第7話 相棒との再会
晴れ渡った正午前に豪華な馬車がロドリゲス公爵邸へとやってまりました。
ラピスお嬢さまの許嫁であるフェッツランド王国第二王子アレクサンダー・フェリックス・フェッツランドさまでございます。
門を潜り馬車は屋敷の扉前で止まり、従者の後にブロンドの髪をした落ち着いた雰囲気の美青年が姿を見せました。
「ずっと対面を避けていたロドリゲス公爵が突然ラピス・ローズ・ロドリゲスと対面するように要請してきたのはどうしてか? ラピス・ローズ・ロドリゲスには色々大変な噂があるみたいだが……まさか彼女の醜態を見せて結婚相手が決まっていないが両親から可愛がられていると言われているフローラ・ホワイト・ロドリゲスに乗り換えさせようって訳じゃないだろうな。だが、もしラピス・ローズ・ロドリゲスがアレなら確かめる手段にはなる」
馬車から下りながらぼやくアレキサンダー第二王子の声を聞きながら私は冷静に
「馬車の事故以前ならあり得たかもしれませんけど」と心で呟きました。
現在は恐らく違います。
王妃にはなれないまでも王族の一員になるのだから様々な噂や陰湿ないじめなどに耐え、上手く計らう精神力や知能を必要とします。現在のラピスさまならそれがあると公爵様がお考えになったからだと私は僭越ながら理解しております。
ただ……、そう……ただ、今のお嬢さまの最大の問題は所作でございましょう。
付け焼刃……ではなく、この数日の成果が発揮されるかどうか、私がドキドキしております。
扉の前にはカイン・ジェミニ・ロドリゲス侯爵とラピスお嬢さま、そして、エリザベート公爵夫人が並んで立っております。
許嫁であるアレキサンダー第二王子のお出迎えでございます。
私ことナナリ・ブラウンはもちろん扉を開けるために扉の横手に控えております。もちろん、存在感を消し去って、であります。
ラピスお嬢さまは白銀の髪を結い上げ美しいドレスを身に纏いこの上なく……少々引き攣っているようでございますが笑みを浮かべて
「初めまして。ようこそお越しくださいました」
と綺麗に一礼されました。
及第点の所作でございます。
アレキサンダー第二王子も綺麗に礼をされました。堂々として流石付け焼刃ではございません。
「初めまして、ラピス・ローズ・ロドリゲス嬢。アレキサンダー・フェリックス・フェッツランドです。本日はお招きありがとうございます」
ラピスお嬢さまも極上の笑みを浮かべ
「こちらこそお招きで来て光栄です」
と美しい所作で
「どうぞ」
と館の方へと誘われました。
バッチリでございます!
ロドリゲス公爵とエリザベート公爵夫人の安堵の息が聞こえそうなくらいのお二人の「ふぅ」という息遣いです。
私は扉を開けて頭を下げました。
ロドリゲス公爵は笑顔でエントランスへと招き入れられました。
「どうぞ、アレキサンダー王子」
今日はパーティーではなく許嫁としてお招きしているので館の庭での小さな茶会、そして会食となっております。
茶会のスイーツはシェフが腕を振るいまくったケーキとクッキーが用意され、テーブルに置かれています。
アレキサンダー第二王子が最初に席に座られ、ラピスお嬢さまが向かい合うように座られ、ロドリゲス公爵と夫人が座られました。
ロドリゲス公爵は冷や汗を浮かべつつもここは慣例に従うしかありません。
そう! アレキサンダー第二王子とラピスお嬢さまのお二人の歓談タイムでございます。
夫人も不安そうではありますが笑みを浮かべ唇を開かれました。
「それではここはお二人の時間を楽しんでくださいね」
ロドリゲス公爵もまた引き攣りながらも「では、ラピス。アレキサンダー王子との話を楽しみなさい」と立ち上がり立ち去りました。
涼やかな風が流れ庭の花や木々がゆるりと揺れております。
最初に唇を開いたのはラピスお嬢さまでございました。
「アレキサンダー王子、今のこのラピス嬢は本物のラピス嬢じゃない。なので、ここで無作法があったとしても本物になればちゃんと礼儀作法がされると思ってくれ」
……。
……。
初っ端からぶっ放しました。いえ、さ、さ、最初が大事という事でございましょう。
私は凍り付きました。
いえ、私だけではなく給仕担当の従者も凍り付いております。
しかし、放ったモノは戻りません。
マジか! でございます。
アレキサンダー第二王子はピクリと眉を動かされたままお嬢さまを見ておられます。
「なるほど、今のラピス嬢はラピス嬢ではないと……だとすれば、今のラピス嬢は何者でしょうか?」
驚かれないのでございますかぁ!? またもやマジか! でございます!!
