第六話 没落へのカウントダウン
元の王国と隣国を同時進行で進めていきますね。
アルフレッド様の呪いを「つい」解いてしまったあの日から、私の日常はさらに熱を帯びたものに変わった。
侍女として働いているはずなのに、なぜか私のデスクはアルフレッド様のすぐ隣に移動され、休憩時間には彼自らがお茶を淹れてくれるようになったのだ。
「リリア、今日はこの焼き菓子を食べてみてくれ。街で評判の店から取り寄せたんだ」
「あ、ありがとうございます……でも、アルフレッド様。私ばかり頂いては申し訳ありません」
「いいんだ。君が美味しそうに食べる姿を見ると、こちらの疲れも取れるからね」
そう言って、彼は私の口元にクッキーを運んでくる。
「……っ! あ、あーん……」
恥ずかしさで顔が爆発しそうになりながらも受け取ると、彼は満足そうに目を細めて私の頭を撫でる。前の王国では「汚らわしい」とさえ言われていた私の髪を、彼は「銀糸のように美しい」と愛おしそうに梳いてくれるのだ。
「リリア。君が来てから、この国の政務は驚くほど円滑になった。君は我が国の宝だよ」
「そんな、私はただの事務員で……」
「謙遜しすぎだ。……ずっと、私の側にいてくれないか?」
真剣な眼差しで見つめられ、私は返事の代わりに真っ赤になって俯くことしかできなかった。
◇
一方その頃。リリアーヌが去った元の王国は、地獄の様相を呈していた。
「おい! なぜ結界が維持できないんだ!」
エドワード王子の怒声が、荒れ果てた執務室に響く。
王宮を包んでいた魔導結界は、リリアーヌが去った三日後から急激に弱まり、今ではあちこちに穴が開いていた。そこから入り込んだ魔虫や瘴気が、王宮の庭園を枯らし始めている。
「殿下ぁ、だって、この杖が重くて……それに、呪文が長すぎて覚えられないんですものぉ」
ミスティが豪華なソファに寝そべり、リリアーヌから奪った聖女の杖を放り投げている。
「魔力測定では私が上だったはずなのに、どうしてかしらぁ?」
当然だ。魔力測定の数値など、リリアーヌがエドワードに命じられて「偽装」していたものに過ぎない。実際はリリアーヌが一人で全魔力を注ぎ込み、結界を編み上げていたのだ。
「書類はどうした! 騎士団の予算が通っていないせいで、団員たちがストライキを起こし始めているぞ!」
「あんなの、適当に判を押しておけばいいじゃないですかぁ。私、忙しいんです。今夜のパーティーの準備で」
足元には、リリアーヌが残していった「三ヶ月分の予算案」が散乱していた。だが、あまりに高度な計算と魔法術式で書かれたその書類を、エドワードもミスティも解読することができなかったのだ。
結果、王宮の機能は停止した。
廊下にはゴミが溜まり、食事の質は落ち、怪我をした騎士たちは「無能な王子には付き合えない」と次々に除隊届を叩きつけて去っていく。
「……あいつだ。リリアーヌの奴が、何か呪いをかけていったに違いない!」
エドワードは自らの無能を棚に上げ、机を叩いた。
「おい、今すぐ調査隊を出せ! あの偽聖女を捕まえて、この惨状をどうにかさせろ!」
隣国で愛され、美しく咲き誇り始めているリリアーヌのことなど知る由もなく、没落へのカウントダウンは着実に刻まれていた。
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