
「違うのよ、そうじゃないの」
「妹って何だよ。バカにすんなよ。そんな嘘に騙されて怯むとでも思ったか?」
「嘘じゃないわ」
俺はとにかくこの場から立ち去りたかった。このデタラメばかり言う母親の前から消え去りたかった。こんな戯言、聞きたくない。美衣と付き合うのが気に入らないなら、真正面からそう言えばいいんだ。そんなに一人になるのが怖いなら、正直にそう言えばいいんだ。