第5話 ロドリゲス公爵の悩み
ロドリゲス公爵ことカイン・ジェミニ・ロドリゲスは悩んでいた。
彼の娘ラピス・ローズ・ロドリゲスは見た目だけは美しく彼の妻のローズマリーと同じ白銀の髪が清楚さを醸し出してどこに出しても恥ずかしくない令嬢であった。
見た目だけは……である。
性格はわがままに輪をかけて癇癪持ち。
手の付けようがなかった。
原因はカインにも分かっていた。
元々、公爵令嬢と言う自負が強すぎたという事が災いした上に妻のローズマリーがラピスの幼少の頃に亡くなり、後妻のエリザベートの連れ子のフローラを先に社交界にデビューさせてしまったことが大きくラピスをひねくれさせたのだ。
だが、少し前に起きた馬車の脱輪事故にあいラピス・ローズ・ロドリゲスは人が変わった。
言葉や行動がまるで男のようになった。
それ以上に侍女や義妹のフローラに優しくなり、わがままも癇癪も無くなった。
全くの別人格であった。
カインは広々としたロドリゲス公爵邸の執務室で大きく息を吐き出し手にしていたペンを震わせた。
「傍若無人天上天下唯我独尊だったラピスが……人を大切にするようになったとは信じられないが、今では領地領民のことまでも考えるようになって」
素晴らしい変化は変化だが別人過ぎる。
正に「あの事故の時に我が娘に何が起きたのか?」である。
その娘、ラピスが先ほどカインの元に彼女が発足させた『警察隊』で保護した少年を連れて姿を見せたのだ。
彼女の片腕として付けたアーサー・ラサールも彼女に付き従っていた。
ラピスはカインの前に立ち
「実は先ほどベイリー伯爵の船より少年が飛び出してきたので保護いたしました」
と第一声で告げた。
「少年の話では魔力テストを行い魔力のある子供を『王都の魔法学校に入れると嘘をついて誘拐していた』という話です。少年の連れの子供二人は殺されたという話で、他でも同じような噂があるようなのです」
カインはラピスの言葉に驚くとアーサー・ラサールを見た。
本当なのか? と思ったのである。
アーサー・ラサールは静かに頷くと
「恐らく事実だとと思われます。ベイリー伯爵の船の船員を問いただそうと思いましたが逃げるように出航いたしました」
と告げた。
「証言はまだシャール・スミスというこの少年だけのものなので事実かどうかを調べるべきだと思います。もし事実なら魔力のある子供たちをベイリー伯爵は攫っているという事になります。何をしようとしているのか」
確かにそんな子供たちを集めて何をしようとしているのか気にはかかる。
貴族でも。市井の人間でも。魔力のある人間はいる。
カイン自身は魔力がないのだが、妻のローズマリーには魔力があった。
なので、娘のラピスには魔力がある。後妻のエリザベートにも魔力があったのでフローラにも魔力はある。
魔力量はラピスの方が上だったが父であるカインへの反発で勉強をしていなかった。フローラは素直に勉強し風の魔法が長けており扱えるのだ。
カインはチラリとラピスを見た。
「ラピス、お前にも魔力があったが……使えるか?」
ラピスは目を見開くと
「はぁ!!? 魔力って魔法が使えるのか―――!!? マジか!」
と叫んだ。
カインは深く息を吐き出して頷いた。
「ああ、魔法の勉強を拒否していたので勉強すれば使えるようになると思うが」
アーサー・ラサールはそれに話が脱線しては困ると言わんばかりに
「それで、公爵。真偽を確かめるご許可を頂けますでしょうか? それと今後ベイリー伯爵の船舶を調べる許可も」
と告げた。
「ベイリー伯爵には黒魔術を使ってフェッツランド王国を転覆させようとしているという噂もあります。もしその武器や人員などをロドリゲス公爵領内の港から受け入れていることになってしまっていたら、ロドリゲス公爵家にも災いが降りかかることは違いありません。正教会のキャンベル公爵にもその件を言えば強くは出ないと思います」
