第十二話 王国の追跡
王国の陰謀とアルフレッドがついに対峙します。
ラグナート王国の王都は、近々行われる「女神降臨祭」の準備で沸き立っていた。
主役はもちろん、リリアだ。
アルフレッド様は、私が「侍女」という低い身分のままでいることをよしとせず、この祭りを機に、私を正式な『国聖女』……あるいは、それ以上の地位に据えようと考えてくださっているらしい。
「リリア、今日は祭りの衣装合わせだ。職人たちが待っている。あまり無理をせず、楽しんでおいで」
「はい、アルフレッド様。……あ、あの、殿下も一緒には……」
「ああ、行きたいのは山々だが、あいにく他国からの使者が来ていてね。……すぐに追いかけるから、先に行っていなさい」
アルフレッド様は名残惜しそうに私の指先に口づけをして、会議室へと向かわれた。
私は護衛の騎士たち数人を伴い、王宮内にある別館へと足を運んだ。
◇
別館へと続く、静かな渡り廊下。
ふと、背筋に寒いものが走った。
「……リリア様、どうかされましたか?」
護衛の騎士が異変に気づき、声をかける。
「いえ……少し、懐かしいような、嫌な気配がした気がして……」
それは、前の王国で私を縛り付けていた、あのドロドロとした執着の匂いだった。
その直後。
廊下の天井から、数人の黒装束の男たちが音もなく舞い降りた。
「なっ、何奴だ!?」
騎士たちが即座に剣を抜く。だが、黒装束の男たちは迷いなく、懐から煙玉を取り出し、床へ叩きつけた。
「ゴホッ、ゴホッ……! 聖女様、後ろへ!」
視界が真っ白な煙に覆われる。その混乱の中で、私の耳元に、忌々しい声が直接届いた。
「――見つけたぞ、リリアーヌ様。いや、今は『女神様』だったか?」
ゾッとした。その声は、エドワード殿下の側近であり、私を「便利な魔力タンク」と呼んで蔑んでいた騎士のものだった。
「……あなたたちは……どうしてここに」
「殿下がお怒りだ。無能を演じて逃げ出し、隣国の王子に媚を売るとはな。……お前の帰る場所は、あの中のない地下牢だけだ」
強引に腕を掴まれ、引きずられそうになる。
前の私なら、逆らうこともできずに絶望していただろう。
けれど、今の私は違う。
ここで守ってくれた人々、信じてくれたアルフレッド様の顔が脳裏をよぎる。
「……離して。私はもう、あなたの国の所有物ではありません!」
私は全身の聖力を一気に解放した。
眩い衝撃波が円状に広がり、私を掴んでいた男たちの腕を弾き飛ばす。
「ぐわぁぁっ!? な、なんだこの魔力は……!」
「無能……? 嘘だ、これほどの出力、以前の十倍以上……!」
男たちが狼狽えた瞬間、廊下の奥から爆発的な殺気が押し寄せた。
「――私のリリアから、その汚い手を離せと言ったはずだ」
床を砕くほどの勢いで現れたのは、銀髪を逆立て、瞳を怒りで燃え上がらせたアルフレッド様だった。
彼の持つ聖剣が、一振りで煙を切り裂き、刺客の一人を壁まで吹き飛ばす。
「アルフレッド様……!」
彼は私を片腕で抱き寄せ、冷徹なまでの眼差しで残りの刺客を見据えた。
「エドワードの飼い犬共か。……命惜しくば、主に伝えておけ。これ以上リリアに触れるなら、お前の国ごと踏み潰してやるとな」
アルフレッド様の放つ威圧感に、刺客たちは腰を抜かし、逃げるように闇へと消えていった。
静寂が戻った廊下で、アルフレッド様はゆっくりと私の肩を掴み、その震えを止めるように抱きしめた。
「怖かっただろう、リリア。……すまない、私が目を離したばかりに」
「……いいえ、大丈夫です。殿下が、来てくださったから」
私は彼の胸に顔を埋めながら、確信していた。
もう、あの地獄には戻らない。戻らせない。
けれど、王国の追跡が始まったことで、私の平穏な日々は終わりを告げようとしていた。
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