第十六話 聖女争奪戦 part2
どんどん戦いが激化していきます。
王宮の廊下は、魔法の火花と剣戟の音で埋め尽くされていた。
「くっ……! 数に際限がないな。エドワードめ、国費のすべてを闇ギルドへの依頼に注ぎ込んだか」
アルフレッド様は私を背後に庇いながら、次々と襲いくる黒装束の暗殺者を斬り捨てていく。だが、相手は正々堂々とした騎士ではない。毒、煙、そして死角からの不意打ち――卑劣な手段を厭わない影の集団だ。
「アルフレッド様、危ない!」
私の叫びと同時に、床から漆黒の棘が突き出した。
アルフレッド様は即座にそれを回避したが、その瞬間、私たちの間に「深淵の壁」が立ち上がった。
「――!? リリア!」
「アルフレッド様!」
闇ギルドの禁術。視界と音を遮断する高濃度の魔力壁だ。
壁の向こうでアルフレッド様が剣を叩きつける音が聞こえるが、壁はびくともしない。そして、背後の闇から、聞き覚えのある不快な高笑いが響いた。
「無駄ですよ、お姉様。この壁は、中の者が死ぬか、術者が満足するまで解けませんわ」
煙の中から現れたのは、ミスティだった。彼女は狂気を孕んだ笑みを浮かべ、手に持った奇妙な魔道具を起動させた。
「さあ、お帰りなさい、リリアーヌお姉様。エドワード殿下がお待ちです。……あなたのその豊かな魔力を、再び私たちのために捧げてもらうためにね」
「断ります! 私はもう、あなたの道具じゃない!」
私は全力で聖力を練り、光の障壁を展開しようとした。
しかし、ミスティの背後に控えていた闇術師たちが一斉に呪文を唱えると、私の足元に複雑な魔法陣が浮かび上がった。
「ぐっ……!? 力が……」
「無駄よぉ。これは、あなたの聖力を逆に『毒』に変える術式。抗えば抗うほど、あなたの体は内側から焼き切られるわ」
激痛が全身を走る。膝をついた私の首筋に、冷たい刃が添えられた。
「捕まえた。……さあ、運び出しなさい。殿下の元へ」
視界が真っ暗になる直前、壁の向こうからアルフレッド様の怒号が聞こえた気がした。
「……リリア……! 必ず……殺してでも……奪い返す……!」
意識が途切れる中、私は最後に彼の名前を呼んだ。
◇
数時間後。ラグナート王国の国境近く。
秘密裏に設置された王国軍の天幕の中で、私は椅子に縛り付けられていた。
目の前には、酒の匂いを漂わせ、勝ち誇った顔をしたエドワード殿下が立っていた。
「……久しぶりだな、リリアーヌ。隣国の犬に可愛がられて、少しは良い面構えになったじゃないか」
「……エドワード、殿下……」
エドワード殿下は私の顎を乱暴に掴み、顔を近づけた。その瞳には、かつて以上の歪んだ支配欲が宿っている。
「女神だと? 笑わせるな。お前は俺の足元で這いつくばる、名もなき偽物だ。……さあ、今すぐ俺の剣に魔力を注げ。そして、あの生意気なアルフレッドを焼き殺せ。そうすれば、地下牢ではなく、犬小屋くらいは用意してやってもいいぞ?」
彼は笑いながら、私の頬を強く叩いた。
冷たい床に倒れ込んだ私の耳に、遠くから雷鳴のような音が響いた。
それは、愛する人を奪われ、文字通り「鬼」と化したアルフレッド様が率いる、ラグナート騎士団の逆襲の足音だった。
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