カインはそれに息を吐き出すと
「確かにそれは由々しき問題だ」
と言い
「わかった、今回のことがあったのでベイリー伯爵には調査の事情を話せるので許可する。問題は魔力のある子供たちを集めているかの調査だな」
と告げた。
それにラピスが
「それに関しては俺が調べようと思う」
と告げた。
カインは思わず
「それはダメだ! ラピス、お前は仮にもロドリゲス公爵家の娘だ。無茶をして何かあっては後継問題に発展する」
と怒鳴った。
ラピスは冷静に
「フローラを後継にするつもりだったと噂では聞いたんだが」
と言い
「俺はそれで良いと思っている。俺は治安を守る方が性に合っているし警察隊をしっかりしたものにしたいと思っている」
それに俺は捜査の仕方も分かっている。と返した。
確かにラピスが事故に会う前は妹のフローラをと思っていたが、今のラピスなら領地を良い方向に導いてくれるとカインは考えていた。
カインは目を細めると
「まだ決めていない」
と返し、フゥと息を吐き出した。
「だが、確かにこのまま調べずに放置して王族やフェッツランド王国に大きな陰りが出ては問題だ。ラサール、お前と数名兵を選び出して調べるように……その都度私に報告をするように」
そう言って睨むラピスを横目で一瞥し
「それとラピスにも報告……いや、一応ラピスの指示を受けるように」
と付け加えた。
ラピスは息を吐き出し
「だったら俺も受け入れよう、親父。捜査に関しては指示と報告のみで、俺は主にこちらの巡回の徹底をする」
と告げた。
カインはフフッと笑いを零すと
「それとな。ラピス、お前には公爵令嬢としての教育を再度行う」
と告げた。
ラピスは目を見開くと
「はぁ!? お、俺がか? 行っておくが……俺は本当は鳥飼翔で一時的にこの身体を借りているだけだ。彼女が戻れば俺はどっかへ行くんだからそんなことをしなくても」
と自らを指さして告げた。
カインは笑みを深めた。
「ああ、ああ。そうだったな」
以前とは正に別人だがその別人が本当の別人なのかは分からない。
カインはそう考え
「だが、それがいつか分からないだろう? 女神ソフィアの恩恵が死ぬまで続く可能性がある。だから何があっても公爵家の令嬢として恥ずかしくないように教育をし直す」
と宣言した。
ラピスは「マジか!」と叫んだ。
だが。
だが。
「わかった。ラピスも俺が何もしていなかったせいで世間知らずと言われたら可哀想だからな」
そうラピスは頷き
「教育は受けるが先の件はやるからな」
というと踵を返して部屋を後にした。
カインはハァ~と息を吐き出した。
そして残ったアーサー・ラサールに
「ラサール、気を付けて調査を頼む」
と告げた。
アーサー・ラサールは笑むと
「かしこまりました」
と答え
「公爵、今のラピスお嬢さまなら良い公爵夫人になると私は思います」
突拍子もないところもありますが、と笑みを深めて一礼すると踵を返して立ちさった。
カインはそれに
「だから複雑だというんだ」
と独り言をつぶやいた。
わがままで癇癪持ちで困った娘で避けていた。だが、そうさせてしまったのは自分自身だ。
カインは息を吐き出し
「ラピスを愛していなかったわけではない。だが……公爵家という家名を考えるとフローラを優先せざる得なかった。血じゃない領地を守ると思えばだ。だが今のラピスを見れば文句が出るはずがない」
と呟いた。
それでも人間が180度変わるなど普通ではない。
「あの事故の時に何が起こったのか」
カイン・ジェミニ・ロドリゲスの悩みは尽きなかった。
しかし、もっと彼を悩ませる事態が発生するのであった。




