第四話 欲しかったもの
少し下手な展開ですがお許しください。
食事が終わる頃を見計らったかのように、アルフレッド様が再び部屋を訪れた。
私は急いでベッドの上で姿勢を正し、深く頭を下げる。
「……アルフレッド様。温かなお食事と休息の場所をいただき、心より感謝申し上げます」
「気にするな。それで、体調はどうだ?」
「はい、おかげさまで。……あの、先ほどおっしゃっていた『侍女として働く』というお話ですが……本当に、私のようなものでよろしいのでしょうか」
私は自分の荒れた手を見つめた。聖女としてではなく、書類仕事のせいでインク汚れが染み付き、ペンだこができた、およそ令嬢らしくない手。
「私は、特別な魔法も使えませんし……前の職場では『無能な偽物』だと、そう言われていた身です。お役に立てる自信がありません」
私が俯くと、アルフレッド様はフッと短く笑った。
「無能、か。君を拾った時に見たが、その手のたこは、並大抵の努力でできるものではない。それに、このスープを飲んだ後の礼儀正しい所作……君が言う『無能』が、いかに的外れな評価かは、少し見ればわかる」
アルフレッド様の蒼い瞳が、私を真っ直ぐに見つめた。
「リリア。私は、肩書きや噂で人を判断しない。私の城で働く以上、見るのは君の『仕事』だけだ。まずは執務室の雑用から始めてもらう。嫌か?」
「いえ! 働かせていただけるなら、何でもいたします。……恩返しをさせてください」
「……殊勝だな。では、明日から私の執務室へ来い。まずは簡単な書類の仕分けからだ」
翌朝。
私は貸し出された清潔な侍女服に身を包み、アルフレッド様の執務室へと向かった。
扉を開けると、そこには……以前の王宮に負けず劣らずの、恐ろしい量の書類の山があった。
ラグナート王国は効率化を重んじる国だが、それでも軍事や外交の資料は膨大らしい。
「リリア、悪いがそこの棚にある報告書を日付順に並べておいてくれ。それから、重要度が高そうなものには付箋を……」
「承知いたしました」
私は無意識に、体が動いていた。
日付順? そんなのは基礎中の基礎だ。重要度の選別? 内容を斜め読みすれば、どの予算が急ぎで、どの報告が形式的なものか、数秒で判断できる。
アルフレッド様が自分の仕事に戻ったのを確認し、私は静かに作業を開始した。
前の王国では、エドワード殿下の罵声を浴びながら、この数倍の量を一人で捌いていたのだ。それに比べれば、この静かな部屋での作業は、まるで天国での遊びのようだった。
一時間後。
「リリア、すまないが、並べ終わったら別の……」
アルフレッド様が顔を上げ、言葉を失った。
棚には、完璧に分類された書類。
重要度別に色分けされた付箋。
さらには、不整合があった箇所に「要確認」のメモまで添えられている。
「……終わったのか? 全て?」
「はい。不躾ながら、日付だけでなく内容ごとに分類し、不備があった箇所もまとめておきました。……やりすぎでしたでしょうか?」
前の王宮では「余計なことをするな、無能でいろ」と怒鳴られていた。
不安になって身を竦める私に、アルフレッド様は目を見開いたまま歩み寄り――。
「……リリア。君は、自分の価値を全く分かっていないようだな」
彼が私の頭にそっと手を置き、優しく撫でた。
初めて触れられた熱に、心臓が大きく跳ねる。
「完璧だ。……こんなに早く、正確な仕事ができる人間を、私は他に知らない」
「……っ」
初めて。
自分のした仕事に対して、真正面から「完璧だ」と言われた。
視界が、じわりと滲む。
ああ、私は、この言葉が欲しかったのだ。
「ありがとうございます……アルフレッド様」
私の頬が、喜びでほんのりと赤く染まるのを、アルフレッド様は驚いたような、どこか愛おしむような眼差しで見つめていた。
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