冷静過ぎます!! アレキサンダー第二王子!!
私が焦ってしまいます。
「俺は鳥飼翔という警察官だ」
「警視庁生活安全課品川中央署品川駅西交番勤務の鳥飼翔か」
「ああ、そう……!! は?」
ラピスお嬢さまが驚いて立ち上がられました。日頃は私たちが驚く方でしたが今日は反対のようでございます。
というか、アレキサンダー第二王子も宇宙語を喋っておられます。どういうことでございましょうか!?
「俺は警視庁生活安全課品川中央署品川駅西交番勤務の……松田貢巡査だ。っていうか!! 鳥飼!!」
「マジか!? おま、おま……松田ぁ!!」
お二人とも立ち上がると強く強く抱きしめ合っておられます。美しい令嬢と美しい王子との抱擁シーン、お美しゅうございます。
もちろん、事情が何となく分かりますので素直には喜べませんが目の保養にはなります。
ラピスお嬢さまは少し離れると泣いております。
「お前とまたこんな風に会えるなんて思ってなかったぜ」
「ああ、俺もだ。ただ、ロドリゲス公爵家で警察隊って言うのが発足したって聞いたから興味はあった。お前だろ! 鳥飼!」
「ああ! だってよ、騎士はいても国民を守ってはいねぇんだぞ! マジか! だぜ」
「ああ、俺も目が覚めて驚いた。けど、お前勘違いしてる」
「は?」
「俺も目が覚めた当初は他にアレキサンダー第二王子がいて俺が割って入ったって思ってた。妹の加知子が良く読む異世界転生の話のような奴かとな。けど、そうじゃないみたいだ」
「それどういうことだ?」
「お前、元々からラピス・ローズ・ロドリゲスだってことだ」
え? えぇえええ!! 私は思わず後ろで控えながら心で叫び声を上げました。
『鳥飼翔、男だ』と仰っている現在のラピスお嬢さまが、元々のお嬢さまとは到底思えません!
もちろん、蒼褪めながら顔を引きつらせつつ私は黙って立っております。いえ、給仕をしている従者も皿を持ったまま固まっております。
当然でしょう! と私は思いながら会話に聞き耳を立ててしまっております。
「おい、どういうことだ? 俺は変な形でこの女性の身体を乗っ取ったと思っているんだが」
それにアレキサンダー第二王子が小さくため息をつかれました。
「俺もそう思っていた。だが、王族専属魔術師のオリヴィア・アメリア・ルーカスが当時の俺を含めて貴族の子供たち数十人が魂がなく何者かに操られている状態だと旅の魔導士から言われて調べたら、その子供たち全員に魂の糸だけがあり異世界へ繋がっていたそうだ。同時にその身体は何者かの魔法で操られていたという事だ」
「……待て! 松田。それをお前信じたのか?」
「証拠があるんだ。その全員が廃嫡寸前の問題児で……同時に全員が魔力が高かったということ。それに、お前は知らないだろうが、身体に傀儡の魔法陣が書かれていたんだ」
「元の魂が戻ると消え去ったが、俺は何人かを見てきた」
お嬢さまは腕を組み顔を顰められております。お嬢さまはこれまで『自分は何時かこれまでのラピス・ローズ・ロドリゲスが戻れば消える』と思っておられたし、そう言ってらしたのですから無理もございません。
男と思って育って……今さらお美しい令嬢さまでした~ウフッ、と言われてもそれこそ本当にマジか! でございましょう。
あ、私、涙がこぼれて止まりません。
「……何で、お前達が泣いてるんだ。ナナリ」
お嬢さまに言われて私は涙を拭いながら頭を下げました。
「男としてお育ちなのに突然元々は女性であったと言われてショックだと思いまして」
「優しいな」
そう微笑まれた表情も男前でございます。
「だが……もしそうなら、反対に大勢の人間をそんな風に傀儡にしていた奴がいるってことだ。警察官として見逃すわけにはいかねぇな。だろ? 松田」
「ああ、鳥飼ならそう言うと思っていたぜ。お前が俺の許嫁なら……一緒に今何が起きているか突き止められる」
「ああ、もちろんだ。お前が許嫁で良かったぜ」
「俺もだ」
私を含め従者全員が思わず両手を叩きました。
「ご成婚おめでとうございます」
そう気分だったのでございます。
ラピスお嬢さまとアレキサンダー第二王子は椅子に座られスイーツを食べながら談笑……ではなく事件の話を始められたのでございます。
色気も糞もございません。




