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無能でいろと言ったのはあなたでしょう? 〜「偽聖女」と追放された私ですが、隣国で女神として幸せをつかみます!〜  作者: 甘い肉うどん
第一章 隣国で女神として幸せをつかみます!

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幕間 女神と迷子犬の冒険譚

落ち着いた日常の一部を切り取った番外編です。

ラグナート王宮に身を寄せてから数日。侍女としての仕事にも慣れてきたリリアは、中庭の掃除中に一匹の「迷子犬」に遭遇した。


それは、植え込みの奥で震えていた、泥だらけの小さな子犬だった。

「あら……どうしたの? ひとりぼっちなの?」

 リリアがそっと手を差し伸べると、子犬はクンクンと鼻を鳴らし、彼女の指先をぺろりと舐めた。首元には、王宮の紋章が刻まれた贅沢な首輪。どうやら高貴な方の飼い犬が、広大な敷地内で迷子になってしまったらしい。


「大変、早くおうちに返してあげないと……」


リリアは子犬を抱き上げ、王宮の「迷い犬冒険譚」へと足を踏み出した。



「あの、失礼します。この子に見覚えはありませんか?」

 リリアはすれ違う騎士やメイドに声をかける。しかし、折悪く王宮は夜会の準備で大忙し。

「今は忙しいんだ、あっちへ行け!」

「新入りの侍女が遊んでいる暇などないだろう!」


冷たい言葉を投げかけられ、リリアは思わず俯く。前の国での記憶が蘇り、胸がチクリと痛んだ。

(やっぱり、私なんかが首を突っ込まない方がよかったのかな……)


だが、腕の中の子犬が「キャン!」と元気づけるように鳴いた。その無垢な瞳を見て、リリアは小さく首を振る。

「そうね。あなたが心細いのは、私が一番よく知っているもの。頑張りましょう」


リリアは持ち前の聖力を無意識に使い、子犬の「不安」を和らげながら歩き続けた。すると、彼女の体から漏れ出す淡い光が、まるで道標のように子犬の飼い主の残り香を強調させていく。



一方、そんなリリアの様子を、執務室の窓からじっと見守る蒼い瞳があった。

「……何をしているんだ、あの子は。掃除もせずに子犬を連れ回して」

 アルフレッドが呆れたように呟く。隣に控える副官ガウェインが、ニヤニヤしながら答えた。

「どうやら迷子犬の飼い主を探しているようですよ。殿下が手を貸してあげれば、一瞬で終わるでしょうに」

「……余計な世話だ。私は忙しい」


そう言いながらも、アルフレッドの足はすでに扉へと向かっていた。



リリアがたどり着いたのは、西の離れにある老女官長の部屋の前だった。

「あの……もしや、この子のお心当たりは……」

「おぉ、マロン! 探したよ、どこへ行っていたんだい!」

 老女官長は涙を流して子犬を受け取った。彼女は王宮の重鎮でありながら、最愛のパートナーである子犬を失い、絶望していたのだ。


「ありがとうございます、優しい侍女さん。あなたの聖らかな魔力が、この子を導いてくれたのね……」

 女官長の感謝の言葉に、リリアは顔を赤らめて首を振った。

「いえ、私はただ……無事に帰ってほしくて」


「――感心だな。迷子犬の面倒まで見るとは」

 背後から響いた低い声に、リリアは飛び上がった。

「ア、アルフレッド様! 申し訳ありません、仕事を抜け出して……!」


アルフレッドはリリアの前に立つと、彼女の髪についた小さな木の葉を、指先で優しく取り除いた。

「……謝る必要はない。女官長を救ったのは、立派な功績だ。それに、子犬のために王宮中を駆け回る君の姿は……見ていて飽きなかった」

「えっ、見ていらしたんですか……?」

「……さあな。行くぞ、リリア。歩き疲れただろう。冷たい茶でも用意させる」


アルフレッドはリリアの背中にそっと手を添え、彼女をエスコートするように歩き出した。

 リリアの小さな勇気と優しさが、また一つ、王宮の中に彼女の味方を作った――そんな、嵐の前の穏やかな休日の一幕だった。

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