表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無能でいろと言ったのはあなたでしょう? 〜「偽聖女」と追放された私ですが、隣国で女神として幸せをつかみます!〜  作者: 甘い肉うどん
第一章 隣国で女神として幸せをつかみます!

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/13

第五話 温もりにつつまれ

ざまあ系ですが分類は恋愛です。

アルフレッド様の執務室で働き始めて一週間。

 私の生活は劇的に変わった。夜はふかふかのベッドで眠り、朝は美味しい食事をいただく。そして何より、仕事の結果を「ありがとう」の一言で評価してもらえる。

 それだけで、私は自分が「偽聖女」と貶されていたこと忘れそうになっていた。


「リリア、悪いが騎士団の練兵場までこの書類を届けてきてくれ。団長のガウェインに渡せばいい」

「承知いたしました、アルフレッド様」


私は預かった書類を抱え、城の裏手にある練兵場へと向かった。

 そこでは、ラグナート王国が誇る屈強な騎士たちが、激しい訓練に励んでいた。


「はぁっ、はぁっ……クソ、またか」


一人の若い騎士が、模擬戦の最中に足を滑らせ、派手に転倒した。見れば、足首が妙な方向に曲がっている。

「おい、大丈夫か! 医務室へ運べ!」

 周囲が騒然とする中、私の体は反射的に動いていた。かつて、夜な夜な怪我をした騎士たちを救っていた、あの時と同じように。


「失礼します、見せてください」

「えっ、君は……?」


戸惑う騎士の前に膝をつき、私はそっとその足首に手を触れた。

(……ひどい捻挫。でも、骨まではいっていないわね)

 前の王国なら、ここでエドワード殿下に「無能は黙っていろ!」と怒鳴られていたはずだ。けれど今は、目の前で苦しんでいる人を放っておけなかった。


(少しだけ……痛みを引かせるくらいなら、平民の知恵で通せるかしら)


私は指先に、ほんのわずかな――私にとっては「微風」程度の聖力を込めた。

 瞬間、私の手のひらから柔らかな淡い光が溢れ、騎士の足を包み込む。


「……あ、あれ? 痛みが消えた?」

 騎士が呆然と声を漏らす。腫れはみるみるうちに引き、数秒後には元通りになっていた。

「すごい! 君、治癒術師なのか!?」


「いえ、そんな……! ちょっとした気休めの呪文ですわ。痛みが引いただけで、まだ安静にしてくださいね」

 私は慌てて立ち上がり、目的のガウェイン団長に書類を押し付けるように渡すと、逃げるようにその場を去った。



執務室に戻ると、アルフレッド様が険しい顔で自分の左腕を押さえていた。

「……おかえり、リリア。すまないが、少し休憩にする。古傷が疼いてな」


見れば、彼の袖口から、かつての戦いで負ったという古い傷跡が覗いていた。魔物の呪いを含んだ傷なのか、周囲の肌が赤黒く変色している。

「アルフレッド様、そのお怪我……」

「ああ、数年前の遠征で受けたものだ。国内の治癒師たちに診せたが、呪いが根深くて完治はしないと言われている。気にするな」


彼は無理に微笑もうとしたが、その額には痛みに耐える汗が浮かんでいる。

 ――完治しない? 嘘だわ。

 今の私なら、この呪いの核がどこにあるか一目でわかる。


「……失礼いたします」

 私は迷わず、彼の腕を両手で包み込んだ。

「リリア? 何を……」


私は今度は、加減をしなかった。

 この優しい人を苦しめる呪いなど、一刻も早く消し去りたかった。

 目を閉じ、体内の聖力を練り上げる。


(消えなさい、穢れた呪い!)


執務室全体が、真昼のような眩い白い光に包まれた。

 アルフレッド様が息を呑む音が聞こえる。

 私の手から伝わる温かな力が、彼の腕にあるドロドロとした闇を焼き払い、清らかな生命力で満たしていく。


光が収まった時、そこには――。

 醜く変色していた皮膚はなく、傷跡一つない、滑らかな肌があった。


「……呪いが、完全に消えている……?」

 アルフレッド様は信じられないものを見る目で、自分の腕と私を交互に見た。

「リリア……君は、一体……」


私はハッとして手を離し、真っ赤になって俯いた。

「……すみません、つい。これも……前の職場で教わった、おまじないのようなものでして」


「おまじないで呪聖女が匙を投げた呪いが解けるわけがないだろう!」

 アルフレッド様が椅子を鳴らして立ち上がり、私の肩を掴んだ。

 その蒼い瞳には、驚愕と、それ以上の熱い感情が宿っている。


「君は『無能』などではない。それどころか……」

 彼は言いかけて、言葉を飲み込んだ。そして、愛おしそうに私を抱き寄せた。


初めて感じた、男性の大きな体の温もり。

 私の心臓は、書類整理の時よりもずっと激しく、鐘のように鳴り響いていた。

よければ評価、ブックマークをお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