表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無能でいろと言ったのはあなたでしょう? 〜「偽聖女」と追放された私ですが、隣国で女神として幸せをつかみます!〜  作者: 甘い肉うどん
第一章 隣国で女神として幸せをつかみます!

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/11

第二話 『偽聖女』なんかじゃない

第二話です。ここからリリアーヌは新天地へと向かいます。

王宮の勝手口。夜の闇に紛れて城を去ろうとする私の前に、人影が立ちはだかった。

 エドワード殿下の追手かと思い、私は一瞬身を強張らせる。


「……リリアーヌ様。本当に行ってしまわれるのですか」


震える声の主は、近衛騎士団長のガイルだった。その後ろには、メイド長のマルタや、泥にまみれた見習い騎士たちの姿もあった。


「皆さま、どうしてここに……。殿下に見つかったら、お叱りを受けますわ」

「そんなことはどうでもいいのです!」


普段は冷静なガイルが、声を荒らげた。彼は私の前に跪き、拳を握りしめる。


「我々騎士団が、今日まで五体満足で戦ってこられたのは、誰のおかげだと思っているのですか。殿下は『俺のカリスマが士気を高めている』などと抜かしていますが、戦場で傷ついた我々を、深夜に人知れず癒やして回っていたのは、あなただ……!」


「リリアーヌ様、これを持って行ってください」


メイド長のマルタが、ずっしりと重い袋を私の手に握らせた。中身は、金貨と保存食、そして丁寧に畳まれた一着の旅装束だった。


「これは、私たち使用人一同で出し合ったものです。聖女予算を削って私たちの給料を守ってくださったこと、みんな忘れていません。……あなたは『偽聖女』なんかじゃない。私たちにとっての、唯一の光です」


視界が、急に熱くなった。

 三年間、一度も泣かなかった。どれだけ罵倒されても、どれだけ不眠不休で働いても、「無能」のレッテルを甘んじて受け入れてきた。それが私の役割だと自分に言い聞かせて。


けれど、今、初めて胸の奥が震えた。


「……ありがとうございます。でも、私が行かなければ、あなたたちが殿下に何をされるか……」

「ご心配なく。我々も、いつまでもあのような暗君に従うつもりはありません」


ガイルは顔を上げ、決然とした目で私を見た。


「リリアーヌ様。どうか、これからはご自分のために生きてください。誰かの影ではなく、あなた自身の光で、世界を見てきてください。我々はここで、あの方が犯した過ちの報いを見届けることにします」


ガイルは腰の短剣を抜き、その鞘を私に差し出した。


「これは私の私物です。護身用にお持ちください。……いつか、あなたが本当の意味で笑える日が来ることを、心から祈っております」


私は、震える手でそれらを受け取った。


「……さようなら。皆さんのことは、決して忘れません」


私は深く、深く頭を下げた。王妃になるための儀礼的な礼ではなく、一人の人間としての、心からの感謝を込めて。

 顔を上げると、見送りの人々も皆、涙を堪えながら私に敬礼していた。


こうして私は、初めて王宮を、そして国を捨てた。

 重い城門を抜け、暗い街道を一歩、また一歩と進んでいく。


背後にそびえる王宮を見上げると、エドワード殿下の寝室がある塔だけが、傲慢なまでに明るく輝いていた。

 明日から、あの場所で何が起きるのか。

 山積みの書類。

 更新の途絶えた魔導結界。

 治療を待つ負傷兵。

 そして、何も知らない「本物の聖女」様。


(……もう、私の知ったことではありませんわ)


私は前を向いた。

 どこへ行くかも決めていない。身分も、地位も、家も失った。

 けれど、不思議なほど足取りは軽かった。

 

 私は歩き続ける。

 夜が明け、朝日が昇り、道端に咲く名もなき花が露に濡れているのを見つける。

 そんな些細な景色が、三年間、窓のない執務室に籠もっていた私には、何よりも美しく見えた。


だが、現実は甘くない。

 不眠不休のブラック労働で削り取られた私の身体は、思っていた以上に限界を迎えていた。

深い深い森の中で、急に視界がぐにゃりと歪む。


「……あ……」


膝から崩れ落ち、冷たい地面が頬に触れる。

 重い瞼を閉じながら、私は遠くから聞こえてくる馬の蹄の音を、夢心地で聞いていた。

よければブックマーク、評価をお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